03

今日からマ王

カラカラと車輪が回り、一台の馬車が眞王廟から血盟城へと向かっていた。
中に乗っていた深桜は、物珍しく窓から外を眺めた。

「珍しい?」

「うん。だってこんな街並みとか中世のヨーロッパとかみたいじゃない」

その様子を見て村田は微苦笑した。なんだか年上のわりに可愛らしい。
きゃっきゃっとはしゃぐ姿にウルリーケから聞いた話を思い出した。

「彼女は本当に彼が助けたのかい?」

村田の質問に言賜巫女ウルリーケは「はい」と答えた。

「ユーリ陛下をこちらにお呼びする数年前の事でした。眞王陛下からお言葉がありましたのは」

「…………」

「ある娘を自分がいる空間に留まらせている。平和な時代が来た際、その娘をそちらに送るので、時の魔王から力を与えてもらい、目覚めさせ──幸せになるよう生かせ、と」

「ウルリーケは彼女──深桜さんが何者か聞いたのかい?」

「はい、猊下にお話したようにお聞き致しました」

「僕は──大賢者はそんな人がいるなんて聞いたことなかったから驚いたな。とりあえず、渋谷たちに伝えて、どうにかしないとね」

ウルリーケとの会話を思い出しながらいると、馬車は血盟城の門をくぐった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


午後になって村田が深桜さんを連れてくるというのにも関わらず、俺様魔王こと渋谷有利は執務室に缶詰めだった。

「……ギュンター、村田が客人連れて来るって言ってるんだけど…出迎えてやらないと」

「そうですが、猊下からは迎えはしなくていい、自分で連れて行くからと伝言がありますので…」

「……そうなんだ…」

「ですがやはり出迎えをしなくてはとは思っているのですが。猊下が来ましたら、皆を呼ぶように言われてますし」

どうやらまだ深桜さんが双黒であることを知らないらしい……。
有利はそんな事を思いながら、扉近くにいる名付け親を見た。
視線に気付いたのか、コンラートは微苦笑した。

「では、俺が出迎えに行くよ。ギュンター」

「そうですか。ではコンラート、途中でグェンダルにも召集を掛けておいて下さい」

「分かった。ヴォルフラムは……じきに来るだろうから。では、陛下」

「陛下って呼ぶな。名付け親」

「すみません。つい癖で」

いつものやり取りをしてコンラートは執務室から出て、正面玄関へと向かった。
城門へと向かうとちょうど門をくぐって一台の馬車が階段脇に着いた。
カチャ、と扉が開きなかから猊下が顔を出した。

「やぁ、ウェラー卿。グッドタイミングだね」

「猊下」

頭を下げ、降りてくるのを待つと猊下は馬車の中にいる、彼女へと手を差し出した。

「着いたよ、深桜さん」

「う、うん」

戸惑いがちに伸ばされた手は、彼の手を掴み、腰近くまで伸びた髪をさらりと揺らしながら馬車から顔を出した。

「足元、気を付けて」

「ありがとう、健ちゃん」

「いえいえ、どういたしまして」

にこにこと目の前で繰り出されるやり取りに、コンラートはなんだか置いてきぼりをくらったような気分になった。
ローズグレイのワンピースを着た彼女はこちらを向いたので、コンラートはにこりと笑った。

「お待ちしておりました。ミオ様」

「こんにちは。……あの、コン…ラートさん、私のことは普通に深桜でいいですから……様とかいらないです」

わたわたと手を振る彼女が、なんだか可愛くみえる。

「ですが、双黒の姫ですし。あ、呼びづらいならコンラッドでいいですから」

「姫っ? 誰が?」

「まぁまぁ、落ち着いて深桜さん。ウェラー卿、まずはみんなに会わせてそれから話そう」

「はい、分かりました。陛下は執務室におりますので、俺はグェンを呼んで来ます」

「うん、分かった」

コンラートは踵を返すとグェンを呼びに歩きだした。
背後にいる彼女を少し気にしながら。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「「…………双黒…」」

案内された部屋に入れば、スミレ色の長い髪の男性と、金髪の男の子──どちらも美形──がいた。
ひらひらと手を振る有利に、深桜はホッとして、にこりと笑って小さく手を振った。
途端、スミレ色の長い髪の美形が「ぶふっ」と変な音と共に鼻を押さえている。

「おわっ!? ギュンター!」

「……美しい…」

ほぅっと惚けている美形さんが何か呟いているが、なんだか怖くて深桜は村田の背後に回った。

「ギュンター! 深桜さんが恐がっているだろ、落ち着けって。だ、大丈夫だよ、深桜さん。この人、双黒フェチで弱いんだ……」

有利がフォローしながら、近づいてこようとすると、金髪の美少年が彼の襟首を掴んだ。

「ぐぇッ…」

「待て、ユーリ! この女は一体なんだ? お前の知り合いか!? この尻軽っ!!」

「ミオ様と仰るのですか? なんという美しい漆黒の瞳に、流れるような美しい御髪……」

最早、室内は混乱しているという感じだった。
村田はやれやれといった風に、声を掛けようとした時、再びドアが開いた。
くるりと振り返れば、また美形……だが眉間に皺がよっている男性と先ほどのコンラートが入って来た。

「お待たせ致しました、猊下、ミオ様」

「うん、みんな揃ったね」

村田が入って来た二人を促して、深桜をみんなに見えるようにした。

「紹介するね。彼女は沢城 深桜さん。地球から来た魔族だよ」

「え、と……沢城 深桜です……」

おずおずと挨拶をする深桜に有利は「そんな緊張しないでいいよ」というが、注目されるのは苦手らしい。
そんな深桜を見て、コンラートも「リラックスして下さい」とにこやかに笑いながら言った。

「なんだ、お前ら既に知り合いなのか?」

美少年が訊ねると有利は「昨夜会ったんだ」と答えれば、「貴様、いつの間にっ!」と詰めよられている。
ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人に、ゴホンっ!と美丈夫な怖そうな人が咳払いをした。

「落ち着け、ヴォルフラム。猊下、続きを」

「うん。で、彼女は何者かというと、ウルリーケの話では、眞王の異母妹君らしいんだ」

「……はい?」

思いがけない言葉に深桜が聞き直すが、それは彼らの驚愕の声に掻き消された。

「「「「異母妹〜〜〜!?」」」」



その後、詳しく聞かされた結果、分かった事に深桜にも彼らにも驚かせられた。
昨夜はそこまで聞かされてなかったから。
飛行機事故の話の時には、有利は悲しげな顔をしていた。やはり、自分はその事故にあったんだろうか?
今、動いている自分がいるから違和感がありまくる。
そして、健ちゃんからの話ではその飛行機事故の際、眞王陛下という、前世の前世…何千年前かは分からないが私の兄だったいう人が助けてくれたらしい。

「まあ、僕──大賢者も会ったことはないけどね。そもそも彼は家族のことなんて話さなかったし……」

「では信憑性がないのでは?」

「まあ、そうかもしれないけど、彼がなんの意味もなく彼女を助けるとは思えないよ。知っての通り、身勝手だしね」

「……」

どんどん話が進んでいくなか、深桜はどうしたらいいのか分からなくなった。
歓迎されているのか微妙だ……。

「……えーと、じゃあ深桜さんの魂はこっちの世界の人だったって事だよな? 地球には帰せないのか?」

「渋谷、深桜さんの年齢は今は19歳で僕たちとは3つ違いだけど、本当は11違うんだ。8年間、彼女は時間の流れがない異空間で眠っていたからね。地球では彼女は故人になっている。あの飛行機事故は全員亡くなってしまっているし、7年が経っているから既に死亡とされている。そんななか、8年前の姿のまま彼女が地球に戻れないんだよ、酷な話だけど」

健ちゃんがこちらを見ながら話すのを、深桜はどこか他人事のように思えた。
ズキン、と頭が痛くなってきたような気がする。
あの時の事を思い出したせいだろうか?
身体が熱くて、苦しくて、でも蒼い空と海が見えた時、なんだか懐かしかった。
どこかで見たことがあるその蒼は、私をホッとさせてくれた。そして、守ってくれた。

会話のなか、白くなっていく深桜の顔色を見て、コンラートは彼女に近寄った。

「ミオ様? 大丈夫ですか、顔色が……」

「えっ……あ、大丈夫…です。ちょっと……」

困ったように苦笑いする深桜はなんだか危うい感じがした。

「少しお休みになってはいかがですか? 昨日の今日ですし、まだお疲れなのでは?」

「本当だ、顔色悪いよ。深桜さん。休んだ方いいって! コンラッド、部屋用意して案内してやって」

「……でも、あの…大丈夫だから……」

「いいから深桜さん。今は休んでおいた方がいいよ」

有利くんと健ちゃんに立て続けに言われてしまい、深桜は微苦笑するしかなかった。

「……あの、ありがとうございます。有利くん、健ちゃん」

「では案内しますので、こちらへ」

お礼を言って頭を下げると、コンラートは深桜を促して執務室から出て行った。

「って言うかさ、なんか村田と深桜さん仲良くなってないか? 今も『健ちゃん』って呼んでたし」

「なに渋谷、羨ましい訳?」

「べ、別に羨ましいとかじゃなくて、昨日は『くん』って呼んでただろ」

「あぁ、なんだか弟くんがいるらしくてね。どちらかと言えば、渋谷の方が下の弟になんだか似てるって言ってたよ」

「……弟…」

それで親しくなれるのは嬉しいことなのか、悲しいことなのかなんだか微妙な気がする。

「そういえば」

「どうかした? フォンヴォルテール卿」

顎に手をやりながらグウェンダルが呟いた。

「なぜこちらの言葉を話しているのだ?」

その途端、有利は真っ赤になり、村田はニマニマと笑いだした。

「あ〜、それはね「むむむ村田っ!!」」

昨夜の言を話そうとする親友に有利は言葉を遮った。

「なんだい、渋谷。別に構わないじゃないか、君がほんの少し魔力を与えたから話せるようになったくらい」

「うっ……ま、まぁそうだけど」

しかしその魔力の与え方が、口吻け、接吻、キスだとは言えない。言っちゃいけない。

「魔力を与えた? お前がか?」

ヴォルフラムが有利に詰め寄るが、答えたのは村田だった。

「そう眞王からの伝言とやらで、ウルリーケがそういってたよ。彼女の生命を助けるのと一緒にね。ちょっと渋谷に治療してもらう際に力が移動したから、話せるようになったみたい。文字は読めないし書けないだろうけどね」

「そ、そうなんだ……」

「……ユーリ、貴様何をそんなに赤くなっている? まさかお前、僕という者がいながらあの女に手を出そうとか考えてるんじゃないだろうなっ!」

昨夜を思い出し、赤くなっていた有利にヴォルフラムが怒ってしまったのはいつものことだった。



To be Continued


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