29

黒子のバスケ

「──茉穂、茉穂!」

「えっ?!な、なに…」

「どうかしたんですか? さっきから静かですが」

傍らを見上げれば黒子の姿に茉穂は少しだけ笑って「なんでもないよ」と答えた。
その様子に黒子は何かを思いながらも、口には出さずにいた。
茉穂の腕にいる2号の頭を撫でれば、ペロリと手を舐められる。くすぐったさに少し笑いながら誠凛メンバーがいる場所へと歩いていった。
2号の発見はすぐにメールで知らせたからか、ほとんどのメンバーが集まっていた。

「茉穂ちゃーん、見つけてくれてありがとう!」

茉穂の手を掴みぶんぶんと振り回したのは小金井だ。日向やリコに叱られたらしく若干涙目である。
茉穂はハハハと力なく笑いながら「見つかって良かったです」と話していた。
見つかった2号もリコを始めに撫でられているし、木吉は犬相手に「散歩に行くならちゃんと言っていけよー」などと真面目にいっていた。
そんな中、ただ一人だけ怪訝な様子で木吉を見ている火神がいたことに黒子は少しだけ首を傾げていた。
今日は解散ということになり、茉穂は先に帰ろうとしたが黒子に呼び止められた。

「一緒に帰りましょう」

「いいの?」

「はい」

茉穂としては黒子は火神と帰るとばかり思っていたから、意外そうに眼を瞬かせた。

「じゃあ帰ろっか?」

「はい」

先輩や火神くんたちに「お疲れ様でした」と声を掛けてから、黒子と茉穂は家路へと向かった。
試合、凄かったね。新技もちゃんと完成してたね。と先程の試合の事を興奮しながら話す茉穂に黒子はひとつひとつこたえていった。

「茉穂はお友だちと一緒に見てたんですか?」

「あぁ。ちょっとどこにいるか分かんなくなって。さつきちゃんと黄瀬くんと見てたんだよ」

「そうだったんですか?」

「うん。黄瀬くんはウインターカップ出場決まってたんだってね?」

「そういえばメール着てましたね」

「知らなかったんスかー?とか言われちゃったよ」

「…………黄瀬くんと仲良かったでしたっけ?」

「そうでもないよ?」

「そういえば、黄瀬くん。茉穂に『っち』付けて呼んでましたよね」

そう呼んでいたことに若干驚いた。それは黒子だけではなく緑間もだったが。

「あー、うん。なんでかは良く分からないんだけど……」

苦笑いをする茉穂を見ながら黄瀬を思い出す。『尊敬する相手』に付ける彼特有の名称は確かによく分からないものである。
茉穂に関しては『みんなが仲良いみたいだから仲良くなりたいから』と訳が分からない。
しかし、そこに緑間を足せば違うような気がする。
緑間が気にしている女性が茉穂である。だから尊敬する?という方程式が出来上がるだろうか?
『あの』緑間が気にしているからこそ黄瀬の中で尊敬に値するという方程式が出来たのかもしれない。
緑間と言えば『ウインターカップでまたやろう』と言われた時は嬉しくない訳ではなかった。
引き分けという結果で終わり、ウインターカップの切符はまだ決まってはいない。
恐らく秀徳は残り一戦、問題なく勝てるだろう。
誠凛の残る相手は霧崎第一。日向が言っていた、木吉と同じ『無冠の五将』の一人がいるらしい。
帝光時代の記憶を巡るが、自分がレギュラーとして入ってからの試合にはいなかった気がする。
木吉とは真逆であると言っていた、そこが気になってしまう。

「テツ?テーツ?」

不意に頬に痛みが刺した。見れば茉穂の指が頬に突き刺さっている。

「痛いです、茉穂」

「急に黙りこむからこっちは心配したの!どうかした?」

顔を覗き込むよう仕草に「ちょっと考え事してました」と指を退かせながら応えれば、そう?と軽くあしらわれた。

「──そういえば、茉穂はちゃんと応援してくれたんですか?」

「もちろん、誠凛を応援していたよ」

ニコッと笑う茉穂に嘘はついていないと確信を持てるのは付き合いが長いからだろう。

「ならいいんです」

「変なテツ〜」

クスクスと笑う彼女が一瞬、顔を変えた。

「でも……どっちも応援したくなる好試合だったな……緑間くん、凄かった」

呟く彼女は優しい眼差しをしていた。茉穂は知らずにそんな顔をしているのだろう。
青峰くんと黄瀬くんの試合を見た時も似たような事を言っていた。しかし、そんな風に微笑することはなかった。
まだ、渡したくなんてなかったのに。
初恋は実らないとはよく言ったものだと思う。
いつも、いつだって隣にいたのは自分だというのに、その隣で彼女はいつも違う恋に惹かれていたのだ。
苦しい思いをしなかった訳ではない。いつか、と思いながらもこちらに向くことはなかった。
諦めた、はっきり、そうという訳ではないがそれに近い感情になりつつある。
だからといって、あの変人電波、もとい緑間に、はいどうぞ、と簡単に渡せる程でもない。
そもそも『はいどうぞ』と渡すとか決めるのは自分ではないが。
でもまだ彼女の隣は譲りたくはない。

「テツ?」

「なんでもないです」

「そう?」

不思議そうにしながらもフフっと笑う茉穂を見て、黒子も微笑した。

「次の試合、応援に来れますか?」

「次って1週間後だっけ?」

「お手伝い入ってるんですか?」

「う〜ん。行けたら行くよ!」

ぐっと拳を握る彼女に「よろしくお願いします」と伝えてから、あ、と付け加えた。

「次は緑間くん──秀徳も応援してもいいですよ」

「う、うんっ!」

少しだけ笑みを深くした茉穂を見て、(イグナイトかましてもいいですよね、うん、いいはずです)と黒子は心に決めたのだった。
試合を終えた、緑間がくしゅん!と帰路でくしゃみをしている事は高尾しか知らずにいた。



To be Continued

act.29
2015/09/29


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