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黒子のバスケ

夏休みも終わり、9月に突入した。
東京はまだまだ残暑が厳しく、茉穂は学校帰りに友達と寄り道をしていた。

「はぁ〜、もう9月だっていうのに暑いわよね〜」

「本当。でもお店はもう秋物が並びまくってて、なんだか訳がわからなくなるわ、本当に涼しくなるのかしら」

「いえてる〜」

友人たちの残暑の愚痴を聞きながら、茉穂は扇子を片手にパタパタと扇ぎながら、道を歩いていた。

「って言うか、何で扇子なんて持ってんの? 茉穂」

「んー、今日のラッキーアイテムなんだって」

「ラッキーアイテム〜?」

「うん、おは朝占いの。私、今日10位らしくて」

「茉穂って占い信じるクチだっけ?」

「しかも、らしいって何よ、らしいって?」

「あー、知り合いが信じる人でね、毎日教えてくれるんだよ」

「へ〜、なんか凄いね」

そう、今朝も緑間くんからおは朝占いのメールが届いた。ラッキーアイテムがないなら、届けるというくらいだ。
まぁ、流石にそれは遠慮している。テツに言ったら何とも言えない顔をしていたのを思い出す。
そんなことを考えていたら、友人二人が帰らなくちゃいけないらしく、先に行ってしまった。
どうしようかな、と考えていたが目の前にマジバが見え、ちょうど喉が渇いていたから寄ることにした。

「茉穂〜、何頼む? 私はアイスコーヒーにするよ」

「私は暑いし、シェイクにしようかな」

注文した品を受け取り、席に座ろうとしていたら、ポンポンと肩を叩かれた。

「やっほ〜、茉穂ちゃん。久しぶり〜」

「え、高尾くん!? 」

振り向いたら、そこには高尾くんの姿があってびっくりしてしまった。
傍らの友人は誰?という顔をしている。というか、なんか怖い顔つきだ。

「高尾っ! 何をしているのだよ!」

「あ、わっりぃな、真ちゃん。茉穂ちゃん見かけたからさ〜」

高尾くんが肩に腕を回し、ポンポンと叩いてくる。
緑間くんの登場で展開についていけずにいたが、高尾くんが友人に話し掛けた。

「茉穂ちゃんの友達? ここに座ってもいいかな〜?」

「は、はい! どうぞ!」

高尾くんが友人の隣の席を指差すと、友人は置いておいた荷物を取り、席を引いた。
なんだか高尾に見惚れている。顔いいしね、高尾くん。

「高尾っ!」

「なんだよ、真ちゃん。久々に茉穂ちゃんに会ったんだし、別に構わないじゃんか。ね〜、茉穂ちゃん」

急に話を振られ、高尾くんの横に立っている緑間くんを見上げた。背が高すぎて首が痛くなりそう。

「う、うん。良かったら緑間くんも座ったら?」

そういって、空いている隣の椅子を引いた。

「わ、分かったのだよ」

眼鏡を弄りながら、緑間くんは席に座った。
一瞬、間が生まれる。
ぶっちゃけ、これからどうするのよ?と疑問を抱くと、高尾くんが口をひらいた。

「君は茉穂ちゃんの友達なの? あ、俺は高尾 和成。秀徳なんだ」

そう会話を始めた。
友人は緑間くんの挨拶も聞きながら、なんだか笑いそうになっている。
気持ちは分からなくもないし、高尾くんはニヤニヤしていた。

「じゃあ、二人ともバスケ部なんだ〜」

「そ。君は何部なの?」

「私? 私は茉穂と同じ料理部なの」

「へぇ、いいね。料理出来る女の子って」

「そ、そうかな? ありがとう」

やたら盛り上がる二人を眺めながら、私はシェイクを啜っていた。
照れている友人を見て、こりゃ、明日から煩そうなんて思ってしまった。
ズコーと凄い音がして、シェイクを飲みきったことに気づく。凄い音だったから、友人も高尾くんも緑間くんもこちらを見た。

「茉穂、もう飲み終わったの?」

「うん。そうみたい」

そういえば、飲み終えたら帰ろうと話をしていたのだが、それは出来ないようだ。
高尾くんなんか、音が凄かったからか可笑しかったのか笑っている。
彼って笑い上戸だよなぁ。
そんなことを考えながら、まだ帰らないよ!とアイコンタクトしてくる友人を見つめ、席を立った。

「……何か追加で頼んでくるね」

「うん、分かった〜」

財布を片手に移動すると、何故か傍らの緑間くんも席を立った。

「俺も行くのだよ」

「へ?」

「お、俺も何か追加するのだよ」

発言する緑間くんに高尾くんはブハッと笑い出す。
一体、なんなの?と疑問を抱きながら「煩いのだよ、高尾!」と怒鳴る緑間くんに押され移動した。

「緑間くん、もしかして気を遣わせた?」

レジに並びながら、後ろに立つ彼に聞いてみるが、そんなことはないのだよ。と言われてしまう。
そっか、と相槌を打ちながら何を注文しようかとメニューパネルを見る。
もう一回、シェイクでもいいかな〜なんて考えていると声を掛けられた。

「何にするか決めたのか?」

「え、あ、うん。シェイクにしようかなって」

「……先程も飲んでいなかったか?」

「あ〜、うん。好きなんだよね、ここのバニラシェイク」

そう言った途端、緑間くんの眉間に皺が寄った。
顔が良いだけに迫力がありすぎる。

「ど、どうかした?」

「…………いや、ここのバニラシェイクと聞くと…」

「あぁ、テツを思い出す? テツもここのバニラシェイクが大好きなんだよね。小さい頃、親たちが買ってきてくれた時なんか手違いでバニラ1つしかなくて、喧嘩したくらいだよ」

小さい頃を思い出しながら、クックッと笑いが溢れる。
とその時、視界に入った幼馴染みの姿に声が出た。

「あれ? テツ?」

「は? 黒子の姿など……」

緑間くんは気づかなかったようだが、声に気づいたテツはこっちに一直線に寄ってきた。

「茉穂、と緑間くん。こんなところでどうしたんですか?」

「テツこそ。部活は終わったの?」

「はい。ちょうど良かった、茉穂、一緒にシェイク買って下さい」

僕だとなかなか気づいてもらうのに時間が掛かって。早くシェイク飲みたいのに。と愚痴るテツを見て、茉穂は笑いながら引き受けた。

「というか、緑間くんと一緒なのはどうしてなんですか?」

「えっ、と……偶然?」

「偶然、ですか」

「……そうなのだよ」

テツが繰り返すと、何故か緑間くんはそっぽ向いてしまった。
分からずにいると、テツはクスッと笑い「シェイクお願いします」と傍から離れた。
一体なんなんだろう?と不思議に思いながら、レジでバニラシェイクを2つ頼んだ。
席に戻ると、テツも一緒のテーブルにいた。

「お、真ちゃん、茉穂ちゃんおかえり〜」

「テツ、ここにいたのね。はい」

「高尾くんに勧められたので。ありがとうございます」

シェイクを手渡して、席についた。
色々会話をしていると今度は火神くんが現れて、緑間くんと火花を散らしている。
テツや高尾くんが言うには相性が悪いだけ、というが……。

「そういえば、茉穂ちゃん。こないだ海常の黄瀬とカラオケしたんだって?」

「え? なんで知ってるの?」

「僕にも黄瀬くんから写メ届きましたからね。高尾くんが知ってるということは、緑間くんにメールがいったんですか?」

「そ、真ちゃんってば凄いイライラして大変だったよ」

「そういえば、僕のところに黄瀬くんからメールが着ましたよ。緑間くんに叱られたとか、なんとか」

それを聞いた高尾は腹を抱えて笑い始め、黒子も意味ありげに笑っている。
何故か、友人も茉穂と緑間を交互に見ると笑っていた。
訳が分からないのは茉穂と火神である。が緑間の「煩いのだよ!」という大声にその場は終わってしまった。

友人は方向が違うらしく、高尾くんと帰れない事を悔やみながら、たまたま途中まで一緒の火神くんを連れて帰っていった。
高尾くんはじゃあ、待ったねぇ〜と自転車とリアカーを繋げた乗り物に乗って行こうとしていた。

「高尾っ、待つのだよっ!」

「え〜、真ちゃんは茉穂ちゃんと黒子と帰りなよ。帝光仲間なんだし〜。じゃーなぁ〜」

高尾くんは自転車でリアカーを引っ張っているとは思えない速さで行ってしまった。

「……高尾くん、凄い脚力ありそうだね。リアカー引っ張って行くなんて」

「そうですね、僕には無理ですね。あんなの」

そんな会話をしながら、家路へと向かう。
別段、テツとは話さなくても互いに苦にはならないが、緑間くんが加わると何か不思議である。
あまり会話もなく、分かれ道まで来た。

「緑間くんは、あちらでしたね」

「あぁ。……その、気をつけて、帰るのだよ」

「緑間くんも気をつけてね」

「大丈夫だ、ラッキーアイテムを持っているからな」

そう言ってスタスタ歩いて行く緑間くんを見送るが、茉穂は思い出した様に声をあげた。

「テツ、先に帰ってて! 言うの忘れてた!」

「え、茉穂?」

やや小走りで行ってしまった幼馴染みに黒子は額に手を当てた。

「走ったりしたら、辛いのは自分なのに」

ボソリと呟いた声は誰にも届かなかった。


◇◇◇◇◇


「緑間くんっ!」

名前を呼ばれ、振り返れば茉穂の姿に緑間は目を見開いた。

「白川、どうかしたのか?」

「緑間くん、歩くの早いねぇ〜」

ハァハァとやや息を乱し、胸に手を当てている茉穂に緑間は踵を返して、彼女の元へと戻る。

「どうかしたのか?」

再び、訊いてみると彼女は笑みを浮かべて口を開いた。

「あのね、いつもおは朝の占いの事ありがとう!」

「大したことではないのだよ」

「でも朝は忙がしいのにメールくれるでしょ。ちゃんと会ってお礼言いたかったの。本当にありがとう」

ふふっと溢れる笑みに、緑間の心臓はどくんっと大きく高鳴った。
じゃあ、それだけ。と行って引き返そうとする茉穂の腕を緑間は慌てて掴んだ。

「待つのだよ!」

「へっ?」

「……く、黒子はどうしたのだよ?」

「テツ? 先に帰ってもらったけど?」

キョトンとした顔で緑間を見上げてくる姿にまた胸が鳴る。

「もう暗い。送っていくのだよ!」

なんとなく顔を見られたくなくて、緑間はそっぽ向いて、そう告げると歩き出した。
いきなりの行動に訳が分からないが、茉穂は緑間を追いかけた。
その姿に緑間の口端がやや上がったのだった。





To be Continued





幕間的な感じ。
纏まりがなくてすみません。
次は一気に進みたい、ですね。


2013/06/17


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