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今日からマ王

毎日毎日、平和で普通で……そりゃ何か刺激的なことがあれば面白いなぁ〜とかは考えてはいたけど。
あくまでそれはただ思うってだけで、平和で普通が一番だって知っている。生温くたって、物足りなくたって代り映えのない世界がいい。

なのに、なぜ、こんな目に遭わなくてはならないの?

ただ単にザビを買って、早く読みたいな〜って思いながら、自転車を漕いでいた。
早く、彩雲国とかマ王とか少年陰陽師とか読みたくて、ペダルを強く踏み込んだ。
やっぱり、最初に読むのは彩雲国でしょ!今回は誰の話かな〜?なんて思っていたのがいけなかったの?
ウキウキだったせいで籠のなかの雑誌を見たからか、坂道でハンドルが横に取られた。

「えっ……ええええっっ…!? ちょっ」

その先は、絶壁で真下は住宅が並んでいる。
ドンッ!と強い衝撃が当たり、宙に舞い、目の前が真っ白になった。



「お〜い……じょう…かぁ?」

「おじょ……目を…まさない…ね…」

「地球……かた…ようですね……」

なにやらボソボソと話し声が聞こえる。
えーい、なんだか煩いなぁ〜、人の頭の上でごちゃごちゃと。
しまいには揺すってきた。

「おーい、だいじょーぶ? おーいってば!」

「……うっ…」

「あ、起きた?」

「…………うるさい」

「う、うるさ……ご、ごめん…」

誰かが謝っているが、私は寝起きが悪いのよ。
そんなことを思いながら、目を擦りながら顔を上げた。

「あ、ごめん!起こしちゃって、で、でもこんなとこで年頃の女の子が寝てたら大変だって、何が起こるかわからないし」

「そうそう襲われたりするかもしれないよ」

「……はぁ……ハアっ!?」

目を開けて、私は珍しくも目が醒めた。あの寝起きが悪い私が。

  ホワッツ?

なに? この状況は?

目の前にいるのは珍しくも今どきの少年にしては、黒髪の少年二人と、茶髪の美青年の三人。
普通に考えれば、そこら辺を歩いていてもおかしくはない三人組。
でもおかしい。おかしいよ。だって、私──この人たち知っているもの。

なんっで、目の前にまるマのキャラがいるのさっ!?

ちょっと可愛い系の少年魔王、渋谷有利原宿不利…じゃなくて渋谷有利。
眼鏡っこの腹黒疑惑な双黒の大賢者の魂をもつ、ダイケンジャー村田健。
一見好青年、でもギャグは寒くて腹の中は真っ黒であろう前魔王の次男、ウェラー卿コンラート。
これ、所謂トリップ? まさかね、トリップなんて、体験するなんて。
マンガや小説、映画やテレビのなかの世界だとしか考えられない。
はっ、夢! 夢よねっ!! 夢に決まってる。
でも、なんで夢ならさ……あっちじゃなくて……こっちなのよ……。
なんで……なんで…………

「大丈夫で「なんっで、彩雲国じゃなくてまるマなのよーっ!!」」

多分、コンラートの言葉を遮って、私は本音を叫んだ。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


陛下と猊下がこちらに来られたので迎えに行き、血盟城へと向かう途中の脇道に女性が倒れているのを陛下が見つけた。

「……なぁ、村田、コンラッド…」

「なに? 渋谷」

「どうかなさいましたか? 陛下」

「陛下って呼ぶな、名付け親! って、あれ女の子…だよな?」

いつもの言葉をいいながら、ユーリが指を差した方を見ると細い脇道に人が倒れている。

「本当だ、女の子だね」

「だよな! 倒れてるよ! 助けなくちゃ」

そう言うとユーリは馬から降りて、走りだした。
駆け寄って見れば、倒れている少女らしき者は陛下や猊下のいる地球でよく見た格好をしている。
そもそもこの世界で、こんなに脚を見せる服を着る者はいない。眞王廟の女兵士を抜かしては。

「……超ミニ…」

「残念、ミニでもスカートじゃなくてショートパンツだね〜」

「いやいや村田、十分過ぎる目の保養だぞ! これ……と、とりあえず…」

二人は言い合いながらも、やや捲れていた黒のワンピースの裾を引っ張っていた。

「お〜い、大丈夫かぁ〜?」

「お嬢さん、目を覚まさないね」

「地球の方のようですね」

気絶しているのか、全くもって反応がない。
仕方ないな、とユーリが彼女の肩を掴んで揺すってみた。

「おーい、だいじょーぶ? おーいってば!」

「……うっ…」

何度か声をかけると、呻き声を上げた。
なんとか意識が戻ってきたようだ。とユーリも猊下も顔を見合わせている。
無事ならば大丈夫だろう、でもきっと陛下のことだから、この地球からのお嬢さんを保護するんだろうな。
そんな事を考えていたら、呻き声だと思った声は全く違ったらしい。
ユーリが声をかけると、その少女は口を開いた。

「あ、起きた?」

「…………うるさい」

なんだか、低い声は外見に似付かわしくない。
寝起きが悪いのだろうか?
しかし、傍らのユーリはガアァァァンとショックを受けている。

「う、うるさ……ご、ごめん…」

「寝起き悪いのかな?」

「……そうかもな…」

二人の会話を聞きながら、少女を見ていると目を擦りながらムクリと起き上がった。
なんだか、仕草が可愛らしい。
そして、顔を上げて見せた顔はユーリに劣らない程、見目がいい美少女だった。

「あ、ごめん!起こしちゃって、で、でもこんなとこで年頃の女の子が寝てたら大変だって、何が起こるかわからないし」

「そうそう襲われたりするかもしれないよ」

「……はぁ……ハアっ!?」

彼女は、ぼーっとしながら周りを見て俺たち三人を見つめた。
円らな黒目で見つめられると照れてしまうな……なんて思っていたが、様子がおかしい。なぜそんな驚いた顔をしているんだろうか?

「か、固まってる…?」

「とりあえず、様子見る? 混乱しているようだし」

「そ、そうだよな。スタツアしたならいきなりこんな場所で、ビビるしな…」

ユーリが気持ち分かるな〜とうんうん頷いている。
とりあえず、地べたに座わせているのもなんなので、手を差し伸べた。

「大丈夫で「なんっで、彩雲国じゃなくてまるマなのよーっ!!」」

彼女は訳の分からない事を叫んだ。



To be Continued


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