04

今日からマ王

部屋から出るとコンラートさんに言った。

「あ、あの……別に大丈夫なんですが…」

「顔色が優れていないようですし、それに──」

そう言って前髪を掻き上げられ、大きな手が額に触れた。
少し冷たくて気持ちいいと思い、つい目を閉じてしまった。

「ほら、少し熱いですよ。昨夜やはり冷えてしまったのではないですか?」

「え、あの……」

そういえば、昨夜はお風呂を頂いた後で外に出たんだっけ。
深桜はそれを思い出し、村田と話した事を思い出した。
──私は、もう……。

「眠れなかったのですか……まあ、いきなり異世界などと言われたら仕方ないかもしれませんが──あ、こちらへどうぞ」

ハッとしたら、気付かないうちに手を引かれて廊下を歩いた。
熱があると自覚すると、途端に頭がズクズクと痛くなる。廊下を歩きながら頭を押さえていると、心配そうに顔を覗いてきた。

「だ、大丈夫です! ただの頭痛だと思いますし……」

昨夜はテンパっていて気付かなかったけれど、格好良さに頬が赤くなる。
先ほどの皆さんに比べたら地味っていうか、でも私からすればすごく格好良いんだけど!
なんでこの国の人は美形ばかりなんだろう。

「ミオ様? 本当に大丈夫ですか、顔が赤いですよ」

その言葉と共に、コツンと額になにかが当たった。いや当てられた。コンラートさんの額が。

「……やはり熱があるようですね、寒かったりしませんか?」

「え、ああああの……」

「はい?」

離れない彼に恥ずかしくて、涙が出そうになる。
深桜はますます顔を赤らめていく。
その様子を見ながらコンラートはやり過ぎたか、とも思いながらこの距離がとてもいとおしく感じた。

「あ……あの、コンラッドさん……離れて、下さい…」

上目遣いで見つめられ、コンラートはやや動揺しながらも上手くそれを消した。

「失礼しました。さあこちらにどうぞ。疲れているようですし、休んで下さい」

ギィと扉を開き、客室に案内されたらしい。
通された部屋は入ったこともない広さの部屋。
なんか学校の教室くらいの広さって……お、落ち着かない。

「あ、あの……」

「今、医師を呼びますから座って待っていて下さい」

コンラートは深桜をベッドに座らせると、にこやかに笑って部屋から出ていった。
深桜は大人2、3人は平気で寝れるであろうベッドの片隅にちょこんと座った。

「落ち着かない……」

キョロキョロと眺めて見ればみるほど、豪奢な部屋に気後れしてしまう。
はぁ、とため息をついて頬に手を当てた。
確かに熱い気がする。でもそれは熱ではなく……違う気がする。

「…………バカ。そんな事考えるなんて」

深桜は立ち上がって、窓辺に行った。
見たこともない景色が広がる。全く知らない場所。
シャラと首にかけてあるネックレスに触れた。
確かに消えてしまいたい、いなくなりたいと考えたけれどこんな風になるなんで誰が思うだろう。
健ちゃんたちが言っていた『眞王』って人の異母妹って……私が?
『眞王』って昨夜聞いたけど、魔族の初代魔王で魔族の父祖っていう人……だよね? あ、人じゃないか。
そんな方の異母妹の生まれ変わりってことなのかしら……。

そんな風に考えていると、トントンと扉が叩かれた。
カチャリと戸が開き、顔を見せたのはコンラートさんではなく、小さな女の子だった。

「……あの…」

「あなたが、双黒のお姫様?」

「え、あの…?(お姫様? 誰が?)」

「私はグレタ。あなたは何て言うの?」

大きな目が見上げてくるのを、深桜は混乱していたのを忘れ、クスッと笑い屈むと目線を合わせた。

「私は、深桜。沢城 深桜というの。よろしく、グレタちゃん」

「ミオ? ねぇ、ミオはユーリのいるチキュウから来たんだよね?」

「え、えぇ…そうなるみたい……」

「そうなんだ。あのね、グレタはユーリの娘なんだ」

「……娘…? 有利くんの……?」

衝撃の告白に、目が点になっていると

「娘と言っても養女ですよ」

クスクスと笑いを携えて、コンラートが部屋に入ってきた。背後に緑色の髪で綺麗な女の人を連れて。

「あっ……あ〜、養女ね。びっくりしちゃった」

「グレタ、こんなところにいたのか。ユーリが探していたよ。きっとミオ様を紹介しようとね」

「えへへ、グレタ、先に挨拶しちゃった。ユーリのトコ行ってくる」

そう言うとパタパタとグレタは部屋から出て行ってしまった。

「さて、ギーゼラ、ミオ様の事を頼んだよ」

「はい。お初にお目にかかります。ギーゼラと申します。熱があるとのことで診察に参りました」

「え…はい……え、あの」

いきなりの事に戸惑っていると、コンラートが説明してくれた。

「彼女は癒しの手の一族で、まあ、地球で言うならお医者さんみたいなものです」

「そうなんですか。私は沢城 深桜と申します。深桜と呼んで下さい」

にこりと笑うと、ほほ笑みを返された。
「こちらへ」とベッドへ促され、スッと額に手が伸び、当てられた。

「少しお熱があるようですね」

そう言うと、額がポウと熱くなる。でもそれがなんだか心地よい。
気持ちがよくて目を閉じていると、ゆっくりと手が離れた。

「熱は取りましたが、まだお身体の方は疲れているようですので、今日一日は安静になさっていて下さい。ではまた何かありましたら、遠慮なく仰って下さい」

「あ、ありがとうございます」

慌てて頭を下げると、ギーゼラはクスッと笑い「気になさらないで下さい」と言って、頭を下げて部屋から出ていった。

「メイドを呼びましたから、今日は着替えてお休みになって下さい」

「で、でも……」

「大丈夫です、不安にならないで下さい。なにかありましたら───俺が守りますから」

真っ直ぐ見つめてくる瞳は薄茶に銀の虹彩が散らされている。
そんな真摯な眼差しに、動機が早まらない訳がない。
よく昨夜は平気でいたな、と深桜は違うことを考えて逃避しようとしていたのかもしれない。
深桜はやや目線を反らし

「あ、あの……ありがとう、ございます……」

あまり甘えるのもなんだけど、そんなことしか言えなかった。
そんな深桜にコンラートは苦笑するしかなかった。

「で、でも休む程じゃないので……大丈夫ですから」

グッと両手を結び、笑う深桜にコンラートは今度は優しく微笑した。
そこへコンコンと扉を叩く音がした。
コンラートはスッと立ち上がると、扉へと向かう。
メイドだったら、お茶を頼もうと思えばそこには陛下、猊下を始め重鎮たちがいた。無論、さっきのグレタも一緒だ。

「陛下」

「深桜さん、大丈夫?」

「えぇ。ミオ様、陛下がいらっしゃいました」

ニコリと笑い、深桜に告げるが有利はいつものように「陛下って呼ぶな、名付け親」と呟いていた。

「有利くん、大丈夫。ごめんなさい、話の途中で」

「ううん、気にしないでいいよ。とりあえず、みんなを紹介してなかったから連れて来たんだけど、いいかな?」

有利が首を傾げながら聞くと、深桜は立ち上がって「お願いします」と頭を下げた。

「俺や村田、コンラッドとグレタはいいよな。じゃあ、まずはこっちから、ほらグェンダルから自己紹介!」

有利から言われて、やや眉間に皺を寄せてる美丈夫な方が口を開いた。

「フォンヴォルテール・グェンダルだ。魔王陛下の摂政をしている」

「よ、よろしくお願いします」

「…………猫たんは好きか?」

「は、はい?……子猫の方が小さくて好きですが」

「そうか……」

そう言ってポンと頭を撫でられた。

「僕はフォンビーレフェルト・ヴォルフラムだ。お前はなかなか見目がいいから、今度絵を描いてやる」

なんだか金髪の美少年に驚いてしまう。が素敵なことを言われ、深桜は微笑した。

「ありがとうございます」

「そうだ、くれぐれもユーリには手を出すなよ。ユーリは僕の婚や─」

何かを言い出したヴォルフラムの口を有利が塞ぎ、遮った。

「はーい、ヴォルフラム、黙ってような〜。ほら次はギュンターだぞ」

最後になったのはすごい美形なのに、深桜を見ては鼻を押さえてる男性だった。

「あぁっ! なんとお美しいのでしょうかっ!! 陛下、猊下と並び双黒の方が我が国に三人もっ! 漆黒のお髪に黒耀石のような瞳、その上、眞王陛下の異母妹君とは……はっ、私、申し遅れました。お美しいユーリ陛下の王佐をさせて頂かせております、フォンクライスト・ギュンターと申します。ミオ様どうぞ、ギュンターとお呼び下さい」

聞きなれない賛辞をあげられ、深桜は呆気に取られた。
先ほどから見目がいいとか、美しいとか……それは貴方たちのことでしょう?と思っていると、バーンと扉が開いた。
ビクッとして扉を見ると、そこには金髪の巻き毛でゴージャスなセクシー美女と赤い髪の勝ち気そうなこれまた美女が立っていた。

「こちらにいらしたのですね」

「ツェリ様、アニシナさん」

「まぁ、そちらが眞王陛下の異母妹君? なんって可愛らしいのかしらっ!」

「っきゃあ!?」

金色の巻き毛の美女がいつの間にか傍にいて、というか抱きついてきた。
顔に当たる柔かな感触は、豊満なる胸!

「お名前はっ? 恋人はいらして? いやーん、可愛らしい!!」

「ツ、ツェリ様! 深桜さんが苦しんで……」

むぎゅむぎゅとされるがままで窒息寸前になりそう……そんなことを考えていると、心配そうに有利くんが美女に話しかけている。だが、聞こえてないらしい。
そんなとき、ポンと肩に手を置かれた。

「母上、ミオ様が窒息しそうですよ」

そのままグイッと後ろに引かれ、トンッと身体を委ねた。

「大丈夫ですか?」

「は、はい……」

「あら、コンラート。私の楽しみを奪ってしまうの? でも貴方はミオ様と仰るのね。申し遅れたわね、私はフォンシュピッツヴェーグ・ツェツィーリエ、ツェリって呼んでね」

ツェリ様という方はパチンと片目を閉じた。そして、もう一人の美女がずいっと前に出た。

「初めてお目にかかります。私はフォンカーベコフ・アニシナです。以後、お見知りおきを」

綺麗だが、赤い髪に知的さを備えたような水色の瞳、印象的だ。
深桜はきちんと立つと皆さんに向かって、ペコリと頭を下げた。

「私は沢城 深桜と申します。深桜と呼んで下さい」

何度目か分からないが、改めて自己紹介をしたのだった。




To be Continued


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