05
翌日も昨日同様に、食事の支度をしている。
朝はなにも喋らないが、水戸部先輩が手伝ってくれた。無言で手を洗い、準備しておいたキャベツを切り始めた時はビックリした。
断ろうとしたが、ふるふると首を横に振られ、気にしないでくれと言わんばかりだったので、手伝ってもらうことにした。
朝食を済ませると、彼らは練習へと入る。今日も午後の体育館練習は秀徳と合同練習らしい。
差し入れを持っていくと、また火神くんの姿はなかった。何回か緑間くんと目が合ってしまうと、何故か先輩たちがニヤニヤとしていた。
後、緑間くんの学校の人──主に高尾くんが。
木吉先輩は大きな手で頭を撫でられ、「茉穂ちゃんは青春だな〜」と言っていた。
むしろ、青春真っ盛りなのは、私ではなく彼らだと思うのだが。部活に汗を流すなんて、青春以外の何物でもない。
…………私もこんなだったのだろうか…?
「試合終了!」
ビーという音とともに体育館に声が響く。
合宿中に3戦したらしいが、誠凛は残念ながら3敗。それでも火神くんと木吉先輩を抜いての試合だった。
テツがバスケをする姿は、実はあまり見たことがない。
中二の時にレギュラーになったテツの応援には行かなかった。気分的に行けなかったのだ。
だからこそ、茉穂はテツのパス捌きにびっくりしたし、緑間の3Pシュートに魅せられてしまった。
「…………すごい…」
ボーッとしていたら、目が合った事にハッとした。
見入っていたことが、なんだが急に恥ずかしくなり、誤魔化すように手を振るが、パッと逸らされてしまった。
「……仕方ない、か……。っと、リコ先輩に頼まれてたの用意しなきゃ!」
相田先輩と呼んでいたのだが、本人から名前で呼んで欲しいと言われたので、リコ先輩と呼ぶことにした。
彼女にアイシング用にと、氷を頼まれたのだ。ただ、茉穂が知るアイシングとはかなり違うが。
テツと火神くんを除いた一年生にも手伝ってもらい、ポリバケツ一杯に氷を入れた。
リコ先輩流アイシングの出来上がった。
◇◇◇◇◇
夜、夕飯の支度をテツに手伝ってもらった。と言っても、テツが得意なのはゆで玉子。自信満々にいうので、作ってもらう。
茉穂は他のおかずを作っていた。
「茉穂、出来ました」
「ん、ありがとう。じゃあ、切ってサラダにのせてもらえる?」
千切ったレタスにコーン、きゅうり、ハム、にんじん、プチトマトがすでに用意されていた。
「分かりました」
「うん」
サラダに盛るくらいはテツに任せ、コロッケを揚げていく。
ジュワワ…とキツネ色になるのを眺めていると、テツがみんなを呼びに行くと言った。
「うん、お願い。こっちももう終わるから」
既に揚がったコロッケを見て、テツは今日も山盛りですね、と呟いた。
少食の彼にはなにやら山盛りは厳しいらしい。
暫くすると、リコ先輩が入ってきた。
「茉穂ちゃん、ご飯出来た?」
「リコ先輩、もう少しです。すみません」
「ううん、いいのよ。じゃあ、手伝うことは?」
「えっと、じゃあ、そこのサラダ並べてもらえますか?」
「分かったわ、これね」
作らせては絶対ダメ!装わせてもダメ!と、日向先輩に厳しく言われた。
装わせるくらいなら大丈夫かと思っていたら、何故かご飯にサプリメントと粉末ビタミンをかけていたリコ先輩。
驚愕したのは言うまでもなかった。
泣きながら、カントクには何もさせるな!と懇願されたので、茉穂は言いつけを守りことにした。
「おーい、そろそろメシ出来たか?」
入ってきたのは日向先輩と木吉先輩だ。
「はい、もう出来ます。すみません」
「謝んなくていいよ。今夜はコロッケか、旨そうだな」
「お口に合えばいいですが」
ジュワワ…と最後のコロッケを揚げた。
いつの間にか、食堂には人が増えて、水戸部先輩たちが食器を並べてくれていた。
「んじゃ、メシ食うか……って、火神と黒子はどうした?」
「火神なら砂浜走ってたぞ」
「……テツも呼びに行ったはずですが…」
「…………もう、いい。アイツらはほっとけ。せっかく白川さんが作ってくれたメシが冷めるのはもったいない、先に食うぞ!」
お腹が空いているのか、二人はもう勝手にしとけ、みたいなことを言い出した。
待たせるのも可哀想なので、茉穂は自分が呼びに行くと言って、食堂から出て行った。
「もう、茉穂ちゃんたら、良いって言ってるのに」
「本当、いい子だよな〜」
「メシは美味いし、気が利くし」
「優しいし!」
「……マネージャーになって欲しいくらいだ」
「いいな、マネージャー!」
「ナイスアイデア!」
「タオル洗濯してくれたり、部室掃除してくれたり、差し入れに美味いの作ってくれたり」
「ドリンク渡してくれる時なんて、絶対優しく、お疲れ様です、とか言ってくれるんだぜ!」
「「癒しだ!」」
そんな会話がされているとは知らず、茉穂は外へと出ていた。
◇◇◇◇◇
なんとなく、テツは火神くんと一緒にいるような気がしたから、砂浜へ行こうと考えた。
伊月先輩たちが火神くんが砂浜を走っていたと言っていたからだ。
砂浜へと行こうと道路へ出ようとした時、声をかけられた。
「あれ? そこにいんの、茉穂ちゃんじゃね?」
「白川…」
「緑間くんと、高尾くん……?」
振り向けば、そこには緑間と高尾の姿があった。
「こんばんわ〜どっか行くの?」
「ううん、そういう訳じゃないけど……テツと火神くん知らない? 夕食出来てるから探しているんだけど」
「あー、火神なら真ちゃんにケチョンケチョンにされたから砂浜走ってるみたい。黒子もついてったよ」
「……そうなんだ、ありがとう」
ケチョンケチョン?と疑問を抱きながら、居場所を教えてもらえたので、お礼を言った。
砂浜へ降りようとした時、腕を取られた。
「へ、え? 緑間くん?」
「真ちゃん、何して」
「誠凛は明日で合宿が終わりだったな…」
「う、うん…明日帰る予定だよ…」
意味が分からなくて、助けを求めるように高尾くんを見るが、体育館時同様ニヤニヤしていた。
「…………後で、」
「?」
「後で、話したいことがあるのだよ、時間をくれないか?」
「? 別にいいけど…?」
そう答えると、ホッとしたかのように掴まれていた腕を離された。
眼鏡を押し上げる姿を見上げながらいると、「後で連絡する」と言い、長い脚はスタスタと歩いて行ってしまった。
高尾くんが名前を呼びながら追いかけていったのを見送る。
一体、なんなんだろう?と、首を傾げていると、足元に暖かいモノが触れた。同時に、わん!と鳴き声も。
「2号?」
「何してんだ、白川」
「おわっ!?」
「急に声を掛けたら、びっくりしますよ。火神くん」
「おめぇには言われたくねーよ!」
「テツ、火神くん!」
「どうしたんです? 茉穂」
「もう! それはこっちの台詞! ご飯の時間だってば、もう皆さん食べてるよ!」
「あ…忘れてました」
「もう、早く行こう!」
「おう、メシだ、メシ!」
どことなく、テツがすっきりしてる顔を見て、何かあったのかもと思いながら三人で食堂に戻った。
テツと火神くんはリコ先輩と日向先輩に怒られていた。時間を守れ、と。
食堂には誠凛の他にも、秀徳の人達の姿もあった。あちらは宿の食事らしく黙々と食べている。
自分たちとは違い、海の幸が主なんだろうな、と思い茉穂はコロッケを頬張った。
後片付けは、食事を作ってくれたお礼だとバスケ部のみんながしてくれるらしい。
断ろうとしたが、リコ先輩に「お礼だし、甘えてよ」というので、素直に従った。
お風呂に入り、彼からの連絡を待つことにした。
To be Continued
もはや何がしたい?
頑張ります。
2012/10/26