籠に入れた筈の小鳥は飛び立っていた
「フレイア・ヴィオン。お前の処遇は追って沙汰をする、連れていけ」
キースの声が響き、フレイアは身体を強張らせた。
「「ハッ」」と重なる声にフレイアはビクリと肩を震わせる。青くなっているルンが彼女を怯えさせているのは明らかであった。
ボーグは「未熟者の裏切り者め」なんて悪態をついているが、フレイアは身体を押さえつけられている為に振り向くことすら出来ない。
怯えるフレイアに「とっとと歩け!」と促したのはザオであった。テオは無言のままフレイアを拘束している。
連れて行かれたのは、ウィンダミア城の地下牢であろうか。中に押し込まれ扉を閉めれば、見張りがいようとも、意外にも重い扉が中の声を遮っていた。
押し込まれたフレイアは「うぇっ!」と変な声を出し、それに反応したのはザオであった。
「なにが「うぇっ!」だよ、このバカっ!」
「ふ、ふぇ?」
「なんっで、お前がワルキューレにいるんだよっ!!」
「ちょ、ちょっと待たんかね。ザオ」
「待つか!!アホ!テオも何、黙ってんだよ!」
ザオの一言にフレイアもテオを見るが、あまりにも無表情といっていいのか、なんなのか、はっきりいって怖い。
フレイアは昔からの経験上、好戦的なザオよりもテオの方が時に怖かった。
「テ、テオ?」
「……………」
「ひ、久しぶりやねぇ……」
うへへ、と恐る恐る告げれば、ザオは「あーぁ、バカだ」と呟いた。咄嗟に「なにおう!」と文句が出なかったが、ピクリと動いたテオの方が気になった。
「…………………………久しぶり……?」
「う、うん……そうやね。何年ぶ「お前は 何を 言って いるんだ?」」
言い聞かせるように一語一語強調するように話すテオにフレイアは思わずザオの後ろに隠れた。というより背中を押した。
「おまっ!フレイア!何すんだ、バカ!!」
「だ、だってだって!テオが怒っとる!」
「当たり前だろ!本当にバカだな、お前!」
「なんやてぇー!ザオだって「フ レ イ ア ?」は、はいっ!!」
ザオ越しに肩を掴まれ、フレイアは救いを求めるようにザオを見るが、ぐいっと顎を掴まれた。
「今は、ザオじゃなく、俺が呼んでいるんだが?」
「わ、分かっとるよ、テ、テオ」
「ふーん?そう…?」
「ひゃ、ひゃい……」
のし掛かるような重圧にフレイアは涙目である。
実は彼らは小さい頃からの知り合い──というよりは幼馴染みといってもいい程であった。
小さい頃、テオとザオは商家である親と共にりんご農園へ遊びに来ていた。親の仕事の手伝いといえば聞こえはいいが、遊んでる方が明らかに多かった。
そこで、りんご農園の次男坊の所に遊びに来ていたフレイアと出会った。
四人は歳が近いこともあって、すぐに仲良くなり遊んでいた。一番年下であるフレイアは女の子でもあるが、次男坊とザオによくいじられていた。彼等なりに可愛がってはいたのだろうが、度を越すと泣きつくのはテオである。
双子とはいえ、兄であるテオは年下のフレイアは守らねばならない存在だったのは言うまでもない。
商家を継ぐ訳でもなく、空中騎士団を目指し、軍に身を置いたのは、ウィンダミアを──ひいてはフレイアを守りたいからであったのに。
軍人学校に行ってる間に、フレイアはウィンダミア以外の音楽(穢れた唄)に熱中し、しまいにはワルキューレになりたい!という始末。
軍人になった彼らはそれを知らずに、家からフレイアはあの次男坊と結婚する話になっていると聞かされたのも束の間、フレイアが行方不明になったと連絡が来た。
どうしたんだ、どこにいったんだ、と探そうにも、近々宣戦布告を行うというウィダミアの為に、探しに行けるはずもなかった。
まさか、ワルキューレの一員になっているとは、テオとザオは思うだろうか、思う訳がない。
ワルキューレがワクチンライヴを行うという惑星ランドールで見たときは呆然としたのは言うまでもない。
ボーグがフレイアの事を「臭い風」だの「裏切り者だ」と煩いのを何度か殴ってやりたかったが我慢した。寧ろ、こちらがフレイアを殴ってやりたかった。
テオはヘラリと笑うフレイアを見つめた。
少しひきつっているのは怒りを感じているからだろう。勿論、怒ってはいる。だが……。
フレイアの肩に力を込め、手を振り上げると、彼女は覚悟を決めたのか目をぎゅっと瞑った。
ザオも先程までの怒りはどこに消えたのか、止めようと手を伸ばしてくる。
次の瞬間、フレイアは温かいぬくもりに包まれた。
「うぇ?!」
「テオ?!」
驚きの声があがるが、テオはそれを綺麗に無視した。
「心配したんだぞ、このバカ!」
そう告げれば、綺麗な翠色の眼は大きく見開いた。なにかを言おうと口を開こうとするが次いでくる衝撃になにも言えなかった。
ザオも二人まとめて抱きしめてきたのだ。
「ザ、ザオ?」
「煩い、このバカ、アホ」
「な「ザオも心配してたんだ、フレイア」
「テオ!何言って…………まぁ、気になってたけど……」
「───っ! ご、ごめんなさい………ありがとう…」
縋りつくように抱きついてくるフレイアに、二人は顔を見合せ、ふわふわな頭を撫でた。
殊勝にも謝る彼女にワルキューレを辞めさせ、知っているかは不明だが相手側の情報を引き出させて、自分たちがロイドやキースに取りなしてやろうと思っていた。
暫くは監禁することになるかもしれないが、命の保証がされるならば、なんとかしてやろうと。
しかし彼女は「歌う事が好き!私はこの歌で銀河を救ってやるんね!」と訳の分からない宣言をした。
いくら顔馴染みがいるからとはいえ、敵陣で宣言するバカがいるんだろうかと頭を抱えたテオとザオであった。
奇襲でウィンダミアに潜入してきたワルキューレと地球人に、フレイアが奪還されるのは間もなく事だとは知るよしもなかった。
迎えに来た地球人を見たフレイアのルンが光輝き、テオとザオは抹消リストにハヤテの存在を加えたのは言うまでもないことであった。
「「アイツ、ボコボコにする!!」」
END