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黒子のバスケ

高尾が去ってしまい、どこか静まり返った通路に茉穂と緑間は立ち尽くしていた。
かなり人が少なくなったのか、先程までのざわめきが嘘のようである。

「あ、あの……行かなくていいの?」

問いかければ、緑間は「あ、あぁ…」と応じるだけでそれ以上は何も言わない。普段からそんなに口数が多い訳ではないが、それほどやけに静まりかえっている。
しかし頭の中では茉穂同様、いやそれ以上に色々と考えているのだろうが、それを口に出さないのだった。

「白川は、ここで何をしていたのだよ…」

「え、えぇと……その…」

また「迷子」になった事を言うのは少し恥ずかしくて、両手を合わせては眼を泳がせていた。
しまいには恥ずかしさと情けなさで俯いてしまったが、長身の緑間から見てはどこか可愛らしく見えてしまう。
きっと友人に言わせれば「あざとい」と言われるだろうが、そんなことはどうでも良かった。
茉穂が会場に来ていたことは開会式直後に赤司から呼び出された際に会ったので知ってはいた。
無論、黒子や火神──誠凛の試合を観にきたのは分かる。だけど相手は青峰がいる桐皇だった。
ツキリと胸が痛くなった気がした。

「……誠凛の控え室に行かなくていいのか?それとも………青峰に、会うのか…?」

「? なんで青峰くん? 誠凛は分かるけど」

思いがけない名前に茉穂は首を傾げた。
それには緑間も眼を見開いた。

「…………」

「……?」

「……あ、青峰と、つ、つつつ付き合ってただろう……?」

「は? え? だ、誰と誰が?」

「……白川と青峰が、なのだよ。仲が良かっただろう……」

カチャカチャとずれてもいない眼鏡を押し上げる緑間に、茉穂は意味が分からなかった。

(まさか、緑間くんも噂信じてたの?!)

確かに仲は良かった、かもしれないが……。
前にも黄瀬に言われていたが、そんな事実は一切ない。

「えーと……確かに仲は悪くはなかったけど、付き合ったことはないよ?」

「は?」

「いや……付き合ってはいないです、よ?」

茉穂が頬を掻きながら再度口にすると、緑間は眼鏡がずれた気がした。
誰かか、黄瀬あたりだったかが昔言っていたような気がした。
「青峰っちとあの子、仲良いっスよね。付き合ってるみたいっスよ」
クラスが一緒だったし、下らないと聞き流していたが、確かに仲は良かった気がして信じてしまった自分が情けなくなった。
何か言おうと口を開こうとしたが、何を言えばいいのか分からずに勢いよく顔を背けた。
茉穂も緑間の行動にどうしたらいいのか分からずにいると、聞き慣れたメロディが耳に届いた。
緑間にも聞こえたらしく、こちらを気にしている。
長く途切れる事がない音はどうやら電話の様だった。

「…出ないのか?」

「あ、……う、うん」

流れるメロディを探すようにバッグの中に手を入れて探しだすと「黒子テツヤ」の文字が画面に出ていた。

「……テツ…」

呟いた声は緑間にも聞こえたらしく「黒子か…」と思っていると、一向に出ようとしない彼女に首を傾げた。

「出ないのか?」

「後で、かけ直すよ」

長く鳴っていたメロディはやがて途切れてしまった。また静寂に包まれ、緑間は何かを言おうとしたが、何を話したらいいのか分からなくなった。
とりあえずは会場から出ようと踵を返した。

「緑間くん?」

「そ、そろそろ帰るのだよ」

「えっ、ああ、そ、そうだね。緑間くんは明日試合あるもんね」

「あぁ…」

歩き出した緑間を追うように茉穂も歩き出した。背の高い緑間の背中を見ながら茉穂はハッとした。

(もしかしなくても、この後用事あるんじゃ……)

サーと血の気が引いた。
明日、試合ならばミーティングとかスカウティングがあるんじゃない!?
それなのに自分に付き合わせてしまうなんて……と茉穂は焦り始めた。
しかし茉穂の所に緑間を呼んだのは監督である中谷だ。彼もまた緑間の心情を知った上で彼女に期待をしていた。
長年の勘というかべきか、悪くはならないだろうとは思っている。上手くいけば緑間のテンションは向上するだろうと。
そんな思惑があるとは知らない茉穂は若干涙目になりそうだった。
邪魔をしない。と決めていただけに、ショックが大きかった。

(いくら、少しでも一緒にいたかったとはいえ…………え?)

後を付いて歩いていただけにいつの間にか会場の外にと出ていたのに気づいたのは、緑間が声をかけてきた時だ。

「白川……お、送っていくのだよ…」

振り向き様に緑間は階段の下に立ち、階段上にいる茉穂を見上げれば、少し……頬が赤く見えた。
寒さのせいかもしれないし、照明のせいかもしれない。

「…………っ、い、いいよ!緑間くん忙しいんでしょ!? 悪いよ、これ以上時間を割くのは!」

両手を振りながら後退りをする茉穂は、緑間が少し傷ついたように見えた。

「こ、こんなに暗いのだよ、送らない訳にはいかないだろう。…………それとも、俺ではイヤなのか…」

「そんな訳ないっ!……あ…」

瞳を切なげに伏せられ、茉穂はそうじゃないと強く否定をした。
その言葉にホッとする緑間の所作にもしてやられた。顔が熱くなるのを感じる。

(冬で……夜で、良かった……)

顔が赤いのを誤魔化せるから、そんな事を思っていると、ギュッと手を掴まれた。
顔を上げるとクリスマスイルミネーションを背景に緑間の姿がある。
酔いしれそうになる。
言葉が出てこない。

(……あぁ、我慢、してたのになぁ……)

「……白川…」

「……」

「……俺は……お前が……」

前にも聞いた。だから自分が言わなくてはならない。待たせてしまったし。

「私、緑間くんが好きです」

「……っ!」

自然と紡がれた言葉に笑顔を向けると、目の前の彼は固まってしまった。
あぁ、せめてウィンターカップが終わってからにしようと思っていたんだけどなぁ……。
そんな事を考えていると、強い力で抱き寄せられた。

「……嬉しいのだよ…」

絞りだすように紡がれた声に、茉穂はこの自分よりも遥かに大きいであろう存在が可愛く思えた。
抱きしめ返すかのように腰に手を回すと、身体をびくつかせていたが「緑間くん、大好きです」と見上げて言ってしまえば、端麗な顔が近づいてきたのだった。




To be Continued

act.34
2016/01/29

真ちゃん!?


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