17
カントクと料理部部長の発言に誰よりも先に反応したのは、茉穂、ではなく近くにいた緑間くんだった。
「……………」
「火神くんと、ですか?」
「そう! 白川ってバスケ部と合宿行ってたし、火神くんと仲がいいみたいだしさ」
果たして仲が良かっただろうか?とか思いながら、先ほど驚いていた緑間くんを見てみると、眉間に皺を寄せている。
なんというか、彼は意外にも分かりやすい。
笑いたくなるのを出さないようにしていると、コソッと桃井さんが話かけてきた。
「テツくん、テツくん。ミドリンって茉穂ちゃんの事、好きみたいだね」
「そのようですね」
「テツくん的にはどうするの?」
「僕的には、ですか…」
桃井さんの問いかけに首を傾げた。
茉穂が幸せならば、相手が誰であろうと構わないとは思う。
幼なじみとして思う事はそれ位だが、出来れば気心が知れた相手がいいとは思う。
だが、この場合、緑間くんが茉穂に好意を寄せているだけ、である。
火神くんはあの通りバスケ馬鹿だから、好意とか恋愛とか何も考えていない、考える必要がないという感じだ。
茉穂はというと、よく分からない。
クラスの女子たちが言うように「彼氏が欲しい」と言っているのは聞いた事がない。
だからといって恋愛に無関心というのでもないのだろう。
彼女は先輩から火神くんとカップルコンテストに出ろ、と言われれば多分──
「まぁ、別に火神くんが嫌でなければいいですけど……?」
そう答えるだろうと黒子は思った。
桃井が「え、いいの?!茉穂ちゃん」と言っていると、拳を握っている緑間が視界に入った。
黒子は緑間が苦手ではあった。だが、嫌いという訳ではない。
むしろ、キセキの世代の中ではマシな方だと思っているし、彼の、才能に胡座をかかずに努力する姿は素晴らしいモノだと思っている。
まぁ、人を見るなり気にくわないだの相性が悪いだの言ってくるのはどうかと思うし、おは朝占いのラッキーアイテムなどもどうかと思う。まぁ、ラッキーアイテムがないと本当に不運な彼は漫画か小説に出てくる人物かと思わせてくる。それをいうなら赤司くんも赤司くんだが……。
話はずれたが、黒子は緑間は嫌いではない。苦手なだけで、友人だとは思ってはいる。
「カントク、ここは緑間くんを出してみたらどうですか?」
「黒子っ?!」
「黒子くん?」
「火神くんはあの通り調理で忙しいですし、ここは暇な緑間くんに手伝ってもらいましょう」
「暇だとはなんだっ!暇だとは!」
「違うんですか?」
「なんなのだよ、貴様!」
「ではやはり火神くんに頼みますか? カントク」
「なっ…」
僕の意図が分かったのかカントクや桃井さんは笑顔を浮かべている。
緑間くんの態度で薄々は気づいている事が明確になっていた。
「ミドリンって単純…」なんて桃井さんが呟いているが、むしろ緑間くんが自覚しているのか、無自覚なのか気になる。
しかし合宿の時や黄瀬くんとのカラオケ事件の事を思い出せば、自覚はしているのだろう。
無自覚だったら鈍感を通り越してびっくりするしかない。
「えーと……私はどちらでも……。というか、緑間くん嫌じゃないの? こういうの苦手そうなのに」
「嫌なのだよっ! だ、だが、白川が良いと言うなら……出ても、構わないのだよ……」
「そう? じゃあ、お願いしてもいいかな?」
茉穂がかがんで下から緑間くんを見上げている。アングル的に緑間くんにはドキッとさせていそうだ。
照れているのだろう、緑間くんは眼鏡をカチャカチャと弄りすぎている。桃井さんとカントクはニヤニヤしてるし、高尾くんもニヤニヤしている。
相変わらずのホークアイですね。
「あ、ああ……」
「良かった。部長言い出すと聞かなくて。それに火神くんだと、同じ学校だけに面倒になりそうで。緑間くんがいてくれて良かった」
茉穂の一言に緑間くんが固まってしまった。
無理もない、緑間くんがいてくれて良かった。なんて両手を合わせて、はにかむ笑顔を見せたからだ。
流石にその仕草は僕が見ても可愛らしいと思わせた。
「茉穂ちゃん、罪作りすぎ」
「ミドリンには刺激強すぎだよ」
「固まってますね、緑間くん」
とりあえず、カップルコンテストまでには復活するだろう。
カントクは急遽決まった事に生徒会へと行ってしまった。まぁ部活の方は主将がいるし、大丈夫だろう。
というか、学園祭に来て下さった桃井さんたちに手伝わせていいのだろうか、と思う。黄瀬くんは自業自得だが。
高尾くんや桃井さんがチラシをあっという間に作り、ポスターまで作ってしまった。高尾くん、流石ハイスペックと言われてるだけあります。
開始時間は午後2時からであるが、青峰くんと火神くんは料理部が作成したシュータワーを舞台に運ばされている。
会場のセッティングをしていると、セットに座り込んでいた青峰くんが「なんで茉穂の相手が緑間なんだよ」と呟いていた時に驚いてしまった。
桃井さんの事ではなくて、茉穂の相手を気にするなんて思いもしなかった。
「……青峰くん、もしかして自分が出たかったんですか?」
「…………はぁ? んな訳ねーだろ、面倒くせぇ」
フイと逸らされた顔に眼を見開いた。
知らなかったからだ。
「テツー!」
「テツくん!」
「どうしました、二人とも……花?」
名前を呼ばれ振り返れば、茉穂と桃井さんが髪に花飾りを付けていた。
桃井さんは同じ花を1つ持っていて、首を傾げると教えてくれた。
「しししし出場者は花を着けるんだって、テツくんのはここここれね!」
「ありがとうございます、桃井さん」
「なにどもってんだよ、さつき」
「大ちゃ、青峰くんは黙ってて! テツくんとお揃いの花…」
ピンク色の薔薇を受け取り、胸元に飾るとポーッと赤くなる桃井さんを見てから、茉穂に眼を移すとニカッと笑われた。
茉穂の髪に飾られてるのは白い薔薇だった。
「茉穂は白い薔薇なんですね」
「うん。出場者、私たちサクラを含めて5組みたいでちょうど余ってた花があったからそれを印にしたみたいだよ」
彼女の目線を辿れば、そこには何人かカップルがいた。それぞれ女性には髪に、男性には胸元に花が飾られている。赤い薔薇、黄色い薔薇、薄い紫色の薔薇を付けている。
それから目に入り込んできた白い薔薇。茉穂の髪に飾られているのと同じ花。
「緑間くんて…」
「? 緑間くんがどうかした?」
「……いえ、なんかああしてると高校生に見えないですよね」
「…………まぁ、なんとなく分かる。でも背が高いし格好いいよね。お母さんが見たら大変そう」
「確かにおばさんが見たら大変そうですね」
「だよね。やっぱりそうだよね」
「そう言えば、今日おばさん来るんですか?」
「仕事で来れないとは言ってた。おばさんたちは?」
「 後で来るそうですよ」
「えっ?! あー、じゃあ、写真だけは撮らないように頼んでおいて。いつお母さんに話がいくか分からないから」
「はい、わかりました」
茉穂に言われた通り、お母さんにメールを打つ。だけどきっとおばさんには話がいくと思う。
黒子はそう思うと少し苦笑いをしたが、なんとなくおかしくて笑いそうになる。
「白川〜、そろそろ準備してねー」
「終わってますよー部長〜」
「彼氏がいないだろーが! ちゃんとペアになってなさい!」
「彼氏じゃないですからっ!」
「ほらほら真ちゃんも!早く彼女の茉穂ちゃんの隣に行くのだよ」
「かかか彼女じゃなのだよ、まだ! というか、真似をするな!」
「ぶははははははっ!」
高尾くんが緑間くんをぐいぐい押しながら寄ってくる。敢えて突っ込まないのか高尾くんは笑っているだけ。
緑間くんは真っ赤な顔をしているが、照れているのか、高尾くんに怒っているのか。多分後者だろうが、自分の発言に気付いていないようだ。
「テテテテテテテツくん、よろしくね!」
「はい、よろしくお願いします。桃井さん」
真っ赤な顔をした桃井さんに微笑んでから、再度緑間くんと茉穂を見れば、彼女は笑っていた。
緑間くんは真っ赤になって顔を逸らしているが。
そして目の端に青峰くんが入り、少し、ほんの少しだけ顔が歪んで見えた気がした。
To be Continued
act.17
2015/04/16