02
美子ママからカレーを頂き、自己紹介した後彼らがこちらに来た理由を聞いた。
「なるほど、4つの箱ね」
「そうなんです。眞魔国の宝である魔法の4つの箱の1つがどうやら地球にあるらしいんです」
村田くんが理由を話しているのは、ゆーちゃんでは話せないからなんだろうな、と思いながら優奈はカレーを食べていた。
「魔法の箱。素敵ねぇ〜、中には夢と幸せがいーっぱい詰まっているのかしら。やっぱりファンタジーっていいわ〜」
美子ママがウキウキしながら、カレーのお代わりをグウェンダルさんに分けている。
……なんだか、場違いだ。早く食べて帰った方がいいかも。
ソファーにしょーちゃんと向かい合いながら優奈はそんな事を考えていた。
「その箱について何か知ってることはないかな?」
「いやぁ〜、そんな話初めて聞いたからな」
「じゃあ、どこにあるなんて…」
「全然」
どうするかと困っているらしく、美子ママがこちらを向いた。
「しょーちゃん、なんとかならない?」
「さぁね」
なぜ、そこでしょーちゃんに聞くのか不明だが、しょーちゃんは関係ないとばかりにコーヒーを飲んでいる。
ゆーちゃんに関することなんだから、絶対気にならないはずないのに。
「優奈ちゃんは?」
「ぅぐ?」
カレーを口に入れた直後に聞かれたが、知るはずもなく首を横に振った。
「お袋、優奈に聞いたって分かるわけないだろう」
「ママでしょ、ゆーちゃん」
ごもっともだよ、ゆーちゃん。
でも、なんかその言い方ムカッとする。部外者だから当たり前だけど。
「心配するな! ここは魔王陛下のパパ、渋谷 勝馬にドーンと任せろ!」
コンッとコップをテーブルに置き、勝馬パパが胸を叩いて立ち上がった。
「って、どうするんだよ?」
「ボブに電話する」
「ボブ?」
(誰、それ?)
「地球の魔王だよ」
「地球の魔王って…」
思い出すかのようにスプーンにらっきょを転がしながら、村田くんは口を開いた。
「確か、いくつもの会社を経営しているビジネスマンじゃなかったかな。経済界の魔王とかって異名もとってたはずだよ」
(……なんで村田くんが詳し……あ、大賢者だっけ)
「魔王は実業家で、うちの親父は銀行員、優奈の親父さんは商社マン……地球の魔族って、一体…」
(……確かに変なの…)
まぐ、と優奈も有利の意見に同意しながらカレーを食べた。
勝馬パパがその地球の魔王に電話をするらしく、アドレスで番号を探していると
「そういや、優奈の親父さんはどっか行ったの?」
「ふいふ」
「は?」
不意に聞かれて、優奈は口にカレーが入ってる状態で答えた。が、分かるはずもなく、もぐもぐと噛んで飲み込んだ。
「……スイス。ゆーちゃん食べてる時に聞かないでよ、喋れないから」
「あ、わりい。え、じゃあお袋さんも?」
「そだよ」
「じゃあ、今夜1人じゃん! 大丈夫なのか!?」
「平気だって、隣にゆーちゃんたちいるんだし」
「でもさ──」
「捕まらないとさ」
電話が終わったらしく、勝馬パパが続けた。
「連絡取れるって言ってたけどいつになるか分からないそうだ」
「え、そんな──。どうする?」
困ったようにゆーちゃんは爽やかな好青年、コンラッドさんたちを見た。
彼らも困ったように「えぇ…」と言っている。
「だったらうちに泊まればいいじゃない」
美子ママが嬉しそうに発言した。それには流石に爽やかコンラッドさんもゆーちゃんも驚いている。
ゆーちゃん、美子ママの事を考えればそうなるはずだよ?
「大事な息子がお世話になっているんですもの、そのくらい当然よ」
「お言葉に甘えるしかなさそうだな──食事も美味い」
今まで無口だったグウェンダルさんが答える。
ずっと食べてたのは気に入ってたから、なのかな?
「では、そういうことで」
「お世話になります」
「はい、お世話します」
誰も逆らえないだろう美子ママの決定が下された。
「優奈は? 優奈も泊まれば?」
「はっ? なんで?」
カレーも頂いたし、流しに持っていこうとすれば有利に話し掛けられた。
「なんでって、親父さんたちいないんだし、物騒だろ」
「だから、大丈夫だってば。心配性だね、ゆーちゃん」
ツンッと額を押せばムッとされた。
「そうよ、優奈ちゃんも泊まりなさいな。いつも1人の時、ママ心配してるのよ」
「え、でも……お客さん泊まるんだし、邪魔じゃない」
男性が3人…村田くんもだったら4人も泊まるのだから、邪魔じゃない。
「優奈が1人の方が心配だ」
「なんで、今更じゃない。1人で留守番よくあるし」
「えぇっ!? そうなの?」
なぜそこで驚く?
高校入ってからは、1人で留守番よくしてたけど……また1人だけ知らなかったんだ……。
そのやり取りをみていた村田くんはニヤニヤ笑い、金髪のヴォルフラムくんには睨まれた。だから、なぜ?
食事が終わり、帰ろうと思えば美子ママと有利、勝馬パパにも引き留められた。……平気なんだけどな。
洗い物を手伝った後、勝馬パパはグウェンダルさんと会話、美子ママはヴォルフラムくんに近づいた。
「ヴォールちゃん。ねぇ、さっき何か言い掛けていたわよね?」
途端にテーブルについていた有利は美子ママたちに近づいた。
「あ、いい。言わなくていいっ!」
わぁわぁと騒ぐ有利を見ながら、勝馬パパの隣に立った。
「ねぇ、勝馬パパ」
「ん?」
「私も、魔族なの?」
ちらりと仰ぎみれば、たれ目の目尻がまた下がった。
ポンポンと頭を撫でられた。
「あぁ、でも気にしなくていいぞ。優奈は優奈のままでいいんだ。今までと変わりなくな」
「……うん。パパとママに帰ってきたら聞いてみるね、驚くかな」
「……つーか、俺が怒られるかもな」
勝手に話しちゃったからなー、と呟く勝馬パパに優奈は苦笑した。
「あれ、優奈」
「洗面所。顔洗うからタオル借りま〜す」
「ああ」
カチャと廊下に出て、洗面所に向かった。有利の怒鳴り声が聞こえ、苦笑する。
冷たい水で顔を洗い、廊下に戻ったら、爽やか好青年コンラッドさんがいた。
「やあ、ユナ」
「しょーちゃんの部屋に行ってたの?」
2階を眺めていうと、クスッと笑いながら「そうだよ」と言われた。
「しょーちゃん、ゆーちゃんが大事だから色々心配なんだよ。ブラコンだしね」
「でも君も心配だろ、陛下の──ユーリの事が」
「まぁね、幼なじみだし、はとこだし……一応初恋の相手だしねぇ」
「初恋? 陛下に」
「そ。でもゆーちゃんって野球バカでしょ、それに女の人の好みは年上だしね」
だから、もう前の話。と言ってリビングのドアを開けると、有利がアルバムを抱え騒いでいた。
「これはダメッ! 絶対ダメなんだ!! 全くお袋は油断も隙も──」
「聞いたわよ、聞いたわよ聞いたわよ、ゆーちゃん! ヴォルちゃんと婚約したんだって? 婚約」
美子ママが有利に抱きつきながら、爆弾発言した。
優奈は思わず大声を上げた。
「婚約─っ!?」
「げっ、優奈……ち、違うんだ。これは異文化コミュニケーションのせいで……」
「本当のことだろうがっ! ユーリ、なんでさっきからあの女のことばかり構うんだ」
「あーん、ヴォルちゃんがお嫁さんになるのも魅力的だけど、ママとしては優奈ちゃんがお嫁さんになるの期待してたのに〜」
「ヴォルフラム、優奈をあの女とか言うなって、お袋何言ってんのーっ!!」
「ね、もう、なんでそんな大事な事言わなかったの? プロポーズの言葉はなーに?」
「って、気になるのはそこかよーっ!」
わぁわぁと騒ぐ有利を見ながら、優奈は隣にいるコンラッドを見上げた。
「……マジで? 婚約…?」
「えぇ、まぁ……そうなんです」
「へぇ……」
ジッと見つめていると、声をかけられた。
「淋しいですか?」
「そりゃ、ま。幼なじみだしね」
肩をすくめて笑うと、コンラッドさんも微笑した。
うーん、格好いい人は何をやっても決まるなー。
「って、コンラッド、笑ってないで助けてくれよー。優奈も誤解すんなよっ!!」
「はいはい、私はゆーちゃんが幸せなら何も言わないよん。お幸せに〜」
手をヒラヒラと振ると、ゆーちゃんは余計に叫んだ。
「やれやれ渋谷は本当面白いね」
「そうだね。ま、それがゆーちゃんだけどね」
「そっか。優奈ちゃん、」
「ん?」
「……──なんでもない」
「そう? あ、じゃあ私、そろそろ帰るね」
「おう─って、なんで優奈、帰ろうとしてる訳?」
出ようとすれば、ゆーちゃんに捕まった。
「だから、隣になんだし別にいいじゃない」
「心配性だな、渋谷は。あ、心配なら僕が優奈ちゃん家泊まってあげようか?」
「それはダメっ! いくら村田でもそれはダメです」
右手を上げながら、有利は村田を押さえた。
「大丈夫だってば。じゃ、またね。おやすみ〜」
「なにかあったら夜中に来てもいいからね、優奈ちゃん」
「はーい、おやすみなさい。美子ママ、勝馬パパ。あと皆さんも」
にこっと笑うとコンラッドさんはもちろん、グウェンダルさんも「ああ」と挨拶をくれた。
手を振って一旦道路に出ると、門まで村田くんが送ってくれた。
「ありがとう、おやすみなさい。村田くん」
「うん、優奈ちゃんもおやすみ……じゃあ」
村田くんは何か言いたそうにしていた。なんだろう。
玄関から入ると、さっきの喧騒さはなく、シーンとしている。
「……ふむ、ちょっと淋しい、かな」
そう呟いて部屋へ上がった。
なんだか混乱する頭でそのまま寝てしまった。
To be Continued