16

黒子のバスケ

「とりあえず、高尾くんと合流しよっか?」

「……ああ」

カチャリ、と眼鏡を弄りながら答えると彼女はフフっと笑いながら「こっちだよ」と指を差した。
高尾などどうでもいいんだが。
廊下を歩いていると、所々で白川が声を掛けられている。
大半が女生徒だが、たまに男子生徒からの視線があるのは気のせいだろうか?

「白川さーん、もしかして彼氏ぃ〜?」

「超背ぇ高いし、格好いいんだけど!」

「中学の同級生だよ」

「えー、そうなの?」

「マジで? じゃあさ」

「白川、早く行くのだよ」

苦笑いしている白川を見て、女生徒がなにかを言う前に言葉を遮った。

「あ、う、うん。ごめんね、それじゃ」

謝る彼女の腕を掴み、目的もなしに歩いた。
彼女が言ったのは紛れもない事実であり、何一つ間違ってはいない。
だが、何故か、あのままでは面倒な事になりそうな気がして仕方なかった。

「み、緑間くんっ、どこに…?」

まだ此方を見ている輩を視界の端に入れながら「少し離れるのだよ」と答えた。
ずんずんと暫く歩いていると、切羽詰まった声が聞こえた。

「……っ、み、緑間っ、く、ん……も、とゆっ…くり……」

「………………っ、」

振り向くと、白川が息を乱しながら小走りに着いてきていた。
驚きのあまりに立ち止まれば、ガフッ!とぶつかられた。
ぜぃぜぃと胸元に手を当てながら息を整える彼女を見て、ずっと前にも学校で女子に待てと言われた事があったな、と思い出す。
その時は気にせず歩いたものだが、高尾に「真ちゃん、コンパスの差があんだから女子に合わせないとダメじゃん!」と言われたものだ。
「何故合わせる必要があるのだよ」と返せば「ダメだこりゃ」とため息を吐かれた。

「……………す、すまない…」

「……へ?…あぁ、緑間くん、脚長いから追い付けなくて、こっちもごめんね」

「…………」

「どうかした?」

「いや、……なんでもないのだよ」

なんとなく、文句を言われたいような気がした。
これが青峰であれば、彼女は文句のひとつも言うのだろう。
中学ではそんな光景を見た事があったような気がする。
なんだか、まだまだ距離があるような気がしてならない。こんなに、近くにいるというのに、柔らかい感触が…………。
というか、触れていた。ずっと腕を掴んでいたのに気づき、慌てて手を離した。

「…………っす、すまなかった……」

「? それはさっきも聞いたよ」

笑う彼女を見て、そうではなく腕を…と言おうとしたが止めた。
彼女は気にしていないのだろう。
なんとも言えない気持ちでいれば、落ち着いたのか白川が袖を引っ張ってきた。

「ほら、とりあえずバスケ部のトコ行こうか。高尾くん待ってるだろうし」

「あ、あぁ……」

くいっと引っ張られたまま歩き出す白川を見下ろして、その仕草が可愛く思えた緑間は口元を手で隠した。
緩みそうになるのを隠したかったからだ。
二人で歩いて行くと、バスケ部があてがわれた教室へと着いた。
看板に書かれていたのは「サンドイッチ攻防」。攻防とは工房にかけているのか?と疑問を抱いた。
意外に客がいるな、と思えたのは女性が並んでいるからだ。

「なんでこんなに混んでいるんだろ?」

白川が不思議そうに首を傾げていると、声が聞こえた。

「はいはーい。サンドイッチ三個セットお買い上げのお客様には時間限定、モデルの黄瀬くんと写真撮影が出来まーす」

聞きなれたそれは高尾の声だった。

「……高尾…? それに黄瀬の写真撮影?」

「? どういう事…」

二人で顔を合わせていると、教室の中からは悲鳴に似た歓声が聞こえる。
扉から覗こうにも人だかりで近寄れない。

「黄瀬くんと高尾くんがお店を手伝ってくれているんです」

「……っ?!く、黒子っ? 驚かせるな!」

背後から急に話し掛けられ、驚きの声をあげてしまった。
しかし、白川は幼なじみ故か、あまり驚きもせずに黒子に振り返った。

「なんで、手伝ってるの?」

「まぁ、色々ありまして……強いて言えば黄瀬くんのせいですが」

話を聞けば、黄瀬が黒子に案内を頼むと駄々をあげたらしいが火神と言い争いになり、話し合い処か弾みで押した結果、先輩の1人がぶつかり、置いてあったサンドイッチと何故か置いてあった戦国武将のフィギュアが壊れたらしい。飾りか?
怒った誠凛の主将が黄瀬はもちろん、その場にいた高尾をも巻き込んで手伝わせているらしい。
ちなみに火神は黄瀬のせいというか、黄瀬のおかげというか分からないが追加でサンドイッチを大量に作る羽目になったらしい。

「青峰と桃井はどうした?」

「お二人はちょうどその場にいなかったので」

「そうか」

だから青峰は黄瀬を指差して笑っているのか。
桃井は誠凛の女カントクとなにやら話をしているようだが。

「そういえば、茉穂」

「うん、なに?」

「カントクと料理部の部長さんが何やら話をしていたしたよ。せっかくだから、シュータワーを使ってコンテストをやるとかなんとか」

「は?」

黒子と白川の会話を耳にしていると、桃井がこちらに駆け寄ってきた。

「テツく〜ん! よよよ良かったら、私とベベベベストカップルに出ない?!」

「ベストカップル?」

「?そんなのしてたっけ?」

白川と黒子が同時に首を傾げると、あの女カントクともう1人女生徒が近寄ってきた。

「白川さん。ちょうど良かったわ」

「ちょっと待って!」

「部長? どうしたんですか?」

近寄ってきた女生徒がこちらを見てくる。一体なんなのだ、と見つめ返すと「あわわわわ」と変な声を出している。

「ちょっと、白川?! なに?!このイケメンっ?アンタの彼氏?! ちょっ、なに、アンタ、リア充?! 爆発しろっ!」

いきなりの言われように唖然としてしまった。

「へ? なんでそ」

「まぁ、勘違いするのも無理ないですよね」

「は? テツまで何言って?」

「気付いてないんですか? 茉穂。緑間くんも」

黒子の言っている意味が分からずにいたが、隣に立っている白川を見る。
彼女も分からないというようにこちらを見上げてきた。
すると黒子の横にいた桃井と、女カントク、そして叫んだ女生徒の視線が同じ事に気付いて辿れば、ビクッと身体を震わせてしまった。


◇◇◇◇◇◇


「茉穂ちゃん! いつからミドリンと?」

「へ? は?」

「茉穂、まだ気付いてないんですか? 手、ですよ、手」

「手?」

さつきちゃんの興奮っぷりとテツの言っている事に指指された自分の手元を見れば、緑間くんの服の裾をずっと掴んでいたようだ。

「あ、ごめん。気づかなかった……」

謝ると同時に傍らの緑間くんを見上げれば、何故か顔を真っ赤にしていた。

「…え?」

「べ、べべべ別に気にすることなんかないのだよっ!」

「……はぁ……なんか、ごめんね…」

ずっと握っていたんだろう、その事に謝れば何故か吃られた。
そっと握っていた服を離せば、あ、と声が落ちた。
もう一度見上げれば、どことなくしょんぼりな緑間くんがなんだか可愛く思えてしまった。
というか、部長が煩いんだけど。

「え、なに? アンタの彼氏とかじゃないの? つか、アンタの知り合い顔面偏差値高すぎない?!」

緑間くんや高尾くん、青峰くんは分からないけど、黄瀬くんを見て顔を真っ赤にする部長が騒いでいた。
なんで一緒にいるから「彼氏」になるのかが分からないが、顔面偏差値が高い。という言葉に、高尾くんや青峰くん、緑間くんを再度見てみる。
黄瀬くんに関しては中学からモデルをしている位だから顔面偏差値が高いのは当たり前だ。私の好みではないけど。
確かにみんな顔は格好いいと思う。青峰くんはちょっと怖い顔をしているが、ワイルド系イケメンというのだろうか。
高尾くんはどこか某アイドル事務所にいそうな顔立ちだし、緑間くんは……。
ちらりと緑間を見て、茉穂はごく自然に彼は美人なんだと思う。格好いいというよりは美形だと。

「……そうですね、確かにみんな格好いいと思います」

「……そのわりには無感動よね、アンタ」

なんとなく面倒な気がしてきたので、部長の用件を聞くことにした。

「そんな事より先程のコンテストとやらはどういう事なんですか?」

「そんな事って、アンタね。まぁ、いっか。リコとも話していたんだけど、舞台でのイベントがちょっと盛り上がりに欠けていてさ、せっかくだからカップルコンテストでも開いて、優勝カップルにはシュータワーを叩いて貰おうかって話してたのよ」

「あ、のー、シュータワーって茉穂ちゃんたちの部で作ったっていうやつですよね? 叩いちゃうんですか?」

さつきちゃんが気になったのか、手を挙げて聞いていた。

「えっとね、本来はクロカンブッシュっていうフランス流の祝い菓子で、沢山あるシュークリームは子孫繁栄や集まってくれた人を表すらしいの。ウェディングケーキとしても使えるの」

「ウェディングケーキ…」

さつきちゃんが呟いたのに、頷きながら話を続けた。

「ウェディングケーキはケーキ入刀はナイフだけど、クロカンブッシュ、シュータワーは木槌で割るの。飴で固めてあるからナイフは難しいからね。で、せっかくだから見映えもするし、後から食べても美味しいだろうから作ってみたんだよ、みんなで」

そう部活での出し物を決める時に散々悩んだのだ。
手作り菓子を配るにもどのくらいの人出があるか分からないし、かといって生物のケーキはさすがにずっと飾ってはおけない。
だからお母さんから渡されていた本を見て、参考にしたまでだ。
シュータワー以外にもマカロンタワーも作ってもみた。触らないで下さい。と札をしているが、見る人たちはなんだか楽しそうだった。
さっきの話も紙に書いて、説明文みたいにしていたから特にカップルなんかは立ち止まって見ていたくらいだ。

「さっすが茉穂ちゃん、知ってるね!」

「おばさんからの受け売りですか?」

さつきちゃんとテツが感心したように聞いてくる。
茉穂は頷いた。

「そ。ウェディングケーキのケーキ入刀にも意味はあるんだよ。ケーキ入刀は二人の共同作業で『これから二人で支えあい、喜びは2倍に、悲しみは半分に』って意味らしいの」

「はぅ〜、素敵〜。私もテツくんといつか……なんて!」

さつきちゃんが頬に手を当てながら、テツを見てきゃー!と騒いでいる。
分かっているのかいないのか、テツはそういえば、と言葉を続けた。

「小麦は五穀豊穣の象徴というらしいですから、新しい家庭の豊かな食生活を表す、と本で読んだ気がします」

「うん。元々は花嫁が自分で焼いて参列者にふるまうとか、…………料理が出来る一人前の女性だとみんなに披露する、とかなんとか」

言ってから、しまった!と思った。
この場には料理に不向きな人が二人もいた。
が、さつきちゃんは「テツくんの為に頑張る」とかいうし、リコ先輩は「なかなか素敵ね。私もやってみようかしら」なんて言って、部長は「無理、止めな」と止めている。

「え、それじゃあ、そのシュータワーを使ってしまうんですか?」

テツが気にしたらしく、用件を戻すと、部長とリコ先輩が頷いた。
生徒会とかには、と考えてからリコ先輩は副会長、部長は役職は曖昧だが、役員をしていたはずだ。
なるほど、だから話をしていたのか。
なんて考えていると、部長がとんでもない事を言った。

「急遽決まったからさ、白川、アンタ出なさいね」

「は?」

「火神くんと」

「え?」

「なんだとっ?!」

いきなりの発言に唖然としていると、隣にいた緑間くんが大きな声を上げたのだった。






To be Continued

2015/03/21
act.16


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