02
1月31日──黒子 テツヤの誕生日である。
朝から出掛けていくテツの姿を見送り、茉穂はスーパーに寄ってから火神のマンションへと向かった。
出迎えたのは降旗だった。
「おはよう、降旗くん。早いね」
「おはよう、白川さん。買い物してきたの?」
「うん」
「買い出し手伝おうって思って、来てたんだよ。連絡しておけば良かったね」
「そうだったの?ごめんね」
「ううん、いいよいいよ」
火神のマンションに入るのは二度目だ。前はケーキの型とかを運んだ時にお邪魔したが、相変わらず広い部屋だ。
「おう、白川」
「おはよう、火神くん」
「とりあえず、バターとか卵は室温に戻しておいたぜ」
「わあ、ありがとう。助かるよ」
キッチンから顔を出した火神にお礼を言って、茉穂は持参したエプロンを身につけた。
卵を割り、小麦粉などを振るいにかけて料理していく様を横で見ていた火神は、流石だな、と感心しながら材料を切っていく。
「そういや、白川はアイツらとストバスに行かなくて良かったのかよ? 帝光メンバーで集まるんだろ?」
「え、あー、私はバスケ部じゃなかったし、場違いじゃない?」
「え、そうなのか?」
「うん。テツを通してさつきちゃんや青峰くん、黄瀬くんとは話していたけど、赤司くんや紫原くんとは話したことはなかったよ?」
「緑間は?」
「緑間くんは二年間同じクラスだったの」
「へぇ、てっきり白川もバスケ部かと思ってたぜ」
「アハハ、私は新体操部だった………」
思わず出た言葉に茉穂は小さく「…ぁ」と呟いたが、隣の火神は気にした風でもなく「新体操か、あー、なんか似合うな」と明るく答えた。
なんだか、それにホッとしたのは何故か。笑えて答えられるとは思っていなかったが、もしかしたら自分も何かに拘っていたのかもしれない。
そんな事を考えながら生地を混ぜ合わせていると、ピンポーンとチャイムが鳴る。
先輩たちにも声を掛けたらしく、日向先輩や伊月先輩が来て、部屋を飾り付けしていく。
意外にも器用な日向先輩に驚いてしまった。
型に生地を流し込み、一段目のスポンジを焼いている間に、二段目のスポンジ作りをしている。
またチャイムが鳴り、火神が出たようだ。すると聞き覚えのある声が部屋に響いた。
「こんちはー、誠凛のみなさーん」
「おま、高尾?」
伊月先輩の言葉にキッチンから顔を出すと気づいたのか、驚いていた。
「あっれー茉穂ちゃーん?」
「こんにちは、高尾くん。どうしたの?」
「いやいやいやいや、それはこっちのセリフだから!なんで火神ん家に茉穂ちゃんがいんの?」
「あぁ、テツの誕生日パーティーだし、ケーキ作ってたの」
「あー、そーなんだ………真ちゃんは知ってんの?」
「え? 知らないけど…」
「つか、茉穂ちゃんはストバス行かなくて良かったの? 帝光メンバー集まってんでしょ? 桃井ちゃんいたよ?」
捲し立てる高尾に茉穂はどうしたもんかと悩んだ。
「えっと、ほら私はバスケ部じゃないし、先に約束したのはこっちだから……ダメだったかな?」
「ダメじゃないと思うけど……まぁ、いっか」
高尾はそんな事を言うと、飾り付けの手伝いをし始めた。
キッチンには火神と共に氷室も現れ、二人はカルパッチョなどを作っていく。二人の息のピッタリさと手際の良さに茉穂は感心しかしなかったが、二人は茉穂が作り上げていく二段ケーキの方に感心していた。
夕方になり、そろそろ先輩たちも来るだろうとテーブルに料理を並べ、ケーキは溶けるのを避けて、わざわざ冷蔵庫を空けてもらいそこへ入れておいた。
キッチンを片付けているとドヤドヤと人が入ってきた。
「青峰っ?!」
「え、は、?」
そんな声を聞きながらキッチンからリビングに移動すると、そこにはキセキの世代とさつきちゃんを引き連れたテツの姿があった。
「あれ?」
「茉穂ちゃん!こっちに来てたの?」
可愛い格好をしたさつきちゃんが声を掛けたことで、みんながこちらを向いた。
緑間くんも驚いたようにこちらを見ている。
「さつきちゃんたちこそ。テツが連れて来たの?」
「はい、どうせならみんなと過ごしたいと思いまして」
「そっか、そうだよね」
そんな会話をしていると、緑間くんは座ってしまったようでこちらを見ようとしていない。
どうしたんだろ、と思っていると高尾くんと黄瀬くんがコソコソと小声で話しかけてきた。
「茉穂ちゃーん、まずいって」
「え、何が?」
「そうっスよ、つーか、なんで火神っちの家でエプロンつけてるんスか!」
「真ちゃん、火神の事 敵視してるから、愛しの茉穂ちゃんが火神ん家にいたらヤキモチ妬くって」
「え? え?」
「そうっスよ。しかも黒子っちの為にケーキ作ってたんスよね? 緑間っちモヤモヤしてるに決まってるスよ」
緑間が茉穂にベタ惚れしているのは二人には分かりきっていた。高尾はクラスも部活も一緒に行動しているからこそ、時折寄越される茉穂からのメールを見る緑間の分かりづらい嬉しそうな顔を知っているし、それを目撃した時はからかうよりもむず痒くなる程だ。黄瀬は彼らが付き合う以前から、茉穂への態度で分かっていたし、一緒にカラオケにいっただけで八つ当たりされたのだ。
どうせなら、今日はストバスに来てくれていたら、と思ったくらいだ。
それがまさか、その誘いを断りこちらに来ているとは思いもつかなかった。用事があるとは聞いていたが、その用事が火神の家だと誰も思わないだろう。
「あ、あの……緑間くん、何かあったの?」
なんかこっちを見てくれない…と呟く彼女に倣って緑間を見てみると腕を組んでムッスーとしている。
隣にいる紫原は完全に八つ当たりのように注意を受けているように見えなくはない。
あれは、完全にヤキモチ妬いてんな、妬いてるっスねと高尾と黄瀬は顔を見合わせた。
このままでは誤解させてしまう、と思うと二人は緑間の元へと近づくが、そこへ木吉たちが戻ってきた。2号も連れてきた事で、黄瀬は高尾に任せて2号を可愛がっている。
「真ちゃーん、なに拗ねてんだよ〜」
「別に拗ねてないのだよ」
「茉穂ちゃん、気にしてるぜ? 何かしたんじゃないかって」
「……別に茉穂は何もしてないのだよ」
「でも見る目が厳しいつーの」
ちらりと見れば、しゃがみ込んでいる火神に対して心配そうにしている。あ、真ちゃんが箸を折ったら、隣にいる氷室が苦笑いしながら教えてくれた。
「大我はアメリカにいた頃に犬に噛まれた事があって犬が苦手なんだよ。それに茉穂ちゃんが言ってたよ」
「何をですか?」
「もし、自分がストバスに行っても気を遣わせてしまうんじゃないかと思ったらしいよ。みんなには楽しくストバスを楽しんで欲しいと思ったんだって。しかも──」
氷室さんは真ちゃんにだけ小声で話した途端、真ちゃんの顔が真っ赤になった。すげぇ、レアだ!
とりあえず、乾杯となり黒子の所には桃井と黄瀬が皿に山程料理を乗せていくし、青峰と火神は唐揚げの食い競争をしている。
何故か真ちゃんのラッキーアイテムである干ししいたけを鍋の出汁として入れてしまった氷室に、そんなことはどうでもいいという紫原。赤司と降旗が仲良くコップを合わしている。
茉穂はといえば、作ったケーキに最終的な飾りをしていた。
それをみた緑間は彼女の傍へと寄った。
チョコペンで『HAPPY BIRTHDAY』と書かれたプレートをケーキの真ん中に飾っていた。
「………上手いのだな」
「緑間くん……そうかな?歪んでない?」
「ああ、大丈夫なのだよ」
「そっか、良かった…」
ホッとした顔を見せる茉穂に緑間は腕を掴んだ。
「緑間くん?」
「……………その、今日は……」
「……?」
「き、今日は、楽しかったのだよ……」
「……う、ん…」
「帝光のメンバーでやれたのは、本当に楽しかったのだよ」
真っ直ぐ見つめていえば、彼女は嬉しそうに笑っていた。
「だが、茉穂もいたらもっと楽しかったのだよ」
「ぇ、あっ……聞いて?!」
茉穂がチラリと氷室を見たのが分かった。
顔を真っ赤にさせる彼女が可愛くて堪らなくなる。そっと手を伸ばそうとしたが、リビングから「ケーキまだぁ?」と声が聞こえた。
茉穂は慌てて「い、今運びます!」と声をあげて、そのロウソクを持ってきてと言ったから素直に従った。
彼女が作った二段重ねのケーキは紫原の眸を輝かせていたが、赤司にますば黒子からだと嗜められていた。
ロウソクを並べて、一気に火を消せば、紫原は意気揚々とケーキを持っていく。青峰たちがケーキ独り占めするなと騒いでいた。
「………茉穂」
「なに?緑間くん?」
見上げてくる彼女はやはり可愛い。
少しだけ屈み、そっと願いを呟けば、彼女は嬉しそうに「もちろん、緑間くんの好きなのを作るよ」と微笑んでくれた。
宴も闌となり、改めてみんなでクラッカーを持つと『誕生日 おめでとう!!』と黒子を祝ったのだった。
隣に座り、ジュースを飲む茉穂の姿を見つめ類緑間はさっきの言葉を思いだし、口元を緩めたのだった。
茉穂ちゃんね、本当はストバスを見に行きたかったみたいだよ。君たちが楽しそうにバスケをしてる姿を見たかったって。
でも自分は当事者じゃなかったし、楽しそうにバスケを見たいのは桃井さんはもちろん、君たち『キセキの世代』が互いに笑ってバスケをしていたらいいと言っていたよ。
愛されているね、君たち、いや、君がかな。
END
2017/07/02