01

黒子のバスケ

「はい?」

先輩の言葉に茉穂は首を傾げるしかなかった。

「だ〜か〜ら〜、白川にはバスケ部の合宿に参加して欲しいのよ」

「え、なんで…?」

いきなりの話についていけず、茉穂は先輩と同級生を見渡すと何故かニヤニヤしている。
はっきりいって気色悪いが、そんな事を言ってしまえば、この場にある器具が一変凶器に変わるに違いない。
ここは昨年出来たばかりの新設校、誠凜高校の家庭科室。料理部の活動場所である場所に放課後、部長から集合がかかり、来てみたらいきなりこれだ。はっきりいって意味が分からない。
しかもバスケ部の合宿に参加?
バスケ部といえば幼なじみが入っているが、何か関係があるのだろうか。
むしろ、彼の存在を先輩、同級生が知る訳がないので関係性が出てこない。

「いやね、同じクラスの小金井に頼まれたのよ。合宿で料理作ってくれないか、って」

「…………頼まれたのは先輩であって私じゃないですよね?」

「そうなんだけど、さぁ〜」

なんだろう、このいやな感じは。

「お願い! 私ら用事があって参加出来ないの。それに引き受けたら黄瀬くんのサイン貰えるっていうし!」

「白川、お願い!」

「いやいやいや、おかしくないですか? ってか、黄瀬くんのサイン!?」

卒業以来、久々に聞いた名前に頭に?マークが飛び交う。
黄瀬って、あの黄瀬?

「モデルの黄瀬くんだよ! 黄瀬 涼太くん! 知ってるでしょ、雑誌とかによく載ってるじゃない!」

「モデル、の黄瀬 涼太……」

思わず、顔が引きつった。
その名前には聞き覚えがある。モデルというのは勿論だが、幼なじみの元チームメイトとしてよく知っているのが正しい。
これは、アイツの仕業なのかしら?
茉穂はフッと笑うと勢いよく家庭科室から飛び出したのだった。
慌てて、部長たちも追いかけた。行き先は体育館のようだ。
彼女たちは黄瀬くんのサインに感激した彼女が抜け駆け的な何かで走っていったのかと思い、そうはさせない!と追ったのだった。


◇◇◇◇◇


体育館ではカントク──相田リコの料理について未だに頭を悩ませていた。
火神にカレーの作り方を教えてもらい、カレーは作れるようにはなったが、それだけで相変わらず奇想天外な料理の腕だった。
練習で疲れるので、火神も水戸部も作ることは出来ない。だからと言ってリコに作らせれば、自分達の命が危ない。
そんな時、小金井が手を上げた。

「あ、あのさ〜、合宿の飯についてなんだけど」

「なんだ? 何かいい案あったか?」

「俺のクラスにさ、料理部の部長がいてさ、よかったら誰か一人合宿について来てもらえないか、頼んでみたんだけど」

「(………料理部…)」

「おお、いいな、料理部の子が来てくれるなら!」

「だろだろ?」

「でも、来てくれるかな〜」

う──んと部員達が腕を組み、頭を悩ませている中、黒子は幼なじみの姿を頭に描いた。

「(……確か、彼女が所属してたのは)」

「悔しいけど、今回は小金井くんの案に乗ってみたわ。今、料理部に掛け合ってるところよ」

リコの発言におぉ!と部員の歓声があがる。しかしリコはほんの少し気まずそうに黒子を見た。

「ただ、条件があって…」

「条件?」

バタ──ン!!

オウム返しした瞬間、扉が勢いよく開いた。
出入口には見知らぬ少女が立っていた。日向たちは意味が分からず、その少女を見つめた。
彼女はキョロキョロし、何かを見つけると上履きのまま体育館に入って来た。

「ちょ、ちょっと、何? いきなり」

リコは声をあげた。と同時に彼女が声を張り上げた。

「テツ! 一体、どういう事よ!?」

え、と部員たちは少女を見た。
あの影の薄い、薄すぎる黒子をちょっと体育館を見渡しただけで見つけるとは、一体、彼女は何者なのかと。

「茉穂、いきなり何を怒っているんですか?後、走ったりして…」

「怒るわよ! 部活に出たらバスケ部の合宿に参加しろって言われたのよ!」え、」

「いたー、白川!」

黒子が何かを言おうとした時、またしても女生徒が集団でやって来た。
部長を知っているリコは、声を掛けた。

「一体どうしたのよ?」

「あ、リコ。あの件だけど参加させるのはあの子にしたから。黄瀬くんのサインよろしく」

彼女が指で差した方には、今にも黒子の首を締め上げそうな、さっきの少女がいる。と言うか、黄瀬のサインって何?部員たちは訝しげに首を傾ける。
意味が分からない、と彼女たちを見つめると、リコはアハハハ〜と軽やかに笑った。
そして、黒子を見つめ言いきった。

「そういう訳でその子を合宿に参加させる代わりに、黄瀬くんのサイン、料理部8人分、よろしくね」

「わーい、黄瀬くんのサイン〜」

親指をグッと立てて微笑むリコに、何を言っても無駄だ。と黒子と日向たちは諦めた。
ただ一人、納得いかないのは、未だ黒子に掴み掛かっている彼女だけだ。

「部長!」

「白川もバスケ部に知り合いいるみたいだし、大丈夫ね。安心してアンタの分のサインも貰えるから」

茉穂は「そんなのいるか」とボソリと呟くと、目の前にいた黒子は「ですよね」と彼女を見た。

「茉穂、もう決まったようです。カントクには逆らわない方がいいですよ」

「なんでよ!?」

「逆エビ反りの刑を喰らいますよ?」

「な、何よ、それ……」

二人でぼしょぼしょ話していると、傍らにいた火神が声を掛けた。

「つか、何二人で話してンだよ」

「つうか、知り合い?」

視線が集まり、恥ずかしくなった茉穂は黒子から手を放した。

「幼なじみです」

「へぇ、黒子の幼なじみか。名前は?」

名前を訊かれ、茉穂は沈黙した後、口を開いた。

「1年、白川 茉穂です」

「茉穂ちゃんか、可愛い名前だな〜」

ははは、とどこか軽いノリで頭を撫でてくる人物に、茉穂は黒子をじっと見た。

「木吉先輩はとても良い先輩ですよ」

そういう事を聞いている訳ではない。相変わらずのズレている幼なじみに、茉穂はため息を吐いた。
そこにリコと部長が近寄ってきた。

「ごめんね、白川さん、だっけ? 本当に申し訳ないんだけど、引き受けてくれると助かるわ」

「白川、リコは本当に料理がからっきしダメなのよ」

いくらなんでもからっきしでも、出来るはずだろうと、思っていると黒子が口を開いた。

「桃井さんと同じです」

「は? さ、さつきちゃんと同じ?」

「はい。レモンの蜂蜜漬けが丸ごとでした」

「……まっる…………………………わ、わかりました…」

中学時代の友達の名を聞き、茉穂は脱力した。
いくらなんでも、それは黒子が、彼らが可哀想過ぎると。

「本当!? ありがとう! 白川さん」

「それでこそ白川!」

「ただし、条件である『黄瀬くんのサイン』はいりません」

「ちょっ、何言って!?」

仕返しと言わんばかりに茉穂は部長を見た。
先輩だろうが、勝手に人を売ったのだから仕方ない。
部長はガッカリしていたが、黒子は茉穂を除く料理部員の人数分を黄瀬に頼もうと思った。
こちらの我が儘を利いてもらうのだから。
茉穂は同じ中学出身の上に、黒子を通じて交流があるのだから確かにいらないだろうし。

「じゃあ、まあ、食事の心配もなくなったってことで、合宿行くか!」

「合宿は夏休み入ってからだ! ダァホ!」

なんだ、この先輩方は…と見ていると傍らにいた黒子が、茉穂に話しかけた。

「茉穂、楽しみですね」

あまり表情を変えることがない黒子だが、僅かな変化に茉穂は目を見開いた。

「……テツと夏休み、一緒に過ごすなんて小学生以来だもんね」

なんだか、久しぶりの夏休みに少しだけ、ほんの少しだけ楽しみという感情がわき上がる。

「栄養満点、美味しいの作ってあげるわ」

ニコッと笑う茉穂に黒子はまた「楽しみにしてます」と答えたのだった。




To be Continued




あとがき

初めてしまいました、黒バス。
ヒロインお相手は緑間の予定です。
黒子も捨てがたかったですが、黒子は桃井ちゃんと仲良くすればいいと思います(笑)


2012/09/25


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