02
「えーと…とりあえずここじゃなんだし、移動しない?」
私の叫びの後、有利がなんともいえない顔でそう提案した。
ごめんよ、そんなつもりじゃなかったんだが。
別にまるマが嫌いという訳じゃなくて、どうせトリップするなら大好きな彩雲国の方がいいかなーって思ったのさ、ゆーちゃん。
「うーん、ここからなら血盟城より眞王廟の方がいいかもね。彼がなにか知っているかもしれないし」
ダイケンジャー・ムラムラが提案している。ということは眞王がいるってことだよね?
コンラッドもここにいるってことは、ここはマニメかっ!
「そうだな、うん。一回眞王廟に戻ろう。えと、立てる」
「え……あ、は……てぇ…」
差し出された手を掴んで、立ち上がろうとすれば、膝に痛みが走る。
見れば、血が滲んで出ていた。
「あ、ケガしてたんだ。道理でなんかヒリヒリしてると思った」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。こんなん舐めとけば平気」
有利に聞かれ、手を振りならそう言ったら、目の前にコンラートがしゃがみこみ人の生膝を見ていた。
そして───
「ぎゃあぁぁぁぁっっ!?」
「ココココンラッドっ!? あんた何やって……」
「何って、治療を」
いけしゃあしゃあというコンラートだけど、こいつ、私の生膝舐めやがった…!
「な、なんでっ、治療であんたが舐めるんだよっ!? そういう事じゃないだろっ!!」
そ、そうよ。有利、ガンガン言ってやって!
セクハラなこの男を、叱ってやってくれ!
「ですが、舐めておけば大丈夫だと…」
「そ、それはっ、私がであって……誰も治療に他人が舐めろなんて言わないわよっ! 女王様とかじゃないんだからっ!!」
私は真っ赤になって怒鳴るしかなかった。
有利も「そうだ」と賛同している。ムラムラは……何故か眼鏡が光っていて表情が読めない……。
「それは、すみませんでした。立てますか?」
再び手を差し出され、立ち上がった。
土がついていたようなんで、服の裾をパンパンと払うと、ジーっと見られた。
なんかおかしいかな?
黒のロングニットに白レースのショートパンツ、黒のブーツってだけでシンプルなんだけなんだけど。
「……えと、何かへん?」
「う、ううん! あ、名前まだ言ってなかったよね。俺は渋谷有利原宿不利……じゃなくて、渋谷有利ねっ!」
「僕は村田健。呼び名は健でもムラムラでもなんでもいーよ〜」
「俺はウェラー・コンラート。コンラートで呼び悪かったらコンラッドでも構いませんので」
ごめん、実は名前知ってました。
そんなことを思いながら、名前を名乗った。
「私は彰子。原田 彰子っていうの」
「原田さんね」
「ああ、彰子でいいよ。名前の方が好きなんだ」
「じゃあ、彰子ちゃんも僕の事は健ちゃんって呼んでね」
「オーケー、健ちゃん」
片手でマルを作って笑うと、有利が「なんかずりー」と騒いでいた。
「はいはい、騒がないの渋谷。とりあえず、行こうか……彰子ちゃんは馬乗れる?」
有利を宥め、健ちゃんがこちらを向いて聞いてきた。
馬、乗馬だよね?
小さい頃にどっかのふれあい牧場とかでボニーに乗ったけど、乗ったというのかな、アレは。
「えーと、ないかな。メリーゴーランドとかならあるけど」
「そっか、僕や渋谷には二人乗りはまだ厳しいかな。ウェラー卿頼めるかな?」
「えぇ、もちろんです。さぁ、ショウコ様どうぞ」
コンラートがにこやかに言ってくるが、さっきの今だ。なんか嫌だな。
それに、何故に様付け?
あぁ黒髪だから?いやいや私は茶髪だぞ。
「ショウコ様?」
「あのぅ〜、なんで様付け?」
「あー、彰子ちゃん。それは後で説明するから早く行こう」
健ちゃんに促され、彰子はふぅとため息を吐くと、コンラートの手を借りて馬の上に乗った。
かなり高い視界にやや怖くなってしまうのは、初めて乗るからに違いない。
「大丈夫ですか?」
耳元で話しかけられ、ドキッとする。
くそっ、前に座っている分顔が見えないから、彼と同じ声にかなりときめいてしまうじゃないか!
「だ、大丈夫…です」
「しっかり掴まっていて下さいね」
またしてもそう言われ、どこに?と思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
連れて来られたのは眞王廟の託宣の間だった。
目の前には眞王と言賜巫女のウルリーケ。
それに有利と健ちゃんとコンラート、そして私。
「誰だ、その娘は」
眞王が顎に手をやりながら、まじまじと見てきた。
「えっ、眞王が呼んだんじゃないの?」
「俺は知らん。分かるか、ウルリーケ」
「いえ、私も分かりません」
「えぇっ!? じゃあ、彰子はどうやってこっちに来たんだよ?」
有利は頭を抱えていた。
本当になんで私は『この世界』にいるんだ?
やはり夢なのかしら?
実は現実では、私は崖から落ちて救急車に運ばれて、病院のベッドに寝てるとか?
とりあえず、起こそうとペチペチ頬を叩いてみた。
「な、何してんの? 彰子」
「夢なら覚めないかな〜って……」
「いや、気持ちは分かるけど夢じゃないから!」
ペチペチと音に気付いたのか有利が振り返って聞いてきた。
皆さんもそれを見ている。
「だって、有り得ないもの。私が此処にいるなんて。マンガや映画じゃあるまいし」
「だから、ここはテーマパークでもドッキリでも夢オチとかでもないから!そ、そりゃ地球じゃないけど地球出身の俺や村田がいるし、コンラッドも地球に行った事あるから、悪いようにしない、大丈夫だから」
真剣な眼差しで言われ、ほんのちょっとカッコいいと思ってしまった。
でも、違うんだよ。有利。
彰子はため息をひとつ吐いた。
信じてもらえるかどうかは分からない。でも話してみないと…………。
「あのさ、これから言うことを信じられないかもしれないけど真実だから、聞いてもらえるかな?」
5人は顔を見合わせながら、頷いた。話を聞いてくれるらしい。
彰子は深呼吸をすると、口を開いた。
「私は、有利くんたちがいう地球とは違う地球から来たと思うんだ」
それを言ってしまっていいのかは不明だけれども。
To be Continued