01
「全く、ふざけるんじゃないっての!」
夕暮れの住宅街をムゥッとしながら肩までの髪をなびかせながら、少女──水瀬 優奈はぶつぶつ言っていた。
「ゆーちゃんがいたら愚痴聞いてもらおっと──あれ、しょーちゃーん」
前を歩く背の高い人物を見つけ、優奈は声をあげた。
くるりと振り向いたのは眼鏡を掛けた男性──隣に住む渋谷 勝利、幼なじみの渋谷 有利ことゆーちゃんのお兄さん。
背も高いし、外見もまぁまぁだし、頭もいいから一見もてそうなのに──中身がオタクでしかもブラコン。
「優奈か、」
「今、帰りなの? おっかえり〜」
「そういうお前こそ、今帰りなのか――遅くないか?」
「そうお? こんなもんだよ」
「お前は女の子なんだから、暗くなる前に帰れ」
ポンっと頭に手を置いて、撫でながら言った。
こういうとこはやはりお兄ちゃん。私のじゃないけど。
「…………しょーちゃん、お父さんっぽい」
「お父さ……せめてお兄ちゃんと呼びなさい」
「はいはい、しょーちゃん。あ、今日お邪魔してい? パパたち出掛けていないんだよね」
「どこに行ったんだ?」
「んー? 仕事でスイスじゃないかな、ボスがどうのこうの言ってた」
「ボス?」
首を傾げる勝利に優奈も「私も分からないよ」と肩をすくめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ガチャ、と玄関を開けるとカレーの匂いが漂う。
勝利が「ただいまー」と言った後、優奈も声を上げた。
「お邪魔しまーす」
『勝利っ!? それに優奈も!?』
なにやらリビングで有利の声がした。なんだか人が多いような気がする。
靴を脱ぎながら、隣の勝利を見て小声で「お客さん?」と聞いた。
彼はさぁ、と首を傾げてスタスタとリビングへと向かった。
なんだかワタワタとしている雰囲気を感じながらドアを開けた。
「夕食は──……ん?」
ドアに手を掛けたまま部屋の中を見て、止まった勝利の顔を見た。
訝しげに中を見ている、横から中を覗いてみた。
「どうしたの? しょーちゃん……?」
そこには美形が三人もおりました。
他にも勝馬パパ、美子ママ、ゆーちゃんになぜか村田くんがいる。
「お帰り、しょーちゃん。いらっしゃい、優奈ちゃん」
美子ママがニコニコ話すなか、有利が慌てて立ち上がった。
「お帰りー……。お兄ちゃん、紹介するよ。俺の同級生で留学生のヴォルフラムくんで、そのお兄さんのグェンダルさんとあとコンラッド──」
有利が隣に座る金髪の少年を皮切りに紹介し始めるが、隣にいた勝利が、ため息と同時に口を開いた。
「魔族の方々か」
「マゾク?」
「しょーちゃん!?」
「知ってたの?」
「完璧に隠し通せると思っていたのにどこで失敗ったんだ」
「さすが長男、やっぱり頭いいのね」
勝馬パパがあちゃーと額に手をやり、美子ママが両手を合わせニコニコと笑っている。
私は意味が分からず、ポカーンとするしかなく首を傾げていた。
「ちょっ、親父もお袋も! 優奈がいるのにっ!!」
「……ゆーちゃん、何話しているの?」
「ゆ、優奈……」
テクテクとそばに寄って聞くが当の有利はやや後退った。
「ゆーちゃん? 何、下がってんの? 彼らは誰? 村田くんは知ってるけど…」
「いや、あの、優奈…なんでここに……帰らなくていいわけ…?」
「パパとママ出掛けてるから別にいいの」
「あら、今日からだったわね。お夕飯食べていってね、優奈ちゃん」
「はーい、美子ママ」
両手を合わせて、ニコニコ笑う美子ママに優奈も笑って答えた。
「ちょっ、流石に優奈がいたら──って、なんだよ! ヴォルフラム」
「ユーリ、誰だその女は?」
有利に優奈が詰め寄っていると、横から伸びて来た手が有利の肩をガシッと掴んだ。
金髪の天使のような美少年。一体、誰よ?
「貴様っ、僕という者がいながらこんな女と親しくするとはどういう了見だっ! このっ尻軽っ!!」
「ちょっ、だから、今は空気読めって、ヴォルフラム」
「まぁまぁ、渋谷落ち着いて。僕が説明するよ、優奈ちゃん」
くるりと振り向けば、眼鏡を押し上げる村田くんがいた。
「俺がかよっ! でも、優奈にバラすのは──」
「あれ、優奈ちゃんも渋谷と血縁なんだし、魔族でしょう? パパさん」
有利が村田くんに何か言おうとしたが、彼はそれを遮って勝馬パパに確認するかのように聞いた。
勝馬パパは「あれ、聞いてない?」という風に頷いた。
優奈は首を傾げるしかなかったが、有利は「血縁〜〜!?」と今更の事に驚いていた。
え……まさか、今まで知らなかった訳?
まずは魔族という説明を勝馬パパからしてもらった。
なにやら、私は地球の魔族らしい。
うちのママは勝馬パパと従兄妹になるのだが、パパも魔族らしく、地球の純粋魔族らしい。
というか、そんなことよりもゆーちゃんが私と再従兄妹という事を知らなかったらしく、呆然としていた。
「知らなかったの? ゆーちゃん」
「だだだだって、そんなの今まで誰も言わなかったじゃんかよーっ!」
「はぁ? 普通分かるじゃない、お正月とか旅行とか一緒にしてたのに」
「そんなの隣に住んでるし、そっちの親父さんたちとうちの親父たち仲がいいんだぜ? まさか親戚なんて思わないじゃんか!」
「渋谷〜、いくら隣だからって年末年始とか常に一緒な訳ないじゃん」
やれやれという風に村田が言ったのに優奈もうんうんと頷いた。
「だよね、村田くん」
「もう、ゆーちゃんったらお茶目ね〜」
優奈と村田と美子が笑うなか、有利は今まで知らなかったことに頭を抱えていた。
「……知らなかった、俺って……。しかもうちのみんなが知ってた事、今まで気付かなかった俺の立場は……」
もはや、お客さんがいるのにも関わらず、悩む有利だった。
そんななか、冷静なのか勝利が、ボソリと呟いた。
「で、その魔族ご一行様が一体うちになんの用なんだ」
「あ」
「そういえば、まだ聞いてなかったわね。観光? それとも慰安旅行?」
「……な、みたいな……」
ハハハ…とゆーちゃんは私に見られながら、乾いた笑いをしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
美子ママにカレーを頂く前に、ゆーちゃんから、ではなく村田くんから『異世界』からの方々を紹介して頂いた。
ゆーちゃんは色々な事実に呆然としているからだ。
そのゆーちゃんがその異世界のしかも魔族の王様、魔王らしい。……想像がつかないんだけど。
「渋谷が呆然としてるから僕が紹介するね、優奈ちゃん」
「はーい、あ、私は水瀬 優奈です。よろしく、優奈って呼んで下さい」
優奈は手を上げて答えた。
「じゃ、まず、この強面の渋いポニーテールの人はフォンヴォルテール卿グウェンダルさん、そっちの爽やかな人がウェラー卿コンラートさん、それで今、優奈ちゃんを睨んでいるのがフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムくんだよ」
「……ごめん、村田くん。名前長すぎて憶えられないんだけど…つか、なんで睨まれるの?」
そう村田くんにいうと、爽やかな好青年がクスッと笑った。
「ああ、失礼しました。俺の事はコンラートで。呼びにくいならコンラッドで構いませんよ」
「私の事はグウェンでいい」
「…………僕はヴォルフラムだ。お前は見目がいいから特別にヴォルフと呼んでも構わん。だが、ユーリに近づくなよ!」
「……な、なんで?」
各自の自己紹介に、はぁと頷きつつ、ヴォルフラムくんの言葉に聞いてみれば
「ユーリは僕の婚や─」
「わぁーっ! ヴォルフラム、優奈に変な事言うの止めろーっ!」
いつの間に復活したのか有利が言葉を遮って、ヴォルフラムくんに何か言い聞かせている。
「……なんなの?」
村田くんたちに聞いてみれば、肩を竦めて笑うだけだった。
一体、なんなんだ?
To be Continued