06
「あ、買い忘れた……」
買い物袋の中を見て、優奈は「あちゃー」と額に手を当てた。
もうご飯は出来上がって、あとはおかずにソースを……と思っていたのに、ないと味気がない。
代わりになるのもちょうど切らしている事実に凹みたくなって来た。
「しゃーない、借りてこよう」
こういう時、お隣が親戚で良かったかもと思いながら、サンダルを履いた。
普通にお隣だったら借りるのはちょっと恥ずかしいし……そんな事を思いつつドアに手を伸ばせば、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「はーい、どなた……?」
ドアを開ければ、会いたくもない顔があった。
「何か用?」
「話がある」
「なに?」
「ちょっと、付き合ってくれ」
またしてもぐいっと腕を取られ、連れ出された。
まあ、家に上がり込まれるよりはマシよね。
そんな風に思いながら連れて来られたのは近くの公園。
噴水があり、その水面には天にある満月が揺らめいていた。
そこを通りすぎ、奥の広場へと連れて来られた。
「話を聞いてもらいたい」
「今更、何を聞けっていうのよ」
「だからっ! 誤解なんだ、アイツとは別に──」
誤解なんだと言われても、それを信用出来なくさせたのは、目の前の彼だ。
デートの約束を家の用事だとか言っていた癖に、なぜ街中で隣のクラスの女の子と腕を組んで歩いていたのか。
二人が親戚関係だなんて聞いたことはないし、その子が前々から彼を好きだという話を聞いていた。
そして、半月前から様子が変わったのを気付いていた。
「──悪いけど、さっきも言った通り、もうアンタを信用することは出来ないの」
「……」
「アンタは私を裏切ったのよ──まあ、私も彼女としてそんなにいい彼女じゃなかったし……新しい彼女と仲良くすればいいと思ってる。だから、もう別れましょう」
「…………優奈、俺は──」
そう言ったっきり、彼はそのまま歩いて行ってしまった。
すれ違い様に「殴ろうとして悪かった」と謝罪され、優奈も謝った。
まあ、あんなことしたんだし、仕方ないかな〜と思い苦笑した。
「──なんか、スッキリしたかな〜」
悲しいとか、そんな感傷的なことはない自分に笑いそうになった。
なんだ、私、とっくに吹っ切れているみたいだ。
その時、なにか変な気配を感じた。ズズズっと変な音も聞こえるし、人の声もする。
「噴水の方……?」
そちらに足を向けていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気になって行ってみれば、ありえない状況が目の前にあった。
噴水の水が上に上がり、怪物みたいな形を作っている。
そして、グェンダルさんにコンラッドさん、ヴォルフラムくんが剣を持って闘っている。
「な、何……コレ…」
そう呟いた時、「ヴォルフラム!」とゆーちゃんの声がした。
そちらを見ると、ゆーちゃんがなんだか変な人へ向かって走っていく姿があった。
「マズイっ!」
その人がゆーちゃんに気付き、なにやら手をかざしたら、水のお化けが有利に襲い掛かろうとしている。
「ユーリっ!」
「マズイっ!」
「ゆーちゃんっ!!」
魔族3兄弟が庇うように有利の元へと急いだ。
(──ダメッ!)
そう思った瞬間、水の勢いが止まった気がしたが、村田以外、気付かなかった。
「──っ!? 今のは……優奈ちゃん!」
「ロドリゲスっ! やり過ぎだぞっ!!」
有利はそう言って、彼に体当たりをしていた。
ロドリゲスと呼ばれた人から何かが落ちると、辺りに静寂が戻ると同時に水のお化けは何事もなかったかのように元に戻った。
「やったー、ゆーちゃん」
「それでこそ大魔王だ!」
林の木陰から勝馬パパと美子ママが喜びながら、出て来た。
水を被ったらしいヴォルフラムくんとコンラッドさんが地面に座っていたので、近くのコンラッドさんに寄っていった。
「ヴォルフラム、コンラッド! 大丈夫か? 怪我は?」
「僕はな、」
有利がヴォルフラムくんに近寄って、腕を引いていた。
「コンラッド」
「平気です」
「優奈……なんでお前…」
私に気付いたらしく、ゆーちゃんが少し驚いていたが、苦笑してコンラッドさんの傍にいった。
「大丈夫、ですか?」
「ユナ……なぜ、こんなところに」
「たまたまこの公園にいて……びっくりしました。本当に大丈夫ですか?」
「陛下のおかげで、大丈……っぅ…」
しゃがんで聞いてみれば、足を押さえていた。捻ったのだろうか。
「大丈夫ですか!?」
「コンラッド!!」
「掴まって……しょーちゃん…」
立たせようとしたら、横から勝利が手を差し伸べていた。
「ショーリ…」
「勘違いするな。すべて納得した訳じゃない」
「勝利?」
「しょーちゃん?」
二人のやり取りに有利も優奈も分からずに首を傾げた。
「ところで優奈、なんでこんな時間にこんな場所にいるんだ。もう遅いぞ!」
コンラッドに肩を貸しながら、勝利に注意された。
「ああ、ちょっとね」
肩を竦めて誤魔化そうとしたが、そんなのは許さないという勝利だったが、第三者の声が遮った。
「ゆ「いや〜すまん、悪かった。イテテ…許してくれ、みんな。本当にすまなかった。こういう仕事はボクには合わない」
グェンダルさんに捕まれながら、さっきの人が近寄ってきた。
「許してあげてよ。多分、ドクターロドリゲスの意思じゃないんだ。それより、詳しい話を聞かなきゃ」
村田くんがそういうと、ドクターロドリゲスと呼ばれた人が、笑いながら答えた。
「話なら直接ボブに。彼はいま、スイスにいる」
「スイス?」
「ああ、案内するよ」
彼は有利たちにそう言った後、こちらを向いた。
「勝利、悪かったな。君の交渉術を信じてなかったわけじゃないんだが」
「せっかちな奴だ」
傍らのしょーちゃんはため息がちに言った。彼は苦笑していた。
「ハハッ…これから君の役目は重大だ。君の弟にとっても、ボクたちにとっても」
なんの話をしているのだろう……そんな思いを抱きながら、優奈は彼らを見ていた。
そんな優奈を見ていた村田に、コンラッドはさっきの違和感を抱いていた。
「さぁさ、話なら家でしよう。な、ゆーちゃん」
「あ、ああ。そうだな、とりあえず家に戻ろう。優奈も」
勝馬パパの提案でゆーちゃんはみんなを促した。
家に戻る途中、なぜか傍らにはずっと村田くんがいた。
「優奈ちゃん……」
「なに?」
「なんで、あの場所にいたの?」
「あー……ちょっと、用事があってねぇ〜」
誤魔化すように笑ったら、前を歩いていた有利がこちらを向いた。
「優奈、まさかとは思うけど」
こういう時だけ、動物的直感の良さになんとも言えなくなる。
「大丈夫、話は済んだから。もう来ないよ」
「おまっ! 大丈夫なのかよ!!」
「大丈夫。さっきはちゃんと話し合いで済んだから」
掴みかかるような有利に優奈はまぁまぁと手で制し、宥めながら渋谷家へと向かった。
家に入れば、怪我をしていた3人がさっきの怪しげなドレッドヘアなお医者さん(びっくり!)に手当てしてもらっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
庭先に降りて、外から中を一瞥し、空を見上げれば満月がポカンと浮いていた。
カラと窓ガラスが開いて、有利が庭へと降りてきた。
「優奈」
「ゆーちゃん、どうしたの?」
「さっきの……びっくりしただろうなって……いや。なんつーか、いきなり新たな事実突き付けられて……驚いてるだろうなって思ってさ……」
心配するように見てくる有利に優奈は苦笑した。
勝馬パパが私は私だし、地球の魔族は人間となんら変わりない、と教えてくれたから、あまり考えずにいられた。
なんたって、幼なじみのゆーちゃんが魔王様だしね。そう思わせるゆーちゃんという存在がすごいけど。
「そんなことより、ゆーちゃんこそ大丈夫なの?」
「え?」
「さっきの……魔王だからああいうのに狙われちゃうの?」
真剣な眼差しで見つめられ、有利はドキッとした。
「い、いや……あれは別にロドリゲスが作っただけで、それにあんなのは全くもって大したこと……優奈?」
「──心配、するじゃない。物凄く心配するよ……」
ゆーちゃんにあの水のお化けみたいなのが、襲い掛かろうとした時、物凄くびっくりして……怖くなった。
やられたらどうしようかって、不安になってしまった。
「……ごめん…」
「…ううん、なんかこっちもごめんね。ただ、やっぱりケガとかして欲しくないんだ。ゆーちゃんは私にとって大事な人だし……」
「うん…………えっ?」
なんだか分からないけど、ゆーちゃんがバッとこっちを見た。なんだか驚いているのは何故?
「え、どうかした?」
「いや…あのっ…大事って……」
「? 大事に決まってるでしょ。物心つく頃からずっと一緒で、家族同然に過ごして来たんだもの。心配するわよ」
首を傾げながら答えると、有利はなんでか分からないけど、ガックリしながら「なんだ……そうだよな…」と呟いている。
「……それに、初恋の相手になんかあったら嫌だしね」
クスッと笑うと、空を見上げた。
その時、有利がどんなに驚いた顔をしているかなんて優奈は知らなかった。
「ゆ「ユーリ……おや、なんかお邪魔でしたか?」
カララと窓サッシが開き、コンラッドさんが声をかけてきた。
「お邪魔だなんて、変なこと言うんですね」
「いえ、なんだか良い雰囲気で。ヴォルフラムが妬いてますよ、ユーリ。優奈も中に入ったらどうです?」
「そだね。中に入ろう、ゆーちゃん。虫に食われちゃうよ」
そう言って中に入ったが、有利の様子がなんだかおかしかったのに優奈は首を傾げた。
みんながなにやら先ほどのドクターと話し合いをしている時に見つけてしまった。
窓を開けたんだから、入ってもおかしくないけど、気になる。
話し合いに水を差すのもなんだけど……。
パチンっ!軽い音を立てて、優奈はある人の頬を叩いていた。
To be Continued