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黒子のバスケ

夏の暑さも終わり、朝晩は涼しいくらいになった。
テツは毎日練習で忙しいらしく、あまり顔を見ることも少なくなった。
まぁ、幼馴染みとはいえ、そんなもんだと分かってはいる。むしろ、いつも一緒なさつきちゃんと青峰くんがすごいと思うが、さつきちゃんに言うと怒るから言わないでおく。
緑間くんも毎日ラッキーアイテムの事でメールをくれる。
テツに言えば、「僕は占いは信じてないので」と言っては「緑間くんの努力は明後日の方向です」などとよく分からない事を言っている。
明後日の方向って何だろう?

月明かりが綺麗な夜、母に頼まれて近所のコンビニへと向かう。
つか、こんな時間に外に出すって酷くない?と言えば、大丈夫!と言われた。酷いよ、お母さん。
途中、公園からボールの跳ねる音がした。

「こんな時間に何だろう?」

時計を見れば、既に8時半を既にすぎている。
確か、ここにはバスケットのゴールがあった気がする。もしかして、と興味本意に公園へと足を向ける。
ポツンとあるバスケのゴールは1つだけで、小学生の頃、テツが友人と練習していたものだ。
ダムダムッと今年の夏に聞きなれた音が耳に入る。
一瞬、誰もいないように見えるが、茉穂の目にはぼうっと佇む白い人影。

「テツ」

「え?………茉穂?」

やはりというか、うん、テツだった。

「どうしたんですか? こんな時間に」

「それはこっちの台詞だよ、練習?」

「はい。新しいドライブの」

「あ〜、前に言ってた。どう? 出来る様になった?」

テツに問いかけながら近づいていく。
うん、これ、幽霊に間違われそうだわ。
いくつか外灯があるとは言え、薄暗い中、影の薄い人間がボールを衝いていたら都市伝説になりそう。
夜、誰もいない公園でボールの音が永遠と聞こえる、とかなんとか。

「もうすぐ出来そうです。丁度良かった、手伝ってくれませんか」

「手伝うって?」

「立っててもらえればいいんです」

「まぁ、そのくらいならいいよ」

コンビニは後からでもいいだろうと思い、テツに促されて移動する。

「ここら辺でいい?」

「はい。あ、出来れば構えてもらってもいいですか?」

「え、構えるって……こ、こう?」

思わず両手をグッと前に出してみた。
ファイティングポーズになってしまった。

「……それでいいです」

「左右動いた方がいい?」

「大丈夫です、いきます!」

ダムッとボールが跳ねる。その音にゴクッと息を呑んだが……あれ?

「…………ん?」

「あ……」

ボールは私の体にぶつかり、トントントンと小さく弾んでいる。

「……失敗しました」

「失敗、だよね」

「おかしいですね、大体出来ていたんですが」

テツがボールを拾い上げて、困った様に見ている。

「うーん……ねぇ、テツ、大体出来ていたんだよね?」

「はい……多分」

「多分って……。じゃあさ、私も協力するよ、対人練習に慣れてないからかもしれないし、やっぱりしておいた方がいいでしょ? まぁ、立ってるしか出来ないけど」

「でも練習は夜ですよ。毎晩茉穂を外出させる訳には行かないです」

「大丈夫だよ、家はすぐそこなんだし。それにウインターカップだっけ? 予選もうすぐなんでしょ」

「そうですが…」

「テツ、ずっと練習してたでしょ」

テツからボールを取り、表面をなぜる。ザラザラである筈なのに大夫滑らかになっている気がする。

「どうして ずっとって分かるんですか?」

「ん? だって聞いていたから」

「聞いたって、桃井さんからですか?」

「さつきちゃんからもテツが新しい技を練習してるって聞いてたけど、情報はうちのお母さんから。まぁ、お母さんはテツん家から聞いたみたいだけど」

「そうだったんですか」

クルクルとバスケットボールを肩から指先にと移動させる。大きすぎてちょっとやりにくいな。
スーッと何回も移動させていると、テツが上手ですね、と言ってきた。
元新体操部を舐めるなよ!と意趣返しに、ボールを滑らせてテツの腕へと放った。

「大体、こんな夜にボールの音がしていたらまた幽霊に間違われるわよ」

「間違えられませんよ」

少し剥れるテツを見て、笑いが込みあがる。

「笑わないで下さい」

「ふふっ、ごめん」

ダムッとボールがまた地面を跳ねる。

「……茉穂」

「なに?」

「練習、付き合ってもらってもいいですか?」

「いいよ」

「さっきと同じで立ってるだけでいいです。でもファイティングポーズはいいです」

「了解!」

ダムッ!またボールが地面を跳ねた。


◇◇◇◇◇


「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう」

練習も程ほどにして、コンビニ前でテツから紅茶を渡された。

「茉穂のおかげですかね、対人練習もコツが掴めてきました」

「たま〜にスッポ抜けたりしたけどね」

「はい、まだまだ練習は必要ですね」

紅茶を口にしながら、空を見上げる。
月が明るいなぁと思っていると、ポケットにしまっていた携帯が震える。
お母さんかな、と携帯を取り出した。

「メールですか?」

「うん……あ、緑間くんからだ」

「緑間くんですか」

明日のラッキーアイテムの事だろうか? そんなことを思いながら、メールを開いた。

「うん、…………ん?」

「どうしました?」

「うん……なんかよく分からないんだけど『おは朝のラッキーアイテムは必ず持つのだよ』だって」

「「…………」」

テツに画面を見せると彼も不思議そうにしている。

「……なにか、あったんでしょうか?」

「……さぁ?」

互いに首を傾げるしかなかった。
悩んでもなにもならないと、とりあえずテツと家路につくことにした。

「明日も練習するの?」

「はい」

クルクルと指先や手を使い、ボールを弄るテツに問いかける。

「じゃあ、また付き合うよ」

「良いんですか?」

「毎日は無理だけどね、別に構わないよ」

「ありがとうございます。じゃあおやすみなさい」

「うん、また明日ね。おやすみ」

手を振って、茉穂は家へと入る。
黒子はドアが閉まるのを見届けてから、家へと向かった。

自分は幸せだと、思う。
信頼出来るチームメイトがいて、練習に付き合ってくれる優しい幼馴染みもいる。
拳をグッと握り、テツは空を見上げた。丸い月が美しいと思える。
手に持つボールを掲げて、息を吸った。

ウィンターカップ予選までもうすぐ。
早く新ドライブを形にしようと、球体に誓った。






To be Continued


2013/11/27


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