33

黒子のバスケ

試合は誠凛が勝利した。
誰もが勝つのは桐皇だと感じていた中、コート内では誰一人として誠凛は諦めずに試合に望み、青峰の才能に畏怖の念を抱きながらも、試合を勝ち取ったのであった。
茉穂はただ目を見開いて、その光景を見つめていた。

(………すごい、すごいよ、テツ……)

挫折したことも知っていた。
バスケを辞めようとしていたことも気づいていた。
それでも、バスケが好き という思いだけは諦めずにいた幼馴染みに茉穂は知らずに涙が溢れていた。

(……私も、諦めずにいたら、良かったのかな……)

薄く残る傷痕を擦り、コート内で喜ぶ誠凛メンバーを見ていると、黒子がよろけて火神が手を出していた。支え合う二人と、もう一人が対峙している。青峰くんだ。
何かを話しているのか、黒子と青峰の拳がコツンと触れていた。
コート脇の桃井が手で顔を覆っている。
ああ、これで……昔のように戻れるのかもしれない。茉穂はそんな事を思いながら、腰を上げた。
控え室に行こうとしたが、初日最後の試合と注目試合だったせいか人が多い。
下手に動かないでいようと思ったが、あまりの人の多さに止まることが出来ずに分からない場所へと流されてしまった。

「……ここ、どこ?」

体育館なんて大体どれも作りは同じだろうが、此処はウインターカップで使う程の大きさである。
茉穂は完全に迷子になっていた。
どこかに案内図があるはずだろうと辺りを見渡していると、壁にぶつかった。壁というか、人であるが。

「……っぷ!」

「あれ、人がいたアル」

「……ある?」

不思議な言葉使いに顔を上げれば緑間や火神よりも背の高い人が立っていた。

「何、人にぶつかってんだよ。あぶねーな」

ひょい、と彼の背後から顔を見せた人と目があったのと、危ないという言葉に茉穂は慌てて謝った。

「すっ、すみません!すみません!」

「え?あ、違う違う。アンタに言ったんじゃなくて劉に言ったんだよ!」

「え、俺アルか?」

「ったりめーだろ!デカい図体で女の子にぶつかんじゃねーよ!」

「あー……ごめんアル。ケガしてないアルか?」

「い、いいえ!こちらこそすみませんでした。よそ見してて…」

「キョロキョロしてたよね、何か探してたの?」

謝っているとまた誰か表れた。端正な顔立ちの人だ。

「あ、はい……。案内板を…」

「案内板?」

「……ちょ、ちょっと迷ってしまって……」

「…………」

何だか恥ずかしくて堪らなくなった。
いい年して迷子って!しかも館内で!
情けない……と思って俯いていると、ポンポンと頭を撫でられた。

「ここ、広いから迷うよな」

「大きいですからね」

「仕方ないアルよ」

三人揃ってうんうんと頷いている。
ポカンとしていると、劉と呼ばれた人が声を掛けてきた。

「一人で来たアルか?」

「あ、はい……」

「どこに行こうとしてたんだい?」

「えっと、せ「お前たち、何をしてるんだ?」」

「監督」

「ん?その子は?」

「あ、「迷ったみたいです」」

「そうか。ここは広いからな、外へ出たいのか?」

「あ、えっと……「あれ?マサじゃねーか」」

「っ、景虎っ?!」

女の人(監督)と景虎さんの登場に茉穂は(さっきから遮られる……)なんて思いながら、二人を見ていると景虎が茉穂に気がついた。

「あれ?リコたんの後輩の……茉穂ちゃんだったか?」

「は、はい。お久し振りです、景虎さん」

「お、お前は景虎の知り合いなのか?」

「俺の可愛いリコたんの後輩なんだよ。こんなとこで何してるんだ?」

驚いた女性に頷きながら、景虎に「迷子になりました」と伝えれば、何故か腹を抱えられながら爆笑された。
女性は「そんなに笑ってやるな!」と言っているが、なんだか疎外感が半端ない。
ちらり、と先程話していた彼らを見れば、監督と話している男の人が気になるのかジッと見ている。
どうしようか、と悩んでいたら第三の声が聞こえた。

「トラに雅子、何をしてるんだ?」

「マー坊」「中谷」

「んん?そちらは……白川さんだったかな?」

「あ、はい。お久し振りです、中谷監督」

「マー坊、茉穂ちゃん知ってるのか?」

「夏合宿で会ったんだが……。緑間を呼ぼうか?」

「へ?」

状況を読んだのか、茉穂が答える前に中谷は携帯を取りだし、緑間を呼び出した。

「あー、緑間。中谷だが、急いで北口通路に来るように」

「あ、あの……」

「マー坊。何勝手に呼んでるんだよ、茉穂ちゃんなら誠凛呼ぶのが一番だろ」

「白川さんにはやってもらいたい事があるからいいんだ」

「はあ?」

「……お前は景虎だけでなく、中谷とも知り合いなのか?」

「えっと……知人を通して知り合いなだけで…」

女の人──雅子さんに話しかけられてそう答えるしかなかったが、誠凛という名前に傍観していた片目の彼が声を掛けてきた。

「君、もしかして誠凛のマネージャーなのかい?」

「いえ。誠凛ではありますがマネージャーではないです」

「あ、そうなんだ。さっき彼らが合宿で会ったとか言ってたからてっきり」

「もしかして……火神くんの……」

兄弟?と聞こうとしたら後ろから賑やかな声がした。

「あれ、茉穂ちゃん?」

次から次へとなんだろう、と振り返れば高尾の姿があった。
中谷監督も「高尾?呼んだのは緑間だが?」と首を傾げていた。

「真ちゃん、面倒くさいのだよ、とか言って俺を代わりに寄越したんスよ」

「緑間にはペナルティを与えないとダメだね。高尾、白川さんを外に連れていきなさい」

迷ったそうだ。と伝われば高尾は吹き出して笑った。失礼だ、なんて思っていると、肩を叩かれた。

「自己紹介はまた今度にするね、白川さん」

「じゃーな、また迷うなよ」

「バイバイアル」

「……ではな」

雅子さんで締めくくり、彼らは行ってしまった。
気づけば景虎さんも中谷監督も既に行ってしまったようで、ここに残っているのはお腹を抱えて静かに笑っている高尾ぐらいである。

「……アルって……アルって、言ってた……ブフォ……」

「……高尾くんって、本当に笑い上戸だよね……」

呆れて言えば、「だって…」とか言っている。
確かに初めて「〜アル」とか言われた時はびっくりした。

「高尾!一体、中谷監督は何の用なのだよ……っ白川?!」

文句を言いながら歩いて来たのは緑間だった。
どうやら再度緑間を呼び出したらしい。
彼は茉穂の姿を見つけるなり、目を見開いた。

「真ちゃん!こういう事みたいだよ。じゃあ、俺先に帰るなー」

じゃあねー茉穂ちゃーん。と言って高尾はさっさと歩いて行ってしまったのだった。




To be Continued

act.33
2015/12/02


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