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3位決定戦はメンバーを見た時から、言っては悪いが目に見えていた。
海常に属する『キセキの世代』の1人である黄瀬が欠場したのだ。他のレギュラーも頑張ったが、秀徳には緑間がいる。
結果はやはり秀徳の勝ちである。
緑間が黄瀬に近づき なにかを話しているが、観客席までは聞こえない。
でも二人が少し笑っていたのは気のせいではないと思う。
やがて、本日のメインイベントというべき男子の決勝が始まる。メンバーの紹介が始まり、テツの名前が呼ばれた時に声援があった。
「………テツに、声援…?』
違和感を感じた。いつもであれば誰もが二度見どころか、キョロキョロと確認がいくのに、それがない。昨日の試合も、それから初戦の桐皇戦も陽泉のテツは頑張ってきた。
(……注目、されてる……)
洛山メンバーが紹介され、ふと唯一の三年だという人物を見た───あの人、前に……。
会った気がする、と思いながらもどこか印象がない。その事に茉穂は一瞬不安になった。
黒子の事も気になりながら、大丈夫なのだろうか、と。そして、その不安は試合が始まってからもあった。
黒子がベンチへと引っ込んだ際に、観客から「もう交代ー?」と残念そうな声が上がるのを聞き、茉穂は黒子を凝視した。
幼なじみだから、黒子を見失うという事はそれほど難しくはない。だが、秀徳の高尾や誠凛の伊月のような特殊な眼は持ってはいない。
人混みで黒子がいるから探せと言われれば、高尾や伊月に遅れながらも探し出せると思うが、茉穂の眼はごく普通である。
だから、この違和感に困惑していた。テツが期待されている。
───もしかして、見えてる─?
その可能性にドキドキしながら、試合を見守るしかない。やはり高校最強と謂われる洛山は強い。
開始早々、火神がゾーンに入ったものの赤司の『天帝の眼』に踊らされるようにシュートを失敗させられた。怖い、とやはり思ってしまう。存在感が、圧倒的で戦慄する。
再び黒子がコートに戻った。だが、その時の歓声に茉穂は手摺に掴まった。
『出た────!誠凛の超6人目!!』
『いけ─────』
「テツっっ!!」
ダメだ、と思った。このままじゃ、ダメだと。
そしてそれは呆気なく起きた。───パスが止められたのだ。黒子の『幻の6人目』にたりうる力が失われていたのだ。
第1クォーターは同点で凌いだが、第2クォーターでそれは起きた。それは見慣れていたミラクルパスがコート内で、洛山の選手が繰り出した。
誠凛側は驚愕し、ベンチにいた黒子は立ち上がって見ていた。洛山の連続得点に観客も盛り上がる。
コート内の選手たちは動揺を隠せないのは、幾度となく救われた変幻自在のパスが、自分たちを翻弄していく。
「……あぁ、そうか、……」
あの時、誰かと重なると思ったのは、あの選手がテツと似ていたからだ。
雰囲気も影の薄さも、パスの出し方も。
テツがいるから勝ててきた訳ではない。しかし、彼のパスがあったからこそ勝ち上がってきたのも事実である。
試合は選手を入れ換えて凌いでいこうとするが、体力がすぐに消耗するのか、交代を余儀される。
次第に離されていく点差に、洛山の勝利を確信していく観客。そして、誇示するかのような赤司のアリウープ。
誰もが思う───茉穂も悔しいけれど、思ってしまった。
第3クォーターでの日向のファウル4つに試合会場にいて、誠凛と闘った選手たちが悔しげに、同情に、哀れむようにベンチに下がるのを眺めていた。
そして、タイムアウト終了のブザーが鳴ると同時にコートに入る幼なじみの姿が目に入った。
桃井も青峰も黄瀬も緑間も紫原も、そして、赤司も驚いた。
「……テツ………」
泣きたくなった。負けず嫌いの彼がどんな思いでコートに戻ったのだろう。
しかし、試合は思わぬ展開へとなっていく。いつの間にか影の薄さを取り戻していた。どういう事か茉穂には分からないが、黒子が考えて考えて成せただろう。相手もいつの間にか目立っていた。日向もコートに戻り、一丸となって戦っていく。
それでも嘲笑うかのような赤司のプレーに背筋が凍るようであったが、火神と黒子のプレーによってグダグダになった。が、流石 赤司というべきなのか先程まで、いや、試合開始から見せていたプレーとは一段と変わっていた。
(……………なんか、懐かしい…?)
多分、まだ彼らが上手く歯車にはまって回っていた頃のような感じだった。
しかし、試合という以上懐かしさに浸っている場合ではなく、洛山は赤司によって息を吹き返すかのように点を取っていく。
(───あれが、赤司くんの才能…)
誰かが悲惨すぎて可哀想だと言ったのが聞こえた。
悲惨───それくらい赤司の才能は畏怖なのだろう。
体力も限界に近い。洛山はそうでもないようだが、差があまりにもあった。
『ガンバレ 誠凛!!諦めるな!! ガンバレ 黒子!!』
会場に響く声に、黒子がギャラリーを見て泣きそうな顔をしている。
茉穂も即座にそちらを見た。彼は──確か、小学生の時に見たことがある。
テツが一緒にバスケをしていた人だ。
彼がバスケットボールを掲げた時、テツは涙を流していた。そして、彼の声援に続いて、青峰、黄瀬、緑間と声を上げていく。あちこちから誠凛を応援する声が上がり、茉穂は感動で泣きそうになった。
(まだ、泣いちゃダメだ。泣くのは誠凛が勝ってからだ!)
ぐっと両手を合わせ、ガンバレ、ガンバレと声を上げた。
試合は火神を中心としながらも、全員で勝利を決めた。
ブザーが鳴ると同時に金の紙吹雪が舞い上がる。
『ウインターカップ 優勝は……誠凛高校────!!!』
歓声と共に雄叫びを上げる選手たちにベンチにいたリコ先輩たちがコートへと走っていく。
茉穂もギャラリーの一番前へと走ると声を上げた。
「テツっっっっっ!!」
「……茉穂っ!」
「……おめ、おめでとう!!テツっ!!」
「はい、ありがとうございます!!」
そう何度もみた事はないけど、何度か見たことがある満面の笑顔を見せるテツに茉穂は嬉しくて泣いた。
「おめでとう、本当に、おめでとう!!」
そんな風に喜びで泣いてくれる彼女に黒子は胸が熱くなった気がした。
「っ、茉穂!!」
なんと言えばいいのだろうか。黒子は言葉の表現に迷ったのだ。
「白川っ!」
「…緑、間くん……」
「あまり走るな!」
足が痛いのではないかと、茉穂に話しかける緑間に黒子は思わず顔を顰めた。それに気づいたのは目敏い二人くらいなものだが。
茉穂を観客席に座らせる緑間を見て、黒子はしかめ面になっていたが、歓びに溢れるメンバーを見て、笑みが浮かぶ。
本当に、本当に、このメンバーで勝てた。
嬉しい、嬉しいのだ。
ああ、バスケをあの時、諦めなくて、本当に良かった──。
表彰式も終わり、優勝記念に誠凛メンバーで並び、写真を撮った。月バスの表紙にもなるらしい。
着替えて、体育館を出た頃にはもう観客は帰り、後片付けのスタッフが慌ただしく働いていた。
出入口へと行くと、茉穂がいる事に気づき、黒子は慌てて彼女に近づいた。
膝にブランケットを掛けていた茉穂の横には桃井もおり、二人は彼らが来たことに気づき、立ち上がった。
「テツ、それに皆さん」
「茉穂ちゃん、桃井……?」
リコたちは桃井の存在に驚きはしたものの、二人が仲が良いのは文化祭で見ていた。
その二人は顔を見合わせて「せーの、」と声をあげた。
「優勝 おめでとうございます」
「おめでとう、テツくん」
パーン、パパーン!とどこから持ってきたのか、クラッカーを鳴らしたのだ。
クラッカーから出た細いテープが黒子の頭に掛かり、それをみた茉穂が笑い、桃井も「テツくん可愛い」などと言っている。
「………ありがとうございます、茉穂、桃井さん…」
「感動したよ、凄かった」
「うん、とっても格好良かったよ、テツくん」
「……はい、嬉しいです。これから打ち上げですが、二人ともどうですか?」
いいですよね?と黒子は誠凛メンバーを見ながら、問うも桃井は流石に他校のマネージャーであるから遠慮した。茉穂に関しては合宿などで一緒に過ごし、誠凛メンバーにも異論はない。
むしろ来てくれたら有り難い。
「あ、でも……」
茉穂が顔を向けた方を見れば、そこには緑間の姿があった。ああ、そういえば彼らは付き合っていた……あれ、文化祭の時は"フリ"じゃなかったっけ??と疑問を抱く。
「……緑間くんと、行くんですか」
「………え、あ、うん…」
寒くて頬が少し赤かった彼女の頬が先ほどよりも赤くなったようだ。
黒子の態度に一部の誠凛メンバーがあれ、と戸惑ったのは気のせいではない。
木吉は分からんが、伊月や水戸、土田などはハラハラしているが、小金井やリコはニヤニヤとしている。1年トリオもなんだなんだと見ているが、火神と日向は頭に疑問符を浮かべている。
前からそうだろうと薄々感づいていた伊月やリコたちはどうなるのかと見ていた。
当然、黒子をずっと見ていた桃井とて同じである。
「………茉穂、」
「なに?」
彼からの想いに気づいていないのか、茉穂は首を傾げた。
黒子は緑間を見てから、口を開いた。
「僕は、ずっと茉穂が好きでしたよ」
「─────へ?」
「なっ!!」
突然の公開告白に誠凛メンバーは「言ったああぁぁぁぁ!!」と声を上げ、桃井は分かっていたとしても悲しげに眸を曇らせた。緑間の傍で聞いていた高尾は吹き出しそうになるものの、黒子には感心せざるおえなかった。
「………めっちゃ、漢前でやんの」
ぼそりと呟いたそれは誰にも聞こえなかったようだ。告白された茉穂は驚きを隠せなかった。
ずっと幼なじみだと思ってはいた。近くにいる家族のような存在からそんな想いを告げられるとは考えていなかった。いや、どこかで分かってはいたのかもしれないが考えないようにしていたのかもしれない。
「………テツ、ありがとう。私も好きだよ」
その答えに周りは「「えっ?!」」と声を上げ、緑間はみるみるうちにショックです間抜け面を晒しているが誰も気づかない。相棒以外は。
しかし、黒子は彼女の答えにため息を吐いた。
何年ずっと一緒にいたと思っている。
悔しいが彼女からの好きは自分とは違う好きだという事を察してしまうくらいだった。
「………緑間くん…」
「な、なんなのだよ」
「……一発殴らせてもらいます」
「はぁ…………ぐぉっ……」
言うが否やすかさず緑間の腹に掌底がぶちこまれ、茉穂は驚いて「テツ!なにするのよ!!」と強い口調で嗜めた。
「これくらいしたっていいじゃないですが、突然横から茉穂をかっさわれたんですから。──緑間くん、茉穂を泣かせたらただじゃすみませんからね」
「……く、黒子ぉぉぉ…」
「緑間くん、大丈夫?」
うめき声を上げる緑間に茉穂は近寄り心配をしている。
それを一瞥して、呆然としている誠凛メンバーを連れて黒子はさっさと行ってしまったし、桃井も茉穂たちが気になりながらも、高尾の配慮でその場から立ち去っていった。
その場に残されたのは黒子からのダメージで、地面に屈む緑間と心配そうに傍にいる茉穂だった。
「緑間くん、大丈夫……」
「………白川、良かったのか、」
ダメージが和らいできたのか、緑間は茉穂の手を握り訊いてきた。
何が、良かったのかは大体分かった。
「……私は緑間くんが、好きだよ」
「……しかし、」
「テツの事は勿論好きだよ。物心ついた時から傍にいたんだもの」
「…………」
無意識とはいえ、少しだけ情けない顔をする緑間に茉穂は微笑んだ。
あぁ、自分は彼が好きなんだと、分かる。
茉穂は握っていた緑間の手を強く握った。
「白川…」
「でもね、私の好きは緑間くんに向いてるんだよ」
分からない?と顔を見せる茉穂を見て、緑間はすかさず彼女を抱きしめた。
少し恥ずかしそうに、そして不安そうに見つめてくる彼女の想いが伝わった気がした。
「白川、俺もお前が好きなのだよ、誰にも渡したくない…」
さっきまで胸に渦巻いていた醜いドロドロとし気持ちはまだある。
奴が相手では直ぐ様彼女を連れていかれるのではないか、という不安と簡単に「好き」だと言ってのけた彼女。「好き」という言葉に恋愛の情がなくとも自分以外の異性などに言って欲しくはない。
──明らかに、嫉妬したのだ。
「───茉穂が、好きだ」
「………嬉しい……」
背中に回る手に力が込められる。
数日前に互いに気持ちは伝えあったはずなのに、それでも眸が熱くなる程に嬉しくて堪らない。
ああ、好きだ。好きだ。好きだ。
溢れる想いが互いに伝わり、自然と身体を離すと互いに顔を近づけて唇を重ねたのだった。
───泣かせたりなんてしないのだよ、絶対
先ほどの黒子にそう誓いながら、緑間は茉穂を強く抱きしめたのだった。
END
2017/07/02