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クリスマスは友人たちと過ごし、冬休みだから遊びに誘われたりした私は、彼らの様に夢中になれる事があるのはとても羨ましい気持ちになる。
観に来て欲しいと、緑間くんやテツに言われ、さつきちゃんにも観に行こうと言われれば断る理由はない。
緑間がいる秀徳のチームは「キセキの世代」を有する相手チームとは準決勝でしか当たらない。
「キセキの世代」たちを束ねてきたかつての主将たる赤司とはその準決勝で当たる。
それに対して、黒子と火神がいる誠凛のチームのトーナメントには、「キセキの世代」がいるチームが3校も集まっていた。
準々決勝は誠凛対陽泉。紫原がいるチームだった。
見ていたら、迷子(認めたくはないけど)の時に話しかけてきた人たちだと分かったし、アレックスさんの愛弟子──火神くんの兄貴分にあたる人がいるらしい。
意外にも誠凛の初得点は黒子が放ったシュートで、それは見たことがないモノに驚いた。
「なっ、に…あれ?」
呆然と呟けば、ドンっと誰かがぶつかってきた。地味に痛いから文句を言ってやろうと振り向けばそこには青峰とさつきの姿があった。
「青峰くん?」
「よう、久し振りだな」
「茉穂ちゃん」
「さつきちゃん!」
相変わらず可愛いさつきを認めると、両手を掴んで挨拶をした。
「おいっ!俺は無視かよ!!」
「青峰くん、煩いよ」
「そうだよ、青峰くん」
二人に同じ事を言われたからか、青峰はへいへい、と頭を掻きながら明後日の方向へ目を向けた。
鋭い視線を感じて、青峰は首を回した。殺気を含んでいるような、視線の元を辿るとそこにはかつてのチームメイトの姿があった。
(………アイツ、マジなんなんだ)
相変わらず訳が分からない。何故睨まれなくてはならないのか、と思いたった時に思い出したのか数ヵ月前の事だ。
(そういや、コイツに惚れてるんだっけ?)
目下の試合をしている誠凛のユニフォームがちらついた。
そうだ、緑間は茉穂に告白紛いの事をしていた。いや、あれは告白にしか見えなかった。
コートでは、かつての相棒がチームメイトが闘っている。
なんとかゴールに入るようになった、黒子のシュート。彼がやりやすいフォームにさせれば、驚くしかない。
「茉穂ちゃん、茉穂ちゃん。テツくんのシュート凄かったね」
「あ、うん!いつのまにあんなことに?!」
「青峰くんが、シュート練してたんだって」
「え、青峰くんが?!」
「……なんだよ」
じっと見つめれば、ジロリと睨まれるように目線だけを茉穂に向けた。
あまり青峰と接したことがない女であれば怖がるかもしれないが、茉穂は慣れたものである。
どこか気まずそうにしている青峰を見ていたのだ。
「いやぁ、なんでまたそんなことに?」
「あの、試合の次の日にいきなりテツに呼び出されたんだよ」
「テツに?」
「あぁ。いきなりヘボシュート見せられた上に、シュート教えろとか抜かしてきた」
その出来事に茉穂は一瞬驚くものの、ふふっと笑った。
「な、何笑ってんだよ!」
「ううん。なんだかんだいって、青峰くんは面倒見いいね」
「私とのデートすっぽかしたんだよ!酷くない?!」
「えー!デートすっぽかしちゃダメだよ、青峰くん」
「だからアレはデートじゃねぇし、テツが………あぁ、もうお前ら揃うと面倒くせぇ!!」
頭をガリガリ掻きながらそっぽ向いた青峰に、茉穂とさつきは顔を見合わせて笑った。
こんな雰囲気が懐かしい。2年前は黒子も混じり、こんな風に過ごしていたっけ、などと少し感傷的になった。
試合はヤル気があまりない紫原が、オフェンスに加わるくらいヤバい展開になった。見ていて怖いくらいの圧倒的な力に、意外なくらいの速さに驚きを隠せなかった。
「ゴールが、壊れた……?」
「そんな…」
その出来事に会場も驚愕の声があがる。
あまり彼に関しては接点がないから話したことはない。黒子からの話ではいい人だといっていたが、バスケの事になると気は合わないと言っていた。
破損したゴールを交換し、試合を再開した。木吉が怪我をし、代わりに黒子が出てきた。
試合も見ているだけで息が詰まりそうになるくらいに、目が離せなかった。前回の青峰との試合もそうであったが、こちらも同じくらいハラハラしている。
「火神くん?」
「……ったく。バカヤローが、このままじゃ負けだな」
「え?」
「どうして?」
「アイツの考えてることなんざ手に取るように分かるぜ。大方「ゾーンに入れれば…」とか考えてんだろ──が、このままじゃ一生かかってもゾーンに入ることなんか出来やしねぇよ」
「……え?」
「………入ろうとしてるから?」
「ああ。ゾーンてのは1回目より2回目の方がはるかに入ることが難しくなる。なぜなら一度体感して知っちまったからだ。あのなんでも思い通りになるような状態を知ってしまえば、自然「もう一度…」という気持ちが湧く。けどその気持ちこそ雑念。集中状態であるゾーンに入る為に一番あっちゃなんねーもんだ」
「火神くん…」
「ゾーンに入る為には、ゾーンに入ろうとしたらダメなんだ」
青峰の言葉を聞き、試合を見ていると何やら黄瀬と話してる姿が目に入った。
何を言ったのか、言われたのかは分からないが、先程までの火神とは少し変わったのに気づいた。それは隣にいる青峰も気づいたようだ。
土壇場でゾーンに入ることに成功したのか、火神の動きが凄まじかった。木吉も復活し、陽泉側も何か揉めていたが、諦めるということをしない誠凛は陽泉に勝利したのだった。
「……すごいなぁ…」
諦めるという事が嫌いだという、幼馴染みはそれを体現するかのようにバスケ選手としては小さい身体で諦めずに試合をやりきった。
しみじみと感想を述べれば、隣の桃井も「テツくん、本当に格好いい」と優しい目で黒子を見つめている。
だが、ふと思い出したように、青峰に顔を向けた。
「ムッくん、もしかして最後、ゾーンに入ってた?」
「あぁ…誠凛の3Pが決まって1点差につめられた時からだ。追い詰められて扉を開いたんだろ。それでも最後はあと一歩足りなかったけどな」
「でも、紫原くんて…」
「うん。ゾーンに入るのに必要なバスケを好きな気持ち──ムッくんにはずっとなかったはずでしょ?」
桃井の言葉に茉穂も頷いた。それで黒子とはバスケに関しては気が合わなかったはずだ。
「……まーな。けどアイツは入った。つまりはそーゆーことだろ」
青峰の言葉を聞きながら、桃井と顔を合わせると互いに笑った。
なんだ、結局みんなしてバスケ馬鹿なのかと。
「茉穂ちゃん、この後どうするの?」
「んー、テツに会いに行こうかな、とも思ったけど」
「いいな、私も会いに行きたい!」
「でも試合終わったばかりだし、止めておこうかな」
「そっか。じゃあ私たちとお茶する?」
嬉しいお誘いだが、今日はまだ緑間に会ってはいない。きっといるはずだろうから、差し入れを渡したいという気持ちがある。
「んー」
「おら、さっさと行くぞ」
腕を引っ張られ、ずんずん歩き出す青峰に茉穂は勿論、桃井も驚いた。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!二人とも〜」
「あ、青峰くん?!」
抵抗も無駄に自販機がある場所へと移動し、椅子に座らされた。
「青峰くん、あまり乱暴にしないで。腕痛いよ?」
「そうだよ、無理矢理はダメだよ!青峰くん!」
二人に責められたからか、青峰は頭をガリガリ掻きながら「へいへい」とそっぽ向いた。
「茉穂ちゃん、大丈夫? 誠凛のトコ行かなくても平気?」
「あ、うん。大丈夫」
二人で話していると、テーブルにコンッと缶が置かれた。何かと思って顔を上げると青峰がこちらを見ている。
「………なんだよ」
「だ、大ちゃんが飲み物奢ってくれるなんて……」
「びっくりした…」
「本当、びっくり!どうしたの、大ちゃん!」
「うるせーな、黙ってろさつき!」
照れたのかそっぽ向く青峰に茉穂と桃井は顔を見合わせて笑った。
それを飲み一息吐いてから、桃井がそういえばと口にした名前に青峰は嫌悪を露にした。
「…チッ!やめたんじゃねーのかよ、アイツ」
「次の試合って、黄瀬くんだよね? 灰崎くんて、あの…」
恐かった人、だよね?と問えば桃井は戸惑いながらも頷いた。
灰崎くんとは話したことは勿論ない。
だが、虹村先輩から話を聞いた事はあった気がする。いや、黒子が話したのを聞いたのだったろうか?
何にせよ、二人の試合が気になったのは言うまでもなかった。しかし、劣勢になっていた海常を救ったのは黄瀬による、「キセキの世代」の技すべてが使える
いよいよ、4強が揃ったのだった。
To be Continued
act.38
2016/08/21