04
「……彰子って…」
有利がじっと見つめてくるのに、彰子はやや後退りした。意味はない、ただなんとなくだ。
「腐女子っていうヤツ?」
え? ゆーちゃん、腐女子って知ってるんだ〜……お兄ちゃんがギャルゲー好きのオタクだからかな……って、
「失礼なっ! 私はマンガアニメオタクなだけで、腐女子じゃないわよっ!」
「婦女子?」
「だから、腐れてなんかいないってば!」
呟いたコンラッドに向かって、彰子は指差した!
「いや、だから腐女子じゃないの?」
「なっ! まさかゆーちゃんはマンガアニメ好きならすべて腐女子って思っているんじゃないでしょうねっ!」
彰子はプンプンという風に腰に手を当てている。
村田はそんな様子に少し笑いたくなった。
「言っとくけど、私は生産性のない恋愛は好物ではないわっ! ゆーちゃんが野球バカというなら、私はアニメマンガバカという訳、分かる?」
有利に負けず劣らずのマシンガントークに押され、有利は「う、うん」と頷いた。
「因みにまるマは好きなアニメだから、結構知ってるのよん。好きなキャラ筆頭はゆーちゃんだから」
パチン、と片目を瞑る彰子はなんだか可愛さがある。
「お、俺!?」と有利は自分を指差し、やや顔を赤らめた。
「うん。……まぁ、本当は、彩雲国にトリップがよかったけど」
ボソリと不満を呟いた。
「彩雲国って?」
「先ほども言ってましたよね? サイウンコクとか……どこの国ですか?」
聞こえていたのか村田が反応し、コンラッドも先ほどの事を思い出して訊いた。
そんな国名あったかな、と考えながら。
「あ〜〜、聞こえてたんだ。彩雲国ってのはまるマと同じで小説のタイトル。その小説に好きなキャラがいて〜」
えへへ〜と苦笑する彰子だった。
「勿論、まるマも好きだけど……彩雲国に出てくる藍将軍がもうっ、格好良くて堪らないの、一番好きなんだ! 静蘭も麗しくて好きだし、劉輝も可愛くて大好き。でも別格なのは邵可様! もう素敵過ぎるのよ、健ちゃんなら分かるわっ! だって、声が赤い彗星なのよっ!!」
キャー!と騒ぐ彰子に、最早コンラッドたち眞魔国の彼らはもとより有利も分からない。かろうじて、村田は赤い彗星は分かった。
「それは格好良いだろうね」
「ありがとう、私、健ちゃんもゆーちゃんと同じくらい大好きよ」
ガバッと抱きついて、笑う彰子に村田は苦笑するしかなかった。
「なんか、喜ぶトコなのかな〜」
「それは健ちゃん次第かな。でもまるマ──この世界で好きなのはゆーちゃんと健ちゃんなのは確かよ」
「うーん、じゃあ喜んでおくかな。ね、渋谷」
「あ、ああ、そうだな……」
「ありがとう、ゆーちゃんっ!!」
「うわっ……ってぇぇ〜っ!?」
そう言う有利に彰子は嬉しくて抱きつくと、真っ赤になるのが可愛くて、思わず頬にキスをすれば、有利が悲鳴をあげた。
「陛下っ!」
コンラッドに掴まれ、ベリッと有利から引き離された。
「あ、ごめん。つい嬉しくて……すみませんでした」
彰子は慌てて頭を下げた。
しかし有利が赤くなったのは、彰子の意外に大きい胸が当たったからだ。
「い、いや……いいよ……俺の方こそごめんな…」
「可愛いっ!」
再び抱きつきたかったが、目の前のコンラッドに阻まれたのは言うまでもない。
「──ところで、これからどうするのだ?」
振り向くと眞王がやれやれといった風に、こちらを見ている。
「えっと……どうしよっか……」
さすがにどうしたらいいのか有利も分からず、コンラッドや村田、眞王たちを見ていた。
「とりあえず、放置しておく訳にもいかないし、血盟城に連れていくしかないだろうね」
「ここに置かれても迷惑だからそうしてくれ」
村田がそう言うと眞王が頷きながら、そう言った。それを聞きややへこむ彰子だった。(眞王陛下好きなんだけどな…)
「そうだな、血盟城でみんなに訳を話して決めようか」
「はいっ! 魔王陛下」
有利に対して、彰子は手をあげた。
「な、なんだよ。いきなり魔王陛下とかいうし……」
「お願いがあります。私が色々知ってるということを秘密にして貰えませんか?」
さっきまでとは全く違い、真面目な顔で話す彰子にいち早く反応したのは村田だった。
「なんでかな? 彰子ちゃん」
彰子は肩を竦めながら、苦笑した。
「だって、気持ちいいもんじゃないでしょう? 私はこの世界の事を知っている、しかもこの世界は私のいた世界では『物語』だという。貴方たちは自分が生きていた世界が二次元のモノ、作られたモノでそれを見知ってる人がいるなんて……さっきは信じてもらおうと思って話しちゃったけど、正直、嫌だったろうなって思うだろうし……ごめんなさい。私の存在は今はイレギュラーだし、邪魔だと思うなら牢獄に入れてくれても構わないわ」
彰子は平然と言ってのけた。
その言いっぷりに有利は驚き、村田とコンラッドはなんともいえない顔をしていた。
「まあ、その娘の言う通りだな」
「そうでしょ、眞王陛下。身元も分からない不審人物、しかもこの世界を『物語』として知ってるなんて怪しさ倍増、気持ち悪いでしょ?」
「だからって、女の子を牢獄に入れるなんて出来ないって」
「ゆーちゃん、こういう時は厳しくないとダメだよ」
「でも、そんなこと出来る訳な「そうだね、そうしよう」」
有利はダメだ、と言っていたが、それを遮って村田が彰子の提案を肯定した。
「村田っ!? お前まで何言って…俺は反対だぞ、女の子を牢獄に入れ「そうじゃなくて、牢獄の件じゃない。name1#ちゃんの世界での僕たちのことだよ」」
村田は有利を見ながら言った。
「確かに彼女の存在は危険だし、怪しいよ。でも牢獄に入れるのは僕も反対。だったら、彼女の秘密はここだけの秘密にしようじゃないか。彰子ちゃんも黙っててくれるみたいだし、ね?」
「それは勿論だけど、いいの? 監禁とかしておかなくて…」
彰子は首を傾げながら訊いた。
そりゃ、牢獄とか監禁は嫌だけどこうまで怪しいヤツを放っておく訳にはいかないだろうし。
「勿論。ああでも監視はつけさせてもらうけど、いい?」
「それは、当たり前だと思うから構わないよ…」
予想の範囲内だったからそれは頷くと、村田はコンラッドを見た。
「ウェラー卿、頼めるかな?」
「分かりました。これからよろしくお願いします、ショウコ」
にっこりと笑う顔を見ながら、密かに彰子はため息を吐きたくなった。
目を閉じて聞けば、楸瑛に言われてる気がして嬉しいけれども、目を開ければ違うのに、やや残念がった。
とりあえず、血盟城へ行く前に彰子は有利や村田の地球での知り合いという設定にした。
じゃないと彰子が馴れ馴れしすぎるからだった。
To be Continued