今はまだぬるま湯に浸かっていたい

マクロスΔ

「あ、フレイアさん。ちょうど良かった、これ」

「なんね、これ?」

差し出されたカードにフレイアは首を傾げたが、その人はとフフっと笑うだけで去っていってしまった。
裏を返せば、「海岸で待ちます」とのメッセージが見えた。それを見たフレイアはんん?と腕を組んで首を傾げる。

「海岸に来て欲しいんなら、今言えば良かったんじゃないかね?」

てっきり彼女からのメッセージだと思い込んだフレイアは「行けばいいんやね」とポケットにそのカードと突っ込んだ。
ポンッとポケットを叩いて「レッスン、レッスン」とワルキューレメンバーがいるレッスン場へと戻っていった。
レッスンも終わり、ダンスが上手く踊れないのを「うぅ〜」と呻きながらも汗を流してから、遅れないように支度をしていた。
それに気づいたマキナはどうしたのかと、話しかけた。

「フレフレ、どうしたの? 何か用事?」

「ごはん……一緒に食べないの?」

いつもなら裸喰娘娘で夕飯を一緒にとっていたからか、レイナも問い掛けた。

「用事があるんよ。すみません、お先に失礼します!」

敬礼するかのように挨拶をして、フレイアは飛び出していった。

「ハヤテくんと何か約束してたんじゃない」

鏡に向かい、化粧しながらカナメは笑みを浮かべていた。「仲が良いわよね」なんて思っていると、マキナが人差し指を顎につけ、「んー、そうかなぁ」と訝しげに唸った。
もし、そうだとしたらフレイアの事だ。「ハヤテと約束があるんよ」と言いそうである。
でもフレイアが急ぐ用事なんて、ハヤテ以外考えられないワルキューレメンバーは「まぁ、いいか」とそれぞれ支度をして、部屋から出た。
裸喰娘娘で今日は何を食べようか、などと話していれば、前方の通路から訓練を終えたのかハヤテとミラージュが歩いてきた。

「あら?」

カナメの声に、ハヤテとミラージュはワルキューレに気づき、ミラージュは礼儀正しく、ピシッと姿勢を正した。

「お疲れ様です」

「お疲れ、ミラミラにハヤハヤ」

「お疲れ様」

「お疲れ様です」

ハヤテも新米ということで、一応頭を下げて来た。

「ハヤハヤ、こんな所で何してるの?」

「は?」

「フレイアはもう行った」

「は?」

マキナとレイナの言葉に意味が分からないとばかりに首を傾げ、フレイアの姿がない事にワルキューレの後ろの方を覗いたが、無論彼女の姿はない。

「フレフレと約束してたんじゃないの?」

「別に約束はしてないけど?」

「えー?」

マキナとレイナはハヤテの言葉に顔を見合わせた。それはカナメも同じだった。
ちなみに三雲は既にどこかに行ってしまっていたが、ミステリアスヴィーナスはいつも通りである。

「てっきり、一緒なんだと思ってたわ」

「あいつ、どっかに行ったのか?」

「フレフレなら約束があるからーって先に行ったんだよ」

「へぇ…」

珍しいな、なんて思っていると、誰かの会話が聞こえてきた。

「とうとう呼び出したのかよ、あいつ」

「ああ、伝言頼んだんだってよ」

「可愛いよな、フレイアちゃん」

「ワルキューレメンバーだけど無邪気だし、明るいし」

「今頃、あいつ告白してるのかね」

聞いていたハヤテは勿論、ミラージュもワルキューレも「えっ」とこぼしたのは言うまでもない。レイナはニヤニヤ笑っていたが。
ハヤテは足早に会話をしているクルーに話しかけた。

「今の…」

「うわっ!ハヤテ・インメルマン!」

「今の話、マジ?」

「あ、ああ」

「どこ?」

「え、…………海岸」

言っていいものかと迷う彼らだったが、ハヤテの表情があまりにも無表情で怖くなり、ボソリと呟けば、ハヤテは走り去っていった。

「ハヤテくんっ?!」

「ハヤテっ!」

カナメとミラージュは声を上げるが、マキナは「きゃーん」と声を上げ、レイナは「カップル誕生…」などと言っていた。


その頃、フレイアはカードを持って海岸まで向かっていた。
しかし、カードを渡してきた人の姿は見れなく「どこかいな?」と腕を組んでいる。

「フレイアちゃんっ!!」

いきなり後ろから大きな声で呼ばれ、フレイアは「は、はいぃぃ!」と大きな声で返事をした。
振り向くと、どこかで見たことがある人が立っていた。

「来てくれたんだね、良かった!」

「? もしかして、これをくれた人かね?」

「は、はいっ!俺です」

「そ、そうやったんか。それで何か用事なんですか?」

14歳にしては小さいフレイアは目の前に立つ人を見上げ、じっと見つめるとその男はぐっと顔を赤くした。

「あ、あの……」

「はいな?」

「は、ハヤテ・インメルマンと……その、仲が良いよね…」

「ハヤテ?」

ハヤテの名前にフレイアは首を傾げた。
確かにフレイアとハヤテは仲が良いといってもおかしくない。
フレイアにとってはハヤテは命の恩人であり、密航したことやアルシャハルからラグナまでの渡航をみてくれた、大恩人である。
ワルキューレオーディションについて、散々フレイアに「落ちる、落ちる」とバカにしていたが、何だかんだと面倒を見てくれた、優しい人である。

「そやね、仲よしやね」

「………」

うひひ、と頷いて笑ってみせれば相手は黙ってしまった。どうしたのかと、顔を覗き込めば肩を掴まれた。

「ほぇっ?!」

「お、俺っ「フレイアっ!」」

「ハヤテ」

彼が何か言おうとした時、聞きなれた声がフレイアを呼んだ。
振り返れば、そこにはハヤテの姿があり、フレイアのルンが少し光ったのだった。


ハヤテはフレイアを見つけるなり、眉を潜めた。
フレイアの細い肩が掴まれているのだ。掴んでいるのはケイオスの、エリシオンで見たことがあるような気がする。

(つーか、いつまで掴んでんだよ)

「ハヤテ? どうかしたんかね?」

こちらを振り向いたフレイアがあまりにも呑気過ぎて、ハヤテは頭が痛くなる気がした。

「どうしたって……」

ギロリ、と一瞬だけ男に視線を向ければ、彼は慌ててフレイアから手を放した。
それに対してフレイアは「??」と頭に疑問符を浮かべている。
ハヤテはフレイアに近づくと、然り気無く相手からフレイアを遠ざけた。

「お前、夕飯どうすんだ?」

「? 食べるよ」

「どこで」

「裸喰娘娘………っとお、ハヤテ?!」

裸喰娘娘の名前が出たことで、ハヤテはフレイアを掴んで歩き出した。

「なんだよ」

「ちょっ、ちょっと待つねん!この人、なんか用事あるみたいなんよ」

ぐぐっと踏ん張り、そこに立つ人物を示す。
フレイアには分かってないのだろうか、と気づかない彼女にハヤテは頭が痛くなる。

「ちょっと待っとって!」

「フレ…「で、なんか用あるんよね?」」

両手を後ろに組んで、首を傾げ覗き込む仕草を見せるフレイアに相手は顔を赤らめ、ハヤテはガリガリと頭を掻いていた。

「え、えーと……」

「?」

ギラリと睨んでくるハヤテに怯えながらも、青年は意を決したように声をあげた。

「ず、ずっと可愛いと思ってました!応援してます、これっ、プレゼントです!!」

「は、はわぁ〜」

バッと差し出された黄色い花にフレイアは目を輝かせた。

「ありがとねー」

嬉しそうに受けとるフレイアを見届けてから、その青年は「じゃ、じゃあ!失礼しますっ!!」と去っていってしまった。

「ほぇ〜」

足早いんやねぇ。とどう考えても場違いな発言をするフレイアにハヤテは頭を掻きながら、ちらりと見る。
フレイアの手には黄色の花束が握られていた。それを嬉しそうに見つめるフレイアに意味もなくイラッとしてしまう。

「…………フレイア」

「ハヤテ?」

「メシ、食いに行くぞ!」

「ほ、ほわぁ!いきなり掴むなぁ」

腕を取り、ずんずん歩いていくハヤテにフレイアはうひひ、と笑った。
その笑い声にハヤテは振り返り、いつものように軽口を叩いた。

「やっぱ、その笑い方気持ち悪いよな」

「なんやてー!」

「おっと……!」

「ほんっと、一言多い男やね!全くモテんよ、そんなんじゃ!」

「へいへい……………別にモテなくてもいいっつーの」

「? なんか言ったかね?」

「別にー」

自分でも分からないが、モテなくても構わないと思った。振り向けば、へらりと笑う顔があればと思う。
だが、手にある花束が無性に腹が立って、取り上げたくなったがそれを見て笑うフレイアがなんだか綺麗で。
少しだけ、ムッとしながらも裸喰娘娘へと向かう。
この気持ちはなんなのか、まだ知らない方がいい。彼女を恐がらせたくないし。
今度、何か、彼女に渡してやるなんて思いながら。
二人は手を繋いで歩いて行ったのだった。






END
2016/06/09


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