19

黒子のバスケ

「…………あ、の、みど」

舞台から降りると同時に緑間はあっという間に走ってどこかに行ってしまった。
茉穂が呆然としていると、舞台裏にいた高尾たちが近寄ってきた。

「茉穂ちゃん、真ちゃんは?」

「え、なんか、走って行っちゃったよ……」

「はぁ? ちょ、なにしてんの、真ちゃん」

高尾はそれでもどこかニヤニヤと笑みを浮かべていた。それは一緒にいた黄瀬もだ。
火神はなんだかどうしたらいいのか分からないといった感じで、問題は青峰だ。なんだか、ムスッとしていている。

「青峰くん?」

「あんだよ」

「え、っと……」

どうしたの?と聞こうとしたが、思いの外機嫌が悪い。
どうしたの?と茉穂は火神を見たが、知らないといった感じで、次は黄瀬を見たが彼はなんだか訳知り顔だった。
「あー」と声を出した黄瀬は、青峰に話しかけた。

「青峰っち!そんな白川さんを睨むの止めるっスよ、怖がってるじゃないっスか」

「あ?別に睨んじゃいねーよ」

「いやいやいや、緑間っちと舞台に上がってからずっと睨んでたじゃないっスか。いくら白川さん取られたからって」

「はぁ?」

黄瀬の言い分に青峰が声を上げた。
何言ってんだ、コイツ。という視線を向けているが、黄瀬はまだ何か言っている。

「だって、青峰っちと白川さん、付き合ってたんスよね?」

「は?」

「あ?」

黄瀬の言ったことに茉穂たちは首を傾げ、頭に疑問符を浮かべた。
それに驚いたのは高尾と火神だ。

「はぁ?! ちょっ、え? 茉穂ちゃんと青峰って付き合ってたの?」

「マジかよ」

「へ? は? き、黄瀬くん? 何言って……」

訳が分からないといった茉穂は黄瀬に問いかけた。その様子に今度は黄瀬も首を傾げる。

「あ、れ? 二人付き合ってなかったんスか? だって仲良かったスよね? 俺、てっきり付き合ってたんだと思ってたんスけど……」

寧ろ、みんなそう思ってた、と黄瀬に衝撃的な言葉を言われた茉穂はポカンと口を開けている。

「茉穂ちゃん、口、開いてる!」

「へ? あ、………………って、なにそれ?」

そんな事実がなかった茉穂にとっては黄瀬の言葉に呆然とするしかなかった。
青峰と自分が?付き合っていた?
なんだ、それ?
茉穂にとってはそれしか言葉がない。
ただ、そういえば、中2の頃はよく青峰関連で何か言われていたが、あれはそんな話があったからか、と今更ながら驚いた。
青峰を見れば、彼も「なんだそれ」と言わんばかりの顔をしている。

「だ、だって、青峰っち。たまに………………………………白川さんの胸がでかくなっただの言ってたじゃないスか!」

黄瀬はちょっと言葉を黙らせながら、顔を赤くして、一気に言葉を発すれば、反応したのは火神と高尾だ。

「はぁ?!」

「ちょっ、どゆ事!?」

「いや、部活の着替えの時とか、青峰っちがグラビア見ながら、そういえば〜って言ってたんスよ!」

「な、ななな…」

「……あー、あったな、んな事も」

「だから、付き合ってるんだと思ったんス!」

過去を遡り、思い出すのはたまに背後から青峰くんに胸を掴まれた事があった事。
その度に肘打ちや蹴り、最終兵器的な黒子の掌底が出されていたが、まさか、他人にベラベラ話していたなんて!
ふるふると怒りと恥ずかしさで震えていると、火神がどうしたのかと茉穂を覗き込んだ。

「なっ?!泣いてんのか、白川」

「え? ちょっ、何泣かしてんスか、火神っち!」

「いや、どう考えても俺じゃねーだろ!」

「茉穂ちゃん、どうしたの、大丈夫?」

「あー? 何泣かしてんだよ、火神」

「どう考えたって、青峰のせいだろ!」

「なんで俺のせいなんだ…………っ?!」

青峰が茉穂の顔を見ようと接近した時、彼の姿は視界からいきなり消えた。消えたというよりは一瞬で下がったのだ。

「青峰くん、茉穂に何をしているんですか」

「黒子っち!」

「黒子!」

「茉穂、大丈夫ですか?」

ぎゃあぎゃあと騒いでいたのを止めたのは黒子だった。
彼らをいつも止めるのはやはり黒子だ。例えそれがバスケの為に磨いた技を駆使してでも、だ。
ドゴォォ!と青峰の脇に入った掌底は、彼を黙らせるどころか地べたに沈めてさえいる。

「う、うん……」

寧ろ、大丈夫じゃないのは青峰の方だが気にしない。だって首がグキッて鳴ったし、痛い。

「…………さつきちゃんは?」

「桃井さんはとりあえず医務室に運びました。保健医さんにちょっと見てもらっています。それで青峰くんを呼びに来たんですが……」

「ああ、なるほど」

だからタイミングが良かったのか。とテツを見ていれば、黄瀬や高尾がナイスタイミングといい、火神が青峰に対して同情しているのか、大丈夫かよ、と苦笑いしていた。

「ところで、結果はどうなりました?って、そういえば緑間くんは……」

「あ、ああ〜……」

「あー、そういえば……。俺、真ちゃん探してくるな」

「? 何処か行ったんですか?」

黒子の問いに高尾が頬を掻きながら答えた。
「ちょっとなあ」と言いながら、高尾は緑間が走っていった方へと歩いていく。
だが、すぐに振り向いた。

「茉穂ちゃん、この後どこにいんの?」

「え? この後? 多分料理部のトコかな?」

「ん、ラジャー」

そう言って、片手を上げて高尾は行ってしまった。
振り向くと、青峰はまだ地べたに這いつくばっていた。

「テツ……てめぇ……」

「茉穂を泣かせるからですよ。青峰くん、桃井さんは医務室にいるので迎えに行って下さいね。僕と火神くんはクラスの方にも行かなきゃいけないので。では、黄瀬くん」

「なんスか、黒子っち」

「青峰くんをお願いします。では火神くん、行きますよ」

「あ、ああ。じゃーな、黄瀬」

「ちょっ、俺に押しつける気っスかぁ?」

「黄瀬くん、暇なんですよね。よろしくお願いします」

礼儀正しく頭を下げているが、黒子はかなり強引だ。「行きますよ、茉穂も」と背中を促され、「黄瀬くん、またね」と挨拶をした。
後ろから「白川さんまで?!」と声が聞こえたが、時計を見て時間を食いすぎた事にびっくりした。
「どうかしたんですか?」という黒子の問いかけに火神は何も言えず、茉穂が話すのを待った。

「……ねぇ、テツ。私と青峰くんが付き合ってたって噂を知ってた?」

「ああ、そんな噂ありましたね。青峰くんがよく茉穂にちょっかい出していたからでしょうけど……え? 付き合っていたんですか?」

「ま、まさか?!付き合ってないよ!」

「ですよね」

黒子はそう言ったきり、それには触れず先程のコンテストの事や桃井の事などを話した。
茉穂も黒子が信じてくれてるならばと、青峰の事は話さずに、学園祭の事を話しているのを傍らで見ていた火神はため息を吐くしかなかった。
もうすぐ一般来場者には帰ってもらい、後夜祭が残っていた。


◇◇◇◇◇


料理部に戻れば部長はニヤニヤしてたし、教室に呼ばれればクラスメイトたちが好奇心の孕んだ目でこちらを見ていた。
どうやらあのコンテストを見にきていたのがいたらしい。

「もう白川さんたら、やっぱり彼氏だったのね」

「彼氏格好いいよね〜」

「そうそう羨ましいったらないなぁ〜」

「キセリョとも知り合いなんでしょ? 今度ぉ、みんなで御飯とかどうかな〜? 黄瀬くんにお友達も誘ってもらったりして」

「きゃあ、それいいね!」

「…………え、えっと……私、黄瀬くんとは親しい訳じゃないから……ちょっと……」

「えー? そうなの?」

「う、うん。ご、ごめんね!」

そそくさと彼女たちから離れて友人の元へと駆け寄る。不満気にブツブツなにかを言ってるが、振り向かないようにした。
彼女たちこそ初めて話した部類なのに、あんなにフレンドリーに話し掛けられたらこちらが困る。

「茉穂、お疲れ」

「う、うん……なんか疲れたよ」

「いやぁ〜部長も相田先輩もぶっ飛んでるというか、強引というか、本当にお疲れ様」

「まぁ、部長たちのは終わったからいいんだけど、ね」

何を言いたいのか理解したのか、彼女はクラスメイトの方を一瞥してから「大変だね」と呟いた。
前は黄瀬に対して、きゃあきゃあ言ってたのに、と見つめれば「目下、高尾くんに片思い中!」と目元にピースサインをしながらポーズを決めていた。
彼女曰く、彼はハイスペックらしい。
前回会った時もメールでやり取りした時も、そして今日の事も合わせるとかなりだそうだ。
ましてや背は恋人にするには高すぎず低すぎず、顔も中々。気配りも出来る。これで落ちない訳がない。
「へ、へぇ……」と呟けば、「アンタは手を出すなよ」と凄味のある声と顔で言われた。怖い。
彼女の携帯が震えたと同時に、声を掛けられた。なんだろうと見てみると誰かが呼んでいるらしく教室の戸口を見れば知らない男子がいる。
ぺこりと頭を下げられたので、こちらも頭を下げてから戸口へと向かった。

「あ、あの……ちょっと話があるんだけど、いいかな…」

「は、ぁ…」

「じゃあ、こっちに」

促されて教室から出たものの、このパターンはまさか。と思う。
そういえば、後で高尾が緑間を連れてくるような事を匂わせていたな、と思いながら(緑間くん……)と頭に浮かべ、男子生徒の後をついて行った。




To be Continued
act.19

2015/06/06


-20-

青春ラビリンス / top