25
《インターバル終了です》
館内のアナウンスに観客は待ってましたと言わんばかりに声を張り上げていた。
『うおー出てきたぁ!!』
《これより第3Qを始めます》
「ほ、ほら始まるよ」
茉穂は彼らからの追及をかわすべくコートへと眼を向けた。
「後で聞くからね!」
「知りたいっス」
二人はそんな事を言いながらも目線はコートへと向けていた。
『誠ー凛!!』『秀ー徳!!』と声援が激しくなる。ピッと笛がなり、試合開始だ。
試合開始早々緑間にボールが渡ったが、火神と木吉にフェイクを掛けて、鮮やかに高尾へとパスを繰り出した。
高尾が攻撃をしかけると言わんばかりにドリブルをしたが、ボールは高尾の股を潜った。
リターンされたボールは緑間に渡り、彼はボールを放った。高いループはゴールに入るまでに精神的に追い詰める。
45対43でリードしていた誠凛は後半開始早々、緑間の3Pによって、45対46へと逆転されてしまった。
「……っ」
茉穂は息を飲むしかなかった。
(……テツ…)
ベンチに未だ座り控えている幼馴染み。彼はただ試合を見つめていた。人間観察が趣味でもあるからなのか、試合を見つめている。
何を考えているのか分かる時もあれば、無表情故に分からない時も多い。
だが、彼は決して諦めない不屈の闘志がある。
それはかつて自分の弱さを浮き出させて茉穂を苦しめたことがあった。
それでも茉穂を助けてくれたのは黒子であった。彼は茉穂の辛い思いが昇華するのを待った。
愚痴愚痴と話す茉穂に特に何も言わなかった。ただ聞いていただけだったが、当時の彼女の周りは茉穂を惜しみながらもどこか嘲笑めいてもいた。
心ない慰めばかりで茉穂は黒子に心の籠った慰めを言われていても素直に聞くことはきっと、出来ずにいただろう。だからこそ黒子は茉穂に慰めも何も言わなかった。
ただ傍にいただけだった。でもそれで良かったのだ。茉穂は慰められて、心を楽にしてもらっていた。黒子ともう一人に。
しいて言えば茉穂がそうなる以前は黒子とてバスケを諦めようとしていた。誰かに助言され、自分のスタイルを身につけるまでは。
「……頑張れ、誠凛」
両手を組み、祈るように茉穂はコート内を走る選手たちを観る。
だが、直ぐに目に入るのは緑間だった。
(……緑間、くん…)
胸がズキンと痛むような感覚がした。
出来るなら負けないで欲しい。でも誠凛にも負けて欲しくはない。
勝負である以上無理な話だが、矛盾な思いがせめぎ合う。
何度目かのブロックの為に火神くんが飛ぼうとして、出来なかった。
「火神くんっ!? あっ…」
驚きと共に、緑間は華麗にゴールを決めた。
68対76。誠凛は頑張っているが、少しずつ差が開いていく。
「なんか…変わったね。ミドリン」
「そっスかー?」
「あと、きーちゃんも変わったよ」
「はぁ!? どこが……」
試合を見ていた隣の二人に茉穂も耳を傾けた。中学の時と変わらないような気がしたが、それは中二までの時。正確にいえば中二の秋まで、というべきか。
体育館が苦手だった時期でもある茉穂は試合を観に行くことはなかなか出来ずにいた。
だからだろうか、中三に上がる頃には黒子も雰囲気も、青峰の雰囲気もガラリと変わってしまっていて簡単に話す事が容易くなかったのだ。
(そういえば、緑間くんもなんだかピリピリしていたような……)
気もしない。同じクラスだったが、さほど彼を気に止める事はなかったからだ。
「──さっき、」
「え?」
「さっき、白川っちにも言ったんスけど…」
「私?」
「うん。変わった、としたら……変わったんじゃなくて、多分、変えられたんじゃないスか?」
誰に、とは言わないが分かる気がする。
「なんでっスかね……あの人と戦ってから…周りに頼ることは弱いことじゃなくて、寧ろ……強さが必要なことなんじゃないと思うんス」
誰だって他人に弱さを見せたくはない。
頼るのは弱さかもしれない。しかし、その弱さを見せること事態強さが必要になる。
まして、バスケはチームプレイが必要だ。
(………羨ましい、な…)
茉穂にはチームプレイが必要はなかった。
いつだって舞台に立てば一人で闘うしかなかった。だからこそそこに潜む魔物と闘うのだ。
誰も、彼女の弱さに気づいてはくれなかった。それが当たり前なんだと、負けるなと言われるだけだった。
そこには称賛と嫉妬が降り混ざっていたとしても。ズキリ、と足が痛んだような気がした。
《ピッ!》
笛の音が鳴った。歓声が聞こえる中、少しの変化が起きる。
「あ…!!」
「テツくん!」
「…………テツ…」
《誠凛高校 メンバーチェンジです》
第3Q 残り43秒。
帝光中 幻の
To be Continued
act.25
2015/09/07