13

黒子のバスケ

「あれ〜? 茉穂ちゃんいなくね?」

メールに知らされていた教室へとやって来たものの、お目当ての彼女の姿が見当たらない。
だが、運良くというべきか、彼女の友人の姿が目の端に入る。あちらも気付いたのか紅い着物姿でパタパタと駆け寄ってきた。

「高尾くん、緑間くん。来てたんだ」

「あ、覚えててくれたんだ〜。入ってもいい?」

「うん。あ、いらっしゃいませ〜」

頷きながらも、お客様ということを思い出したのか、にっこりと笑顔で迎えてくれた。

「おい、高尾!」

茉穂がいないからか、なかなか入ろうとしない緑間に高尾は「いいから入ろうぜ」と背中を押して教室へと踏み込んだ。
和風を目指したんだろうか、紅いテーブルクロスに、椅子には黒い座布団で統一し、所々に和風の小物が並んでいる。甘味処、の様だ。
席に案内され、高尾は茉穂の友人に話し掛けた。

「そういや、茉穂ちゃんの姿ないけど、裏方だっけ?」

裏方だよ、と前以て教えられていたが、そうなると紅い着物姿ではないのかと思い、若干がっかりしそうになるが、エース様には目の毒にもなりそうだ。なんて高尾は考えてしまう。

「茉穂ならちょっと出てるよ。食材の事で先輩からバスケ部に言付け頼まれてたし、その後部活の方にも寄るとか言ってたから。そろそろ戻ると思うよ?」

緑間を見ながら、やや笑う彼女に、緑間は眉間に皺を寄せていた。
そんな彼女に呼応するように「だってよ、真ちゃん。すぐ戻ってくるってさ」とニヤニヤと笑う。
「フン」と顔を横に逸らすと「拗ねんなって!とりあえず何か頼もうぜ」とメニュー表を見た。

「お! おしるこあんじゃん。良かったな、真ちゃん」

「な、なに…」

お汁粉というワードに緑間はメニュー表を取り上げると、綴られている文字を見つめる。
そこには確かに『お汁粉』と綴られていた。
嬉しそうにしている緑間に高尾と友人は目を合わせて笑う。

「ご注文はおしるこ2つでよろしいですか?」

「待った、待った。俺は別もんにするよ。何がお薦め?」

「うーん……今のとこ出てるのはお団子セットかな?抹茶付きなの」

「じゃ、俺、それにするわ。真ちゃんは? おしるこだけでいいの?」

「俺も抹茶を貰うのだよ」

「はい、承りました。少々お待ちください」

茉穂の友人が頭を下げて、オーダーに入っていくと、高尾は緑間に顔を向けた。

「良かったじゃん、おしるこがあってさ」

「フン、食べて見なければ分からんがな」

「そんな事言うなって……お、あれ…?」

「どうかしたのか?」

「なんか見覚えがある奴が……あ、茉穂ちゃん」

高尾の言葉に緑間が入口の方に顔を向けると、確かに茉穂の姿があった。それと同時に見知った二人の姿も目に入る。
緑間は思わず目を見開いた。


◇◇◇◇◇


「ちょっと青峰くん! そんなに茉穂ちゃんに寄り掛かるの止めなさいよ!」

「良いじゃねえかよ」

「いや、良くないからね、青峰くん」

茉穂は久しぶりに会う青峰の態度に、昔と本当に変わらないな、とげんなりしていた。

「大体、青峰くんに後ろから押し潰されながら歩く私の事を考えてよ?」

「そうだよ、茉穂ちゃんが潰れちゃう!」

「潰れるようなタマかよ、コイツが」

「失礼ねっ!」

「つーか、お前、成長してんのかよ?」

「身長は伸びたよ!2cm!」

「2cmって、オマ、オマエの身長何cmだっけ?!」

ぶはははは、と笑う青峰を見上げながら、足を踏んでやろうと勢いよくやったが、野生の勘なのか寸での所で避けた。
地味に痛い足で自分のクラスへと戻る。

「うるさいよ、青峰く……ん?」

教室へ入ろうとした瞬間、視界の端に緑色が見えたが、それよりも違和感を感じて、自分の胸元を見る。

「ちっとは成長したみてぇだな」

青峰の言ってる事に、何が、というか、茉穂は自分の胸元を凝視した。
着る予定ではなかった紅い着物に見馴れない色黒の大きな手が乗っている。尚且つ、動いていた。

「ちょっ……大ちゃん、何してっ…?!」

「は? え? な、なにすん」

桃井は真っ青になり、幼馴染みが大事な親友にセクハラしている事に目を見開いた。
茉穂も突然の事に驚きながらも、抵抗しようと青峰の手を掴み離そうと声をあげる。最後まで言葉が出ない内に、ガツンっ!と大きな音がした。
青峰の頭に何か当たったらしく、痛みの衝撃かは知らないが、青峰の手が離れた瞬間、茉穂は誰かに腕を取られて、引き離された。

「……ぃ、てぇ……何だ? 誰「青峰えぇぇぇ」っ?! み、緑間っ!?」

「ミドリンっ?!」

居るとも思わなかったかつてのチームメイトの姿に青峰も桃井も驚いていた。しかし、桃井は茉穂の姿と緑間を見合わせてから、なるほどね。と笑みを浮かべる。
だが、理由が分からない青峰は珍しく目をぱちくりしている。
あ、コイツ怒ってんな、というのは長年の付き合いで知っている。

「何をしているのだよ、青峰…」

まるで地を這う様な声音に(何、怒ってんだ、コイツ)と疑問を抱く。

「何って…コイツの成長を…」

調べたと言おうとしたら、何故か手裏剣が飛んできた。まぁ、本物ではなく、折り紙で作られたものらしいが、ご丁寧に銀紙で作られていてなかなか鋭い。
余談だが、折り紙手裏剣は本日の蟹座のラッキーアイテムであり、高尾が作らされた物である。

「てめぇこそ、何すんだよ!」

「阿呆に制裁をだな…」

「青峰くん、緑間くん。迷惑行為は止めてください」

教室の入口で揉め事はやめて欲しいな、と思っていた矢先、透き通るような耳慣れた声と共に、ゴスッ!と音がして、長身の男二人は何故か膝を付いていた。
周りの野次馬たちは何が起きたのかと目を見張るが、目の良い高尾は誰よりも、誰が来て、何をしたかが分かり、「ブフォ!」と笑い出している。

「……テ……テツ……お前……」

「……く、くろ、こ……貴様…」

「……くっ、くっ、く……あははははははっ!」

「高尾くんも落ちますか?」

「止めてください」

「テツくん、格好いい〜」

思いがけない人物の登場に、桃井は目をハートにしながら「やっぱり、テツくん、素敵」と顔に両手を充てている。
「…流石、黒子っち…」と呟いたのは変装をしていてもどこかイケメン臭を漂わせている黄瀬だった。どうやら黒子と一緒に来たらしい。

「テツ、どうしたの?」

「茉穂。また青峰くんにまたセクハラされたみたいですね。大丈夫ですか?」

「え、あ、あぁ…」

ちらりと青峰を見ると鳩尾をやられたらしく、未だに呻き声を上げている。
どうにかされてやろうかと思っていたが、何だか気の毒なので今は止めておこうと思う。
むしろ緑間くんの方は大丈夫なのかと心配してしまう。

「…まぁ、いつもの事だし。ってか、テツはどうしてここに?」

「あぁ、煩い駄け…黄瀬くんが来たのでせっかくだから茉穂の所に来てみたんですが、まさか、この人たちがいるとは思いませんでした」

「…………そうだよね…」

ははっ、と苦笑いしか出ない。
そんな時、隣にいた桃井が声をあげた。

「テツくん、久しぶり〜〜!」

「桃井さん、久しぶりですね」

無表情ながらも目元を和らげた黒子に桃井は頬を赤く染めた。そして興奮したかの様に声をあげる。

「テテテテツくんっ!その格好、似合ってる!」

「そうですか?」

白いシャツに黒のベスト、そして黒のエプロン。所謂ギャルソン姿だ。
黒子は腕を軽く上げ、袖もとから自分の格好を見つめる。
その様に桃井はデジャブを感じる。
(前にも、こんなことあった…)
それは二年前の帝光祭の時だとすぐに思い出す。あの時、黒子は執事姿だった。
あの時も格好良かったが、今日も格好良くて桃井は胸がドキドキと高鳴らせていた。
ギャーギャーとどこか騒がしい様もどこか懐かしい。
しかし、茉穂は額に手を置いて、これらをどう収めたらいいのか分からず、眺めているクラスメイトや、お客さんたちに頭を下げるしかなかった。




To be Continued


2014/12/12


-14-

青春ラビリンス / top