24
パタパタパタと足音が聞こえてきた。
通路出入口付近をみていると、誰かが走り込んできた。
「…! あぁもう! やっぱり始まっちゃってる!」
聞き覚えのある声に茉穂が振り向けば、パーカーを着た桃井の姿が息を整えながら、呟いていた。
黄瀬も気づいたのだろう、彼女の傍に寄っていった。
「桃っちじゃん。黒子っちと緑間っちの試合、観に来たんスか?」
「きーちゃん! それに茉穂ちゃんも!」
「こないだぶり、さつきちゃん」
「きーちゃ……その呼び方やめてくんないっスかね……?」
「だってきーちゃんはきーちゃんでしょ?」
「さつきちゃんらしい呼び方だよね。さつきちゃんは、一人?」
「そうなの! 青峰くん来てくれなくて! 茉穂ちゃんたちは二人?珍しいね」
「いや、俺たちもここで会ったんス」
「私は友達と来てたんだけど。試合始まっちゃって、そのまま見てたんだ」
「そうなんだ」
「俺は先輩たち誘ったんスけど、断られて……心細かったっス!」
「それ、きーちゃんが言っちゃう? 心細いのはこっちだよ」
先程聞いたことをもう一度話す黄瀬とぷくーと少し頬を膨らます桃井の言い合いに茉穂は微笑してしまう。まるで中学時代のようだ。
「そうだ。桃っちも一緒にどうスか?」
「え?」
「まぁ、ホントならウチらを負かしたチームの人と並んで観るのも変な話っスけど、お互いもうウインターカップ出場は決まってるしね。一時休戦ってことで」
「うん、そだね…」
「黄瀬くん、出場決まってたの?」
「え、そうっスよ。知らなかったんスか?」
「うん」
「えー?黒子っちとか言ってないんスか? 俺、メール送ったんスよ」
「……特には」
黄瀬の出場に関しては知らなかったとはいえ、なんだか失礼だったな、と茉穂は申し訳なく思った。
「えーと、黄瀬くん ウインターカップ出場おめでとう」
あ、さつきちゃんトコもね。と言えば、桃井は微笑した。
「ありがとうっス、白川さん。いや、白川っち」
「………………白川っち?」
「ほら、黒子っちはもちろん、緑間っちや青峰っちと仲良いみたいだし、俺も仲良くしたいっス」
「……テツはともかく、そんなに仲良い訳じゃ……」
手を翳しながら違うとゼスチャーすると「えー」と黄瀬くんに不満がられた。いやいや、確か尊敬する相手に付けてるんじゃなかったっけ、それ。と思いながらいると、「それより」と桃井が声を上げた。
「試合は?」
「それよりって……まぁ、なかなか面白いことになってるっスよ」
コートを見れば、緑間に火神と木吉が付いている。
「ミドリンにダブルチーム!」
「とことん緑間っちには撃たせないつもりっスね」
二人の会話を聞きながら、茉穂はコートを見ていた。
緑間にダブルチームは彼を止める為とはいえ、ゴール際は歯が立たないようだ。
しかし、攻めてきたのは誠凛だった。傍らで二人が「速いっ!」と言っている。
茉穂もそれに驚いていた。
(パス回しが速い…!)
誠凛の攻撃が激しい。緑間を止めるのは大変なようだが、取り返せない訳でもないようだ。
それでも一瞬でも気を抜けば、緑間のシュートが待っている。
いつの間にか茉穂は息を止めて見ていたことに気づいた。
「……凄いな…」
彼の手が綺麗なフォームでボールを撃ち上げた。
高い放物線を描き、ゴールにスッと落ちていく光景に茉穂は呟いた。
それに綺麗だった。揺るがない美しさがあるように見えた。
(……格好いいな…)
ドクン、と鼓動が波打つのが分かる。
スッと誰かが横に並んだのを感じて、目線を向ければ桃井がニコッと笑っていた。
「さつきちゃん?」
どうかしたの?と問いかけようとすれば、彼女は内緒話をするかの様に耳元に口を寄せてきた。
「ミドリン、格好いいって思ったでしょ」
「えっ? 聞こえ……え、」
焦り茉穂に桃井はクスッと笑った。黄瀬がどうかしたのかとこちらを見たが「なんでもないよ、きーちゃん」と 話している。
「どうしたんスか? 試合観ないっスか」
「やだな、ちゃんと観てるよ。ね、茉穂ちゃん」
「う、うん……」
隣でニマニマ笑う桃井に茉穂は恥ずかしくなりながら、試合を観るべくコートを見つめた。
そこには先程と同じように、高い放物線を描いて落ちるボールがあった。
止められなかった火神は先輩に「ドンマイ」と言われているが、緑間は先輩方にどつかれていた。
両者とも気合いを入れたがここで第2Qが終ったのだった。
《これより10分のインターバルに入ります》
アナウンスが会場内に流れるが、観客からは歓声がなりやまない。
『だぁああ! もう終わりっ!?』
『まちきれねー、早く後半始まってくれー!』
「うわーすごい盛り上がってるわね」
「すごいっスね」
かろうじて二人の声を耳にしたが、周りから聞こえる声に自分の声なと呑まれてしまいそうだ。
茉穂は今の内に友人に連絡しようと、体育館の廊下に出ようとしたが、桃井に掴まれた。
「茉穂ちゃん、どこに行くの?」
「え、あ、友達に連絡しようかなって」
「あ、そうなんだ。ごめんね」
「ううん」
桃井の態度に首を傾げたが、茉穂は会場から出て廊下へと移動した。会場の興奮した歓声がまだ聞こえる。
友人に電話をしても出ないのは聞こえないからなんだろう。とりあえず、茉穂はLINEでメッセージを送っておいた。
会場に戻ると、会話が聞こえてきた。
「──────……ただ不利なのは誠凛っしょ。今のところ誠凛に秀徳を止める手だてはない。けど秀徳は誠凛をまったく止められないという訳じゃない」
コートを眺めながら黄瀬は淡々と話していた。
「先にボロが出るとしたら誠凛しかない。ま……けどそれは黒子っちがいなかったらの話っス」
「!」
「このまま黙ってるはずがない『キセキの世代』幻の
茉穂はじっとベンチに座る黒子を眺めた。
まだあの技を出してはいない。
そして、オレンジのユニフォームの方も見つめた。
(…………)
応援は出来ない。茉穂は眼を閉じた。
でも、それでも「頑張って」と口に出せたらいいのにと思う。
「茉穂ちゃん」「白川っち」
「? どうしたの、二人と……っ?!」
二人同時に名前を呼ばれ、振り向けば美男美女がニヤニヤとしている。
ちょっと、イヤな予感がした。
二人は近づきながらフフフ〜と笑っている。
「茉穂ちゃーん。聞きそびれていたんだけどー」
「緑間っちとはどうなったんスか?」
「はいっ?!」
「いや〜、気になってたんスよ?」
「茉穂ちゃんたら、教えてくれないし」
「緑間っちに聞こうかとも思ったんスけど、予選始まるから聞けなかったんスよ」
「「で、どうなったの(んスか)?」」
「え、ええぇぇ……?!」
ジリジリと詰め寄ってくる二人に茉穂は慌てるしかなかった。
どうしよう、どうしよう、とぐるぐるとなっているて、天の助けかのように館内に声が響いた。
《インターバル終了です》
アナウンスに歓声があがる。それに倣うかのように、私たちもコートへと眼を向けたのだった。
To be Continued
act.24
2015/09/05