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黒子のバスケ

タッパーに蓋をし、茉穂は時計を見た。
そろそろ出掛けなくてはならない。友人とは駅で待ち合わせをしていたし、早めに行かないとバスケ部のみんなにコレを渡す事が出来なくなってしまう。
ふと、エプロンのポケットに入っている携帯を取りだし、受信がないか確かめるが変わりはなかった。
今朝も緑間くんからのラッキーアイテムメールは着ていた。だが、ラッキーアイテムを記させているだけで他にはなにもなかった。
今日の試合の事も、あの時の事も。
はぁ、と茉穂は小さくため息を吐いた。
あの日から頭の中を占めているのは、決まったメールしかくれない緑間の事だけだ。

(案外、私ってチョロいのかな……)

告白されて、答えを出せずにいて、でもその間何の連絡もなくて。押して駄目なら引いてみろ的な感じで……呆気なく緑間くんの事しか考えられなくなっている。
付き合って欲しいと請われた癖に返事もせず保留にした挙げ句、連絡が来ないからともやもやしているなんて、嫌な人間だ。こんな風にはなりたくなかったのになぁとまたため息を吐いた。
ウジウジとしている自分に本当に嫌気がさす。
そんな風に考えながら、差し入れを紙袋に入れた。
最寄り駅から試合がある体育館まで行くとちらほらと人がいる。
決勝リーグで、誠凛vs秀徳はインターハイブロック予選の事もあるから意外に注目度が高いようだ。

「ねね、茉穂はどっち応援するの?」

「? そりゃ、誠凛うちでしょ?」

「あー、やっぱ誠凛うち応援しなきゃダメかな」

「ダメっていうか…………もしかして、秀徳応援するの?」

友人の言葉に驚いて問い掛けてみれば、アハハーと笑っている。

「だって高尾くんに応援してるね!って言っちゃったし、前は誠凛うちが勝ったし、大丈夫でしょ」

あっけらかんと話す彼女に、茉穂は頭が痛くなるような気がした。
確かにインターハイ予選では秀徳に勝ったそうだが、勝負なんて時の運だ。それに合宿の時の練習試合では誠凛は秀徳に全敗している。
例え、火神くんが参加してなかったとしても、だ。

「…………私、誠凛に差し入れ届けに行ってくるね…」

「ちょ、ちょっと、茉穂〜」

「秀徳も応援したいけど、私は誠凛に通ってるから」

「お、怒った……?」

「別に怒ってないよ。気にしないでいいよ」

じゃ、と控え室の方に足を向ければ「怒ってるじゃん〜」と嘆かれたが、別に怒ってはいない。
なんとなく、淋しいというか、悲しいというか、そんな気持ちになっただけだった。
はぁ、とため息を吐いて歩いて行くと、「誠凛高校 控え室」とロッカールームに張り紙があった。
いるんだろうか、と疑問を抱きながら持っていた携帯からテツにメッセージを送った。
しばらくすると、カチャと扉が開きそこにはテツの姿があった。

「茉穂」

「良かった。間に合ったみたいで……はい、これ」

「ありがとうございます。入りますか?」

中へ促すかのように扉を開けるが、茉穂は首を振った。

「いいよ、いいよ。もうすぐなんでしょ? 上に行ってるよ」

「そうですか、分かりました」

うん、と頷いて観客席へと向かおうとすれば、「茉穂」と呼び止められた。
茉穂は「何?」と振り向いてテツを見た。

「茉穂はどこを応援するんですか?」

「……誠凛に決まってるでしょ。頑張ってね、テツ!」

グッと拳を突き出せば、それに応えるかのようにテツも微笑しながら拳を突き出した。
そんな彼に手を振り、茉穂は観客席へと上がっていったのだった。
友人を探して、周りを見渡したが彼女の姿が見つけられない。ちょっとどこにいるのよ?!と探してると歓声が響く。選手たちがベンチ入りしていた。
もう間も無く試合が開始するようだ。
誠凛のベンチを見ていると、伊月先輩だろうか、手を振られた。よく見つけられたなぁと感心しながら頭を下げるとテツはもちろん、火神くんや木吉先輩、日向先輩たちまでもが手を振ってくる。
なんなの、と思っているとテツが差し出した紙袋を掲げた。
どうやらお礼のつもりで手を振ってきたらしいが、目立ちそうだから後は知らんぷりだ。
ふと、彼らがいる場所の奥を見れば綺麗な翡翠色が目に入る。緑間くんだ。
しかも目が合った、気がする………が、緑間くんはそっぽ向いてしまった。
「……え、」と思わずこぼれた声に自分でも驚いてしまった。
すると緑間くんの傍らにいた高尾くんが今度は手を振ってくる。ただその仕草が謝っているように見えた。読唇術はないから分からないが、身ぶり的に「真ちゃんが悪いね」といった感じなんだろうか。
緑間の様子を見て、いつもと違う様に見える。なんだろう、ピリピリとしている。まるで飢えた獣のようだ。
気を悪くさせたのだろうと「こっちこそごめんね」と両手を合わせていた。
よそ見している高尾を監督だろうか、声を掛けている。どうやら、試合開始のようだった。
茉穂はこちらを見ようとしない緑間をただ見つめていた。心の中で、やっと会えた嬉しさと、応援出来ない気まずさに気持ちが揺らいでいたのだった。



To be Continued

act.22
2015/08/31


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