03

今日からマ王

優奈が帰った後、隣にいたコンラッドが話し掛けてきた。

「どうしたんです、陛下」

「陛下って呼ぶな、名付け親」

「すみません、癖で」

いつもと同じやり取りだが、有利は玄関を見たままだった。

「ユーリ?」

「……優奈にちゃんと説明出来なかったな〜ってさ」

「……」

「あいつ、きっと混乱してるぜ」

「そうですか?」

「優奈はなんでもない振りして、あまり気付かせないようにするからさ」

「よく分かっているんですね」

クスッと笑う声に有利は少し頬を赤らめた。つい慌てて弁解してしまう。

「そ、そりゃアイツは幼なじみだし……(……実は初恋だったし…なんて言えないけど)」

うー、と唸っていると、ガチャとドアが開いた。

「あれ〜、渋谷にウェラー卿。お出迎えありがとう」

「別に村田を出迎えた訳じゃないって……お前こそ何やって」

なんで玄関から村田が、という風に問うと

「あぁ、優奈ちゃんを送って来たんだ」

「はっ? だってすぐ隣じゃん。つか、いつの間に出て行ってたんだよ」

「隣でもなんでも夜なんだし、送っていった方がいいだろ。優奈ちゃんは女の子なんだしね」

「……へぇへぇ、さすが村田様」

にっこり笑う村田に有利はぽりぽりと頬を掻いた。

「なに、渋谷。もしかしてヤキモチ?」

「なっ、なに言って…」

「いやぁ、僕って愛されてるな─」

「はぁっ!?」

「ユーリっ! さっきから聞いていれば、貴様はユナばかり気にして、まさか、……この、浮気者ーっ!!」

「うおっ、ヴォルフラム……」

背後から現れたヴォルフラムに有利は羽交い締めにされていた。
村田とコンラッドは笑い合うが、村田はちらりと玄関の方を見た。

「猊下?」

「……うん、ちょっとね」

コンラッドはその様子に、先ほどの少女を思い出した。
自分の胸ほどまでしかない、小さな少女。黒目だったが、髪の色は茶色だった。
後から染めているとは聞いたが、闇のような黒目は吸い込まれそうな感じだった。
あれではきっとグウェンダルは可愛いと思ったはずだろう。小さくて可愛いもの好きな彼が、彼女を見る目がやや優しかったから。
そんなことを考えていると、ボソリと呟かれた。

「……何事もなければいいけど…」

隣にいた猊下は小さな独り言を言って、有利たちの方へと歩いていった。
何事とは、自分たちの事なのか、はたまた彼女の事なのか……コンラッドには予想もつかなかった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ここはどこなんだろう?
……私は優奈、だよね?

だだっ広い草原らしきの場所に立ち、優奈は自分の手を見つめた。
違和感と言えば、ドレスみたいなキャミソール、または薄いワンピースみたいなのを着ている。

「──────」

どこからともなく声が聞こえた気がして、振り向いた。
少し離れた場所に大きな樹があって、そこに二人誰かがいた。
手を振る二人に、私は嬉しそうに手を振り返して、近づいていく。
一人は、金髪の人。もう一人は長い黒髪の人。
懐かしく、知っている気がする。

誰? 誰? 誰?
あなたたちは──誰?

逆光で見えなくて、もっと近づこうと思った瞬間、ピピピピピ…と電子音が鳴った。

「……あ、れ? 朝…?」

カーテンの隙間から光が射し込んで、優奈は手をかざした。
むくりと起き上がり、ふぁーっと欠伸をした。

「……なんか、変な夢見たな─……」

なんだか懐かしいような、切ないようなそんな気分になりながら、掌を眺めた。
さっきもこんな風にしてた、よね?
ギュッと手を握って、ベッドから降りた。
シャッとカーテンを引き窓を開けると、太陽が眩しい。

「ん〜〜、いい天気〜」

背伸びをすると

「おや、おはようございます。ユナ」

声が掛かった。「へ?」と向かいを見ると、にっこりと笑う好青年が上半身裸でいました。
…………忘れてた。

「……おは、よう…ごじゃいましゅ…」

ゆーちゃん家に異世界の魔族の方々がいる事を。
ゆーちゃんがその異世界の魔族の王様、魔王だって事を。
私も地球の魔族だって事を。
見た夢のせいで、すっかり忘れていたよ……ハハハ。

「……って、なんで裸っ!?」

「え、あぁ。寝る時はいつも上は裸なんで、つい」

にっこりと朝日にも負けない爽やかに言われてしまいました。
異世界の方々は裸(上半身)で寝るもんなんですか?
格好いいですね!

「ユナも可愛い格好ですね」

「へ?」

そんなことを言われて、改めて自身の姿を見た。
そういや、昨夜は暑かったからキャミソールだけで寝て…………って!!

「きゃあぁぁぁぁっっ!!」

優奈は悲鳴を上げて、シャッ!とカーテンを引いた。
ずるずると壁に寄りかかり、真っ赤になるしかなかった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


悲鳴を上げて隠れた少女の姿にコンラッドはクスクスと笑った。──なんとも可愛いらしい。
そこに悲鳴を聞き付けたのかバタバタと音がして、ドアが開いた。

「どうかした? コンラッド。さっきの悲鳴ってなに!? って、なんで裸!」

「おはようございます、陛下、猊下」

にっこりとと挨拶すると、有利は「あ、ああ。おはよう」と答えた。

「うーん、もしかしてあっちが原因?」

村田の言葉に有利が顔を向けると、目線の先に優奈がカーテンにくるまってこっちを見ていた。顔を赤くして。

「おっはよー、優奈ちゃん」

「……おはよ、村田くん。ゆーちゃん……」

手を上げる優奈に有利は首を傾げた。

「はよ、優奈。今の悲鳴って優奈かっ!? な、なんだ何かあったのか!?」

優奈とコンラッドを交互に見れば、コンラッドは困ったように笑い、優奈は顔を赤くした。

「コンラッドっ! 優奈に何かしたのか!?」

そんなことをするとは思えないけど、まさか……。

「ち、違うよっ! ゆーちゃん!! えと、起き抜けに…その、窓を開けたらいるとは思わなくて……は、裸…だし……」

最後の方は声が小さくなって、赤くなる優奈を見て、有利もあぁとうなだれた。
そうだよな、普通日本人は裸で寝たりしないよな。まぁ裸で寝てる人もいるだろうけどさ。

「ご、ごめん。朝から……」

「いえ、こちらこそすみませんでした」

コンラッドが苦笑して謝ると、優奈は手を振った。

「いえっ……お、お見苦しいモノ見せちゃってすみません」

「可愛らしかったですよ」

かぁぁぁと赤くなる優奈を見て、コンラッドの天然たらしっぷりに、有利はムッとなった。女性キラーめ。
二人にしか分からない空気を持ちやがって。

「ご飯よぉ〜、みんな起きてらっしゃーい」

下からお袋の声がして、村田が「じゃあ行きますか」と促した。

「じゃーね、優奈ちゃん」

「う、うん。ごめんね、朝から煩くて」

まだカーテンにくるまりながら話す優奈に、有利は口を開いた。

「いや、別に……なあ、優奈、なんでカーテンにくるまってんだ?」

「……ゆーちゃんのスケベっ!」

聞いてみただけなのに、ピシャッと窓を閉められた。
なんでスケベ呼ばわり?
首を傾げていると、着替えたコンラッドが苦笑していた。

「なんかしたの? コンラッド」

「いえ……その、会った時、ユナが下着だったからだと」

「……っししし下着ーっ!?」

思わず声がでかくなってしまった。慌てて、口を塞ぎ、ちらとコンラッドを見上げた。

「見たの?」

「……まぁ、思いがけず…」

なんだか羨ましいつーか、なんつーか……。

「ゆーちゃん、名付け親さん。ホラホラ早く食べてね」

リビングのドアからお袋が顔を出し、急かされた為、互いに肩を竦めて入るしかなかった。
しかし、優奈の寝起きというか、パジャマ姿でさえ見なくなってたのに、よりによってコンラッドが下着姿を見るなんて……なんかズルい。
ただでさえ、世代を問わず女性にモテモテなんだし……。

そんなことを考えていると、お袋に今日の予定を聞かれ、地球の魔王のボブさんとは連絡取れないから、みんなで出かけることになった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「…………なんで、私も?」

「いや、村田が誘えって煩いし……用事あった?」

そうみんなで出掛けるとなった時、村田が優奈も誘おうと言って、連れてきた。
ゾロゾロと歩き、呟いた優奈に有利は謝った。

「別にないけど〜……」

「彼氏と約束は?」

優奈には彼氏がいる事は知っていた。が彼氏という単語にピクッと反応した。
なーんか、嫌な予感……。

「誰ですかねー? そんなの私にはいませんよーだっ!」

「……ケンカでもした訳?」

「…………はっ…」

恐る恐る聞けば、嘲笑されてしまった。聞かなければよかったかも。
それは後からつくづく思った。

「ユーリっ! 僕という者がいながら〜〜っ!! 来いっ!」

「ヴォルフラムっ……」

またいつものようにズリズリと引き摺られてしまった。
優奈は可笑しそうに笑い、手を振っている。笑うなっての。
見れば村田が話し掛けていた。あいつもこっちを見て笑っていやがる。

引き摺られていくゆーちゃんを見送っていると、村田くんが話し掛けてきた。

「優奈ちゃん、元気ー?」

「うん、まぁ、元気だよ」

「そう、ならいいけど。……変なこと起きなかった?」

突然意味の分からない言い回しに優奈は首を傾げた。

「んー、強いて言えば…」

「言えば?」

「自分が魔族だと教えられ、あまつさえ幼なじみが異世界の魔王という事を知らされたことかな。だけど魔王じゃ、ラスボスでしょ? ゆーちゃん、勇者に倒されるじゃん」

村田はカクッとなった。聞きたいのはそんなことじゃないんだけど……。
何事もないなら、それでいい。まだ目醒めの時ではないと思う。

「大丈夫、渋谷は倒されないよ。なんたってその勇者と友達になったんだから」

「はあ? 魔王なのに? 勇者と友達?……なんつーか、ゆーちゃんらしいね…」

「本当にね、でも渋谷だからね。永世平和主義の魔王様だよ」

「いいじゃない。永世平和主義! 平和が一番だよ」

そう笑う優奈に村田も頷いた。
それは彼女がいつも言っていた科白。

『誰もが幸せな世界を 誰にも平和な世界を』

でも、まだ知らなくていいんだ。思い出さなくていい。
君はまだ。




To be Continued


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