06
呼び出した時間まで後45分。
自分から呼び出した癖に、何故か落ち着かない。
来てくれるだろうか、無視されないだろうか……彼女はそんなことはしないと思いながらも、落ち着かない。
横にいた高尾が「落ち着けよ」と言っていた気がした。
しまいには「あーもーさっさと行ってろ!」と部屋から追い出された、なんなのだよ。
気分を変えようと外に出た。
波音を耳にしながら、しるこドリンクでも買ってこようと自販機のある場所へと向かう。
つめた〜いを押し、出てきたドリンクを片手に、もう一度コインを投入した。
なにを飲むのだろうか、と悩みながら紅茶のボタンを押した。
近くにあったベンチへと腰を下ろし、緑間は息を吐いた。
(……今更だが、何故なのだよ?)
しるこドリンクを一口飲み、緑間は考え込んだ。
自分の行動に疑問がこの数日つきまとう。
それは白川に再会してからだ。
(……確か、あの日のおは朝の占いでは思いがけない人と再会!と言っていたが…)
思いがけない人、というならば黒子や火神も当てはまる。自分に敗北という苦さを舐めさせた二人が。
それなのに白川に会った時は衝撃を受けた。
何故、此処に?
何故、コイツらと?
緑間はまたドリンクを飲み、考えた。
彼女の存在は知っていて、知らない様なモノだ。
同じ中学で、中二、中三と同じクラス……それだけしか共通点は持たない相手。
認識したのはいつだったか……あれは二年の頃だった気がする。
そう、同じクラスだった青峰が何度か彼女と話していたのを見たのだ。
青峰とてクラスの女子と会話をしない訳ではない。だが、大半は寝ているし、あの迫力に怯え話さないの多数だった。
唯一、青峰に何の迷いもなく話すのは奴の幼なじみである桃井くらいだ。
だからこそ、青峰が彼女と親しげに話していたのが印象的だった。あの青峰が彼女の仕事を手伝っていたのだから。
とはいえ、印象的だったが、その女生徒を気にしたのはその時くらいで、同じクラスでも話した事もなければ、近くの席になることもない。接点が何一つなかった。
いや、会話というかは別として話した事はあった。それは義務的なやりとり。
図書委員をしていた彼女と、本の貸し出し時、会話をした。それだけの接点。
それだけなのに、何故、彼女か気になるのか──
卒業後、会うことはなかった彼女は突如現れた。このバスケ部の合宿中に。
しかもあの黒子と火神と一緒に。
何より、俺の事を覚えていてくれた事に驚いた。──嬉しくなった。
彼女が俺を認識していることが、ずっと、見ていたから…………。
嬉しくなった?
ずっと、見ていたから?
緑間は自分の思考に目を見開いた。
「……これは、どういう……」
高尾が聞いていれば、「真ちゃん、鈍っ!」と笑っていただろうが、彼はこの場にはいない。
まさか、そんな、とドリンクを煽った。
「緑間くん?」
「ぶほっ!?」
「えっ? だ、大丈夫!?」
突然、彼女の声と共に姿が見えたので、緑間は飲んでいたしるこドリンクを噴いてしまった。
気管に入ったのか、ゲホッ、ゲホッと咳が止まらなくなる。
彼女は慌てて、近よって背中を擦ってくれた。
「す、すまない…だ、大丈夫…なの、だよ…」
「ご、ごめんね、驚かせちゃったみたいで…」
「いや、別に白川のせい、で、は…」
顔を上げて、息を飲んだ。目の前に彼女の顔があるから。
心配そうに眉を八の字にし、見つめてくる眸、さらりと揺れる髪が頬に落ちる。
ごくり、と息を飲んだ。
(…………)
間近で見る白川の顔を、視線をこのまま俺だけに向けてもらいたいと思った。
「緑間くん……?」
呼び掛ける声に、緑間はハッとした。
慌てて、咳を一つすると、顔を下ろし、クイッと眼鏡を押し上げた。
「す、すまない…大丈夫だ…」
「そう? ならいいんだけど……」
ホッとしたように微笑する彼女の姿を凝視した後、目を逸らした。
気づいてしまった、己の気持ちに緑間はため息を吐いた。
ニヤケそうになる口元を手で隠し、ベンチを少し横にずれた。
「座るといい。あと、これをやるのだよ」
買っておいた紅茶を差し出すと、戸惑いながらも、受け取り、横に座った彼女。
「ありがとう」と、にっこり笑う顔にまた顔が熱くなる気がして、そっぽ向いた。
「えー、っと、話ってなにかな?」
訊ねてくる白川に緑間はなんと答えたらいいのか、分からなくなった。
そう、自分は彼女を呼び出した側だったのだ。
「………………」
なにをどう言ったらいいのか思いつかない。
つい先程まで、彼女を呼び出した理由は何故、彼女を自分が気にするのか知りたかったからだ。
それを本人に聞こうとしていた自分が情けない。
『緑間くんって頭いいのにたまにアホですよね』
不意に昔言われた言葉を思い出した。
それを言ったのはすぐ近くにいるのだが、緑間は小さく「黒子ぉぉ」と、唸った。
「緑間くん? 本当にどうかした?」
「いや、なんでもないのだよ」
「そ、そう? 何かあったら言ってね? 私は専門家とかではないけど、力になれるならなるから」
ニコッと笑顔で言われ、緑間はまたゴホンと咳をして誤魔化した。
しかし、何か話さなければならない。彼女を呼び出したのは他でもない己なのだ。
話したい、聞きたい、何かないか、とぐるぐると頭の中で考える。
すると、彼女から話しかけてきた。
「緑間くん、これ、緑間くんの?」
彼女が示したのは、クマのキーホルダーだった。
今日のおは朝のラッキーアイテム。
「あ、あぁ。今日のラッキーアイテムなのだよ」
「ラッキーアイテムって、おは朝の? あれ、結構当たるらしいね」
「おは朝の占いはよく当たる。ラッキーアイテムは持ち歩いた方がいいのだよ」
「そうなんだ。家、朝は父親が●HK見てるから占いって見たことないんだよ」
苦笑する白川に緑間は思わず口を開いた。
「では、オレが教えてやるのだよ」
「ヘ?」
「これから毎朝、おは朝の順位とラッキーアイテムを教えてやる、と言っているのだよ」
「えぇ!? い、いいよ、悪いし」
「気にすることはないのだよ、ついで、だから……仕方がないが、白川の星座はなんなのだよ」
「え、えー、っと、…………」
白川の星座を聞き出し、思わず自分との相性が気になった。ついでに、と血液型も。
色々会話も弾み、緑間はこの空間がやたら居心地よく感じていた。
白川は相槌が上手く、人の話をきちんと聞いてくれる。時折面白い事も言うのだ。
波の音と心地よい声音に安心していると、どこからかメロディーが流れてきた。携帯の着信音だろう。
「あ、私のだ」
慌てて携帯を取り出した白川は画面を見て「テツだ」と呟いた。
黒子からか、と見つめていると「え、もうそんな時間!?」と声を上げていた。
時間?と自分の携帯を確認すると、既に10時を過ぎていた。
二人で顔を見合わせ、お互いに驚いた顔をしていた。
「今すぐ、戻るね」と彼女が電話を切るのと同時に、ベンチから立ち上がる。
自分は男だが、彼女は女だ。遅くまで外にいるのは好ましくない。まして合宿で来ているのだから。
「戻ろう」
「うん」
二人並んで、合宿中の宿まで歩いた。
叱られない?と聞いてくる彼女に大丈夫だ、と告げる。そもそも呼び出したのはこちらなのだから心配しなくても構わないだろうに。
宿まで行くと、入り口に黒子と高尾が立っていた。
「テツ!」
「茉穂、走らなくても大丈夫です。心配しました、なかなか戻らないので。カントクも心配してましたよ」
「そうなんだ。ごめんね、心配かけて。私、リコ先輩の所に行ってくる」
「そうして下さい」
「うん。あ、じゃあ、緑間くん、高尾くん。おやすみなさい」
「あ、あぁ…」
「おやすみ〜」
ぱたぱたと小走りで行ってしまった白川を見送ると、黒子が目の前にやって来た。
「緑間くん、」
「なんなのだよ、黒……ぐぉぉお!?」
「ブホォ!」
いきなり、鳩尾にパンチを喰らった。
隣にいた高尾は噴き出している。
「ななな、なにをするのだよ、黒子!」
「いくらなんでも遅すぎます。こんな時間まで茉穂を連れ出すなんて、緑間くんはもう少し常識的だと思ってました」
「…………す、すまなかったのだよ」
「…………なにもなければいいです」
そう言えば、幼なじみと言っていたが、心配していたのだろう。
素直に謝罪の言葉が出た。
「では、僕も失礼します」
「あ、あぁ」
「じゃーなー」
頭を下げて宿に入る黒子を見送り、自分も中に入れば、高尾がさんざん煩かった。
部屋に戻り、いつもの験担ぎをしてから眸を閉じた。目蓋の裏に白川の姿が見えたような気がして、口元が緩んだ。
To be Continued
難しいぜ、緑間側(笑)
2012/11/02