02
──夏休み、青い空に白い雲。
強い陽射しに波の音が聞こえ、磯の香りがする。
私、白川 茉穂は男子バスケ部の合宿について来ていた。海まで。
(……まぁ、食事担当としてだけなんだけどね)
バスケ部の人達は、相田先輩(のお父さん)が用意した砂浜に置かれたバスケのゴール並びに、砂浜にひかれたライン。簡易コートで練習をするらしい。
(……すっごく、大変そう…)
しみじみ自分が今、運動部でない事に感謝する。
じーっと見ていたら、セーラーの上を脱ぎキャミソール姿の相田先輩が気づいたのか、こちらに寄ってきた。
「白川さん」
「はい」
「白川さんは先に宿に行っててもいいわよ」
「……あ、じゃあ、宿の人に調理場見せてもらいます。食材もどうなっているか確認しておきます」
食材については、先に発注してあるから確認という形になるが。
「うん、よろしくね。こらぁぁぁ、そこ、動き悪いわよ!」
「……いってきます」
一気に鬼監督と化したリコにそう告げると、茉穂は先に宿へと向かう。
多少がたがきている格安な宿へさらに食事は自分たちで用意するのでさらに宿泊代がもっと安くなる。
とりあえずは宿の人に調理場案内された。本来の調理場ではなく、自炊用の調理場だ。
従業員に色々説明を受け、食材もすでに届いていた。冷蔵庫に入れてくれていたので茉穂はお礼を言った。
リコに言われていた事を思いだし、夕食の下拵えを早めに始めた。
同時にバスケ部の方々に差し入れを作る事にした。
「ゼリーは固まるのに時間があるから、夜のデザートにして、今はこのドリンクとレモンのハチミツ漬けを持って行こうかな。夜は……定番のカレーでいっかな。お米もいっぱい研いだし……」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、茉穂は手を動かしていった。
下拵えが大体終わったので、宿の人が貸してくれた台車にドリンク類を乗せて砂浜のコートへと向かうと、わふわふと子犬がこちらに走り寄ってきた。
「2号も暑いでしょ。お水飲もうか」
「わふ!」
持っていたペットボトルの水を手のひらに入れて出すと、勢いよくピチャピチャと飲んだ。
暑い中、バスケ部に付き合っているのだから仕方ないだろう。
「わふ!」
もう充分!と言わんばかりに足元にまとわりつく。砂浜に向かって「わふわふ!」と鳴く2号は「行こう!」と言いたげだ。可愛い。
「うん、行こうか」
またガラガラと台車を押して浜辺まで運んだ。
「相田先輩、差し入れ持って来ました!」
「え? あ、ありがとう、白川さん! みんなー、三分休憩〜」
途端、「「おぉ〜!」」と声が挙がる。ドリンク〜と一斉に寄ってくる彼らにちょっとたじろいだ。
炎天下の中、砂浜で走っていたのだから、彼らの疲労は半端ない。
ふと、あまり体力がない幼なじみを探せば砂浜に倒れてる。体力がないくせに頑張るのだ、彼は。
横たわるテツに寄って、声をかけた。
「テーツ、大丈夫?」
「…………茉穂」
「全く、ほら、ちゃんと起きて水分補給しなさいよ」
「…………ありがとうございます」
手渡すとごくごくと喉を鳴らして飲む姿は、間近であまり見たことはない。
中学時代もこんなに近くにはいなかった。
「何ですか?」
「うん? ……あー、何かテツが色っぽいな、と思って?」
「…………何を言ってるんです」
「汗が伝う首筋とか、」
「……変態じみてます、茉穂」
「失礼ね!」
呆れた様に話す黒子に、頬を膨らませると、フッと笑った。
(何、あそこ…)
(バカップルかよ…)
(黒子のヤツ、なんか……)
(((羨ましい)))
周りがそんな目で見てるとは思わない二人だった。
木吉なんかは「仲いいんだな〜」とテキトーな事を言っている。
「今夜は定番のカレーだからね」
「茉穂のは美味しいので楽しみです」
「ハハッ、褒めたってデザートはゼリーだけだよ」
「頑張ります」
「うん、頑張れ」
やがて休憩が終わり、茉穂はボトルを回収してから宿に戻った。
夕方からは体育館で練習だというので、もう一度ドリンクを作り、リコに託して、茉穂は夕食を作り始めた。
夏野菜を使い、栄養に気をつけた。中々こんなに大人数分を作る事はないので、分量を見ながら、でも、自分の感覚で作っていく。
煮込んでる間に、サラダ用の千切りも半端なくて、手がじんじんする位だ。
やがて、ガヤガヤと騒がしさを感じて、急いでテーブルに並べていくと、リコがやって来た。
「白川さん」
「あ、お疲れ様です」
「白川さんこそ、お疲れ様。大変だったでしょ。ごめんね、手伝わなくて」
手を合わせて謝るリコに茉穂は大丈夫だと告げた。そもそもリコの料理が独創的でなければ、ここにはいないのだから。
「あ、後これ運びますね」
鍋を持とうとした時、厨房にまた人がやって来た。
「おーい、」
「あ、鉄平。丁度いい所に。鍋持ってってくれる?」
「おー、いいぞー」
「え? 大丈夫ですよ」
「いいから、いいから、重いんだし、鉄平に任せなさい」
「は、はぁ…」
促されて食堂へ行くと、皆、だらぁ〜っとしている。余程疲れきってるようだ。
「ちょっとー、シャンとしなさいよ! せっかく白川さんがご飯作ってくれたのよ!」
「え、え〜と…皆さん、お疲れ様です。おかわりあるので、沢山食べて下さいね」
「「((……何か、癒される…))」」
前もって、相田先輩には装わせない様にと日向先輩に言われていたので、彼女にはレモン水とお茶を淹れてもらっている。
「じゃあ、合宿初日だけどお疲れさん! 頂きます!」
「「「いただきます!」」」
日向先輩のかけ声で、皆一斉に食べ始めた。
「うめぇ〜」「美味い」と、口々に言われると嬉しい。こういう瞬間、作って良かったと思える。
「おかわり!」
差し出された空っぽの皿が目の前につき出される。顔を上げると、もぐもぐとまだ口を動かしている火神くんがいた。
「おかわりだよ、おかわり!」
「は、早いね…」
お皿を受け取り、ご飯を装おうとして後ろから「山盛りな」と言われた。
「こらーバ火神ー! それくらい自分でやりなさいよ! 白川さんも座って食べていいわよ」
「え、あ、はい…です。なんか、悪ぃな」
「いいよ、これくらい。はい、これでいい?」
「おう、サンキュ」
山盛りカレーを持って、彼は席に座る。茉穂も自分のカレーを持って辺りを見渡す。
黒子の横が空いてるので、そちらに足を向けた。
「どう?」
「茉穂、美味しいですよ」
「それは良かった」
席について、カレーを頬張る。うん、中々いい出来かも。
食べている間に、相田先輩が部員たちに連絡事項を伝えている。
入浴後にストレッチをしてから寝る様にと言っていた。就寝まではフリーらしい。でも自主練とかするんだろうな、と何となく思った。
とりあえず、自分は明日の献立と仕込みをしなくちゃと思い、またカレーを頬張った。
朝食の下拵えも終わり、お風呂も済ませたので、部屋に戻る。
相田先輩と二人で使うには少々広い気がする。中居さんが布団を敷いてくれたのだろう。二組並んでいた。
「お疲れ様、白川さん」
「相田先輩こそ、お疲れ様です」
「明日の朝ご飯、手伝うわね」
「え? 大丈夫ですよ。相田先輩だって疲れていますし、私はその為に来てるんですから」
「でも、」
「相田先輩、監督なんですよね? 色々考えたりしてるんですから、無理しないで下さい」
本当は立たせない様に言われてるだけなんだけど、そんなこと言える訳ないので誤魔化せと言わんばかりに笑ってみた。
「……白川さんて……」
「はい?」
「本当にいい子ね。ありがとう」
「食事作るくらいですから、構わないです」
「本当に助かるわ。あ、そうだわ、食事なんだけどね───」
相田先輩から出された話に、私は明日、テツが大丈夫だろうか、と思わず心配した。
こうして、初日は無事に終わったのだった。
To be Continued
あとがき
まだ出てこない落ちの人(笑)
次こそは出したいです。
2012/10/15