03

黒子のバスケ

朝、波の音で目が覚めた。
一瞬、ここどこ?と疑問が落ちたのは、知らない天井だったこととベッドではなく、布団だったからだろうか?
起き上がるとまだ相田先輩は寝ていた。何やら遅くまで、練習メニューを思案していたようだった。

(熱心だよね、本当に凄い)

起こさない様にして、着替えてから顔を洗って調理場へと向かう。
大人数用の巨大炊飯器を開けて、炊けているかをチェックしてから、お湯を沸かし始めた。
キャベツを千切りにして、サラダ用のじゃがいもを茹でる。
味噌汁用の具材を切り、鍋に入れる。
色々準備していると、扉が開いた。

「ごめーん。起こしてくれても良かったのに」

相田先輩が入ってきた。

「わ、もう随分出来てるみたいね」

「あとは、目玉焼きとウィンナーを焼くくらいです」

「そうなんだ。やっぱり料理部だけあって手際いいわね」

そんな会話をしていると、また扉が開き次々と先輩方が入ってきた。

「おー、旨そうな匂い」

「……」

「あら、おはよう」

「おはようございます」

挨拶をすると、何故か涙ぐまれた。

「……オレ、白川さんがいてくれて本当に良かった」

「あぁ、俺も」

「俺もだ」

(((……カントクが作っていたら…と思うと、本当に…)))

「……何か言いたいようね」

「?」

分からなくて首を傾げると、小金井先輩が慌てたように声を出した。

「いや、ほら、カントクも疲れてるしさ〜」

「そうそう、これでメシまで作らせたら悪いっていうか、な」

「あ、あぁ。白川さんには悪いけどな」

どこか必死な様子に、茉穂は黒子が言っていたのを思い出した。
さつきちゃんと同レベルとなると、なぁ〜。と小さくため息をついた。

「……まぁ、いいわ。あれ、火神くんがいないわね」

「黒子も、いねぇみたいだな」

「じゃあ、私が呼んできますね」

そう告げて、その場から離れて彼らの部屋へと向かう。
階段を上がると、廊下がなにやらギャーギャーと騒がしい。喧嘩でもしているのだろうか?

「秀徳は昔からここで一軍の調整合宿すんのが伝統なんだとー」

「それがお前らはバカンスとはいい身分なのだよ…!その日焼けはなんだ!!」

「バカンスじゃねーよ!」


(なんだろう……あれ)

遠巻きで見ていると私がいることに気づいたのかテツが声を掛けてきた。

「おはようございます、茉穂」

「……何の騒ぎなの? これ? てか、相変わらずね、寝癖」

テツに近より、髪に触れる。手梳しでチョイチョイ直していると

「え? 誰、この子? 誠凛のマネージャー?」

「ちげぇよ、白川は…」

「白川?」

「ん?」

知らない人に話しかけられたと思えば、頭上から名前を呼ばれた。
見上げると眼鏡を掛けた人物がいる。

「…あれ? 緑間くん?」

「白川? なぜ、お前がここにいるのだよ」

「なぜって……ご飯作り?」

「どういうことなのだよ」

「どういう…って、テツに頼まれたからで…」

「…「ちょっとー、白川さんが呼びに行ったのに何してるのよー」」

パタパタと相田先輩の声と足音が聞こえ、振り向くと、何故か血だらけに見える包丁を持っていた。
その場にいた人は一斉に固まるしかない。

「あ、相田先輩!?」

「あれ?」

猟奇的なカントクに圧倒されたのか、緑間くんが声を張り上げた。

「お前の学校はなんなのだよ、黒子!」

「誠凛高校です」

「そーゆーこっちゃないのだよ!」

「秀徳さん?」

その後、やって来た先輩方に促されて食堂へと戻る。

「白川さん、全員大盛りで頼むわね」

食べる事もトレーニングらしく、ご飯は最低3杯のノルマ付き。それプラスおかずも大盛りだ。

(……テツ、大丈夫かしら)

心配していると、フラフラと食堂を出ていく姿が目に入る。

(……大丈夫な訳ない、か)

幼なじみの少食さに、改めて茉穂は心配になった。
皆が食事を終え、砂浜練習へと向かった後、一人後片付けをしていた。
後は昨日同様ドリンクを作り、他に差し入れも用意する。
もう一度炊いたご飯に菜っ葉を混ぜて、おにぎりにしていく。

(そういえば……)

今朝会った緑間の事を思いだし、首を傾げた。
それほど親しい間柄ではなかったのに、彼のあの驚き様はなんだったのだろう。
中2、中3と同じクラスだったのは覚えている。が席が近くなった訳でもない。

(あ、でも、頻繁に図書室にきてたし、何回か手続きで何度か話したことはあるか…)

だからといってあそこまで驚くことはないだろうに。
たまたま同中の人に会ったから、びっくりしたのかもしれない。そう思うことにした。


   ◇◇◇◇◇


昨日同様、砂浜練習場所までドリンクを運び、お昼にと大量のおにぎりとおかずを持っていく。

「あら、白川さん。今日も持ってきてくれたの?」

「はい。簡単ですが、お昼も持ってきました」

「わぁ! 本当に助かる! 午後は早いけど、体育館に移動するわよ」

「?」

茉穂は首を傾げながらも、ワラワラと寄ってきた部員にドリンクとお昼を渡す。
あっという間に完食されると、なんだか気持ちいい。いっぱい食べてもらえるのは作り側にとって嬉しくて仕方ない。
体育館に移動する彼らを見送り、宿へとまた戻った。体育館で消費するだろうドリンクの追加分を用意し、またまた定番だが、朝から用意していたレモンのハチミツ漬けを出して、テツヤ2号と一緒に体育館へと向かう。

「……あれ?」

ダムダムとボールの音と同時に足音、声が聞こえる。しかも人数が多い。
誠凛は少人数な筈だ、疑問を抱きながら覗いて見ると一際目立つ人物が目に入る。
そして、それに埋もれるように対峙しているのは幼なじみの姿だ。

(……テツと、緑間くん…?)

バスケはあまり詳しくはないが、テツはあっさりボールを取られ、それを緑間くんがゴールへと放る。
そんなに遠くから入るの!?とボールは高い弾道で放物線を描き、シュッとネットを揺らして入った。
そんな僅かな時を呆然と見惚れてしまった。

「白川さん」

「…………」

「ん? 白川さーん?」

「…………え、あ、相田先輩!」

「どうかした? ぼーっとしてたけど」

「い、いえ、なんでもないです! あ、でも、これは…」

チラリと彼らを見ると、ああ。とリコは説明を始めた。
デメリットはあるが、合同練習を始めたらしい。
デメリットがあるのに?と疑問を抱くが、素人である自分が考えても仕方ない。
彼女は監督という立場から合同練習がいいと考えたなからば、何かしらあるのだろう。それよりも…

「あの…差し入れなんですけど、人数的に…」

「え、あ、ああ…大丈夫じゃない? あちらさんにはマネージャーいるし」

その言葉にホッとし、リコにタッパーを渡した。

「ドリンクもごめんね。重かったでしょ」

「宿の方が台車を貸して下さってるし、2号もいるから大丈夫です」

力になるわけではないが、一人で運ぶよりは、いるだけでも気持ちが違う。

「そうなんだ。本当にごめんね、マネージャーでもないのに」

「このくらい平気ですよ」

「そう…」

リコの視線が足へと向けられ、茉穂は驚いた。彼女が知っている訳がないのに。

「……じゃあ、私、夕食の準備に行きますね」

「よろしくね。ボトルはこっちが回収するから」

「よろしくお願いします」

礼をして体育館から出ようとした時、視線を感じて振り向いた。
そこには、緑間くんが立っている。眼鏡越しの彼の眸と目が合った。
なんだろう? 疑問を抱きながらも、目が合ったし、会釈をしてみたが、ふいっと逸らされた。

(……なんなのよ!)

一瞬、ムカッときたが、気が散ったのかもしれない。彼らは本気で練習に取り組んでいるのだから。
見知らぬ人間がいたからかも。
気にせずに茉穂はテツヤ2号と波切荘まで戻ったのだった。




To be Continued



まだまだなんでもない話。

2012/10/19


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