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正面入り口まで歩いて行くが、茉穂は緑間の後姿を見ていた。
(……やっぱり、背が高いなぁ…)
顔を上げないと彼の頭部が見えないのだが、人出が多い人込みでは難無く見つけられる。
これが黒子であるならば、彼の特性も相俟って探すのも一苦労であるのだが。
そんな事を考えて歩いていると、前を歩く緑間がピタリと立ち止まった。
どうしたのか、と思っていると急に手を取られた。
「へ?」
「人が多い……はぐれたら大変なのだよ…」
顔を見上げたが、そっぽ向いているが耳が赤いのが見えてしまい茉穂も顔が熱くなるのを感じた。
(だから……伝染する…)
繋がれた手も熱く感じてしまう。
嬉しいようで、恥ずかしくて、でも、やはり嬉しい気がして。
昨日の事もあって、もしかしたら厭きられたんじゃないかなんて思ったりして。
「あっ……の…昨日は…」
「っ!」
「……その……」
なんて言葉にすればいいのか分からない。
逃げて、ごめん?そうだけど、それじゃなんか違う。
緑間も同じようで、口をパクパクさせている。暫く沈黙していた二人だが、先に口を開いたのは緑間だった。
「き、昨日は……その、すまなかったのだよ………」
「えっ…」
「……ぃやだったのだろ……その、」
「嫌なんかじゃなかったよ!」
思わず出た言葉に茉穂も緑間も真っ赤になった。
茉穂はぎゅっと服の裾を握りしめながら口を開いた。
「わ、私は……その、突然の事にびっくりしたけど! その……イヤとかそんなのはなかった……です。寧ろ……恥ずかしかった、からで……。それに色々邪魔して申し訳ないです……」
「邪魔?」
「そのっ……今日、試合なのに、私に構ってる場合じゃないのに…時間取らせてしまって……」
「……気にする事はないのだよ。それに」
「それに?」
「嫌われたかと思っていたのだよ」
「嫌いになったりなんかしないっ!」
なんで?と言わんばかりに茉穂が声を上げれば、緑間は口元を緩めた。
グイッと手を引っ張って、通路の脇へと、人目を避けると彼女の耳元で「白川を邪魔だなんて思わないのだよ」と囁いた。
その行為に茉穂は耳を押さえ、真っ赤になるしかない。緑間はそんな彼女を愛しく可愛く思えた。
「今日は試合を見ていかないのか?」
「き、今日は……友達と遊ぶ約束してるから……その、試合頑張って下さいっ!」
しょんぼり、といった感じに言われ茉穂は申し訳なさそうに、だが緑間の手を握って言えば「勿論なのだよ」とキリッとした顔で答えた。
「本当はいて欲しかったのだよ」
「………ご、ごめんなさい……」
「……責めてる訳ではないのだよ、だが、白川が応援してくれるなら嬉しいのだよ」
「それは、勿論!誠凛と当たらない限りは!」
「誠凛と当たるには決勝で、なのだよ」
「そっか。じゃあ、決勝までは緑間くんを──秀徳を応援してるよ」
握っていた手をぐっと握り返され「負けるわけにはいかないのだよ」と言う緑間の左手──テーピングの上に茉穂は唇を落とした。
「頑張って下さい」
「……っああ」
緑間に隠れて、茉穂の姿は周りの人には見えなかったようだった。
◇◇◇◇◇
緑間に入り口まで送ってもらった後、茉穂は自分のしたことに後れ馳せながら恥ずかしくて堪らなくなった。穴があったら入りたいくらいだ。
顔が熱いのが分かる。きっと真っ赤になってるだろう。
(ああっ、もう!)
緑間くんのせいだ!そんな悪態を心の中で呟きながら歩いていると、ドンッ!とぶつかってしまった。
茉穂は慌てて顔を上げるがそこは壁。いや、人の体だが、壁としか言いようがない。
ぶつけた鼻を押さえながら仰ぎ見ると、とても大きな人がいた。
「………………」
「………………」
「……え、と…」
「だ、だだだ大丈夫かっ?」
「は、はいっ!」
「ほ、本当か?ワシにぶつかって痛くないか?」
「そ、そんな強くぶつかってないから大丈夫です……こ、こちらこそすみません!前をきちんと見てなくて……」
慌てて謝るとその人は「いいんじゃ」と言ってくれた。
「この通り、頑丈じゃからの」
強面の割には優しそうな気がして、茉穂はほっと息を吐いた。
ふと、目に止まったジャージに既視感を抱いたのは気のせいかと思えばそうではなかった。
「岡村ぁ、何してんだよ!オメー」
「痛っ!叩くな、福井」
「っと、女の子じゃん!なに、そんな面でナンパ…?アゴリラのくせに……あれ?」
「そ、そんなんじゃないわいっ!」
「あ……」
ドカッと蹴りを入れたのは昨日の人だと気づいたのは、目が合ったからだ。
「昨日の迷子じゃん」
「や、止めて下さいっ!」
迷子という言葉に恥ずかしくなる。
それなのにこの人はニヤニヤと笑っている。
「なんじゃ、福井知り合いか?」
「知り合いっつーか、昨日、体育館で迷子になってたんだよな」
ハハっと笑う彼に茉穂は真実が故に反論出来ず、小さく「はい……」と答えるしかなかった。
恥ずかしい、この年で迷子になるとか。
「ふ、福井!女の子をいじめたりするんじゃない!」
「別にいじめてねぇよ!氷室の言葉じゃねーけど、こんなデカい体育館なんだ、知らないやつとかは迷子になるだろ。紫原なんかしょっちゅう居なくなってるだろ」
「……」
「……」
「…な、なんだよ」
「う、うわぁぁぁぁあ!」
ポカンと見ていると、隣にいた強面の人が泣き出した。びっくりしたのは私だけではなく「福井」と呼ばれてる人もだ。
「な、なんだよ……」
「福井までもがカッコいい事を言っちょる!」
うわぁぁん!と激しく泣きながら、岡村は走り出してしまい、残された二人は呆然としていたが、福井は「はぁ?どこがカッコいい?つか、おい!岡村!!」と追いかけていった。
「………な、なんだったんだろ…」
二人を見送ってから、「あっ!時間!!」と友達を思い出して、慌てて電車に飛び乗ったのだった。
To be Continued
act.37
2016/05/02
岡村の口調が分からない。