08
熱気に胸が熱くなる。
今までだって、彼らのバスケを見たことがない訳でもない。
でもそれは試合ではない。いや、試合だったが、コートに立つ二人は同じチームメイトだった。
だからだろうか、二人のお互いに譲らない姿勢は、練習後の1on1とも違う。それよりももっと……。
「……すごい…」
思わず呟いた声音に隣にいるテツが、まだですよ。と声をかけた。
青峰の動きに、なんであれが入るんだ!?と客席が騒ぐのが分かる。
あんな体勢で?
気づけば、第1Qは海常リードだったが、第2Qで追いついた。と同時に海常側がタイムを入れた。
「同点か」
「けど、こっからだ。勢いに乗った桐皇はちょっとやそっとじゃ止めらんねーぞ」
茉穂の目にはやはり青峰の方が強いのかと、映ってしまう。だが、そんな単純に考えて言い訳ではないだろう。
隣にいるテツを見ると、ただじっとコートを見つめている。
その胸のうちは分からないが、どうしたのだろう?
試合が再開されたが、黄瀬と青峰が対峙したが、黄瀬がパスを出した。
「「「!?」」」
なにか違和感を感じたのは、茉穂だけではない。
それでも試合は進んでいく。青峰のプレイに会場が沸き立つ。
「………ねぇ、テツ?」
「なんですか」
「黄瀬くん、なにか…」
しようとしてる?と問おうとした時、火神くんが、「まさか…」と呟いた。
それを拾ったのか、テツが口を開く。
「たぶん…そのまさかです」
「確か、ムリって言ってなかったか!?」
「はい…でもそれしか勝つ方法はありません」
無理、だといっていのは、黄瀬くんが『キセキの世代』の模倣は出来ないと言っていたことだ。
「黄瀬君がやろうとしていることは、青峰君のスタイルの
「青峰の
「そんな…出来るのか!?」
「…そもそも黄瀬君の
「は…は!?」
「つまり…簡単に言えば『のみこみが異常に早い』ってこと。NBA選手の
「だが…逆に言えば、それでもやろうとしてるってことは『できる』と信じたってことだ」
黄瀬くんは青峰くんに憧れていると言っていたのを思い出す。
楽しくて、楽しくて、仕方ない。でも悔しいとも言っていた。
出来ると信じたのは、きっと彼の中で区切りがついたからかもしれない。
そんな気がしていた。
苦し紛れのように桐皇の4番が放ったボールがゴールに入る。ブザービーターで第2Qが終了した。
34対43、桐皇がリードしていた。
◇◇◇◇◇
10分のインターバルに入り、海常、桐皇両チームは控え室へと戻って行った。
コートでは次の試合の選手たちがアップしているが、会場の熱気は完全に黄瀬vs青峰にあった。
「…ふへ──!! ノド渇いた!!」
「なんだよ、コガ。いきなり」
「だってなんかキンチョー感すげーしさー、オレらすげー奴らとやってたんだなーみたいな」
「ほぼマグレ勝ちと惨敗だけどな」
「にしてもこの熱気…確かに飲み物ほしいわね」
リコ先輩が手でセーラーを引っ張り扇いでいるのを見て、声をかけた。
「あ、私、何か買ってきましょうか?」
「じゃ、オレポカリ!」
「オレも」
「コーラー」
「なっちゃんレモンね! 」
「てか、女の子にどんだけ持たせる気だ! 1年全員買い出し!」
「あ、じゃあ、2号も連れてこ。ずっとバッグの中だし、熱気もすごいから空気吸わせようよ」
「そうですね」
足元を見ると、バッグから頭だけだした2号が嬉しそうに見ている。
きっとバッグの中で尻尾を振っているだろう。
「じゃあ、黒子くんと茉穂ちゃんは2号を外に出してあげて。火神くんたち四人は買い出しね」
「さっさと行ってこいよ!」
先輩たちにそう言われ、茉穂を含む六人は椅子から立ち上がり、通路へと向かった。
通路で、火神くんたちと分かれ、外のテラスへと向かおうとしたが茉穂は黒子に先に行っといてと促した。
「どうしました?」
「ちょっと、お手洗いに行くから」
「分かりました。この先のテラスにいますね」
「うん」
テツと2号に手を振り、茉穂は手を洗いに行った。
◇◇◇◇◇
「あれ?」
手を洗い、通路に出ると茉穂は声をあげた。
そこには見覚えのある人がいたからだ。
「あれ〜、茉穂ちゃんじゃん!」
「高尾くん? なんでここにいるの?」
「やだなー、俺だってバスケ部だよ? インハイ気になるし、キセキの世代の試合も気になんだわ」
「そっか。同学年だし、気になるよね」
「まぁね。まぁ、うちのエース様もキセキの世代だけどさ、味方だし。そうだ、茉穂ちゃん、真ちゃん見てねぇ?」
「緑間くん? ううん、見てないけど、来てるの?」
「あぁ。でも多分こそっと見てるかもね」
「? なんで?」
クックッと笑う高尾に茉穂は小首を傾げた。
こそっと見てる?
「前もさ、誠凛と桐皇の試合ん時も誘ったんだけど、いやなのだよ。とか言っときながら、結局見に行ってたんだぜ! しかも近くを通ったとか下手な理由抜かしてさ! 本当、真ちゃんってツンデレだよな」
面白そうに笑う高尾に茉穂も笑っていた。
素直になれない、緑間が意外なようなそうでもないような。
しまいには誠凛と海常の練習試合や、誠凛の試合を見に行ってたりしていたことを聞かされた。
なんだかんだで、元チームメイトである彼らの事を気にしているらしい。
そういえば、中学の頃、テツが緑間くんの事はなんだか苦手だが、なんだかんだと気にかけたりしていてくれたらしい。
緑間くん特製コロコロ鉛筆を貰ったとかなんとか。
きっと優しい人なんだろう、と思う。
そんなことを思っていると、高尾くんが肩をポンッと叩いた。
「じゃあ、俺そろそろ行くわ。またね、茉穂ちゃん」
「あ、うん。またね」
手を振って、テツたちがいるテラスの方へ行こうとしたら、テツたちの姿を見つけた。
「テツ!」
「茉穂、もうそろそろ第3Qがはじまりますよ」
「え? もう?」
慌てて時計を見ると確かに10分経とうとしていた。
「わ、ほんとうだ!」
「何してたんです? 混んでたんですか?」
「今、高尾くんに会って話してたから……ごめんね、2号〜。外は気持ち良かった?」
2号のあたまを撫でながら、謝るとワン!と鳴いた。静かにしてね、と口元に指をあててると、テツが口を開いた。
「高尾くん、来てたんですか。じゃあ緑間くんもいたんですか?」
「さぁ? 会ってないから分からないけど、高尾くん曰く来てるみたいだよ」
「そうですか。そういえば、先程黄瀬くんに会いましたよ」
「黄瀬くんに? 」
「はい。なんだか、黄瀬くん、らしくなかったですが……」
そう言いながらもテツの表情は微妙に変化していた。が、次の瞬間にはいつもの表情に戻る。
「さあ、戻りましょう。第3Qが始まってしまいます」
「うん。2号、また少しだけ窮屈になるけど、大人しくしててね…」
テツの腕にいる2号の頭を撫でて、座席へと戻った。
そこからの試合は手に汗を握る展開で、茉穂は『キセキの世代』がいかに凄いのか目の当たりにした。
◇◇◇◇◇
第3Q、黄瀬くんは青峰くんの様に動いていた。先輩たち、会場が、黄瀬くんの凄さに驚いていた。もちろん、私もだ。
「……凄い…」
「すっ……すげぇえ、黄瀬…!てゆーか、カンペキ青峰みてーじゃん!!」
誰もが思う。だがカントクであるリコ先輩が、否定した。
「……いえ、たぶんまだ不完全よ」
「え!?」
「……不完全?」
「えぇ。その証拠に速攻とかで青峰くん以外がマークに来た時しかやってない。きっと本人の中でまだイメージとズレがあるのよ」
「つまり…黄瀬が青峰な再び1on1を仕掛けた時が、模倣完成した時だ」
フリースロー二本目を決め、ねばる海常たが、青峰くんの投げたボールがガガンとリングに当たり、ネットに触れる。何故、あんなシュートが入るのか、呆然とする。
しかし、それはやってきた。
黄瀬くんが青峰くんの模倣をやってのけた。黄瀬くんが、青峰くんを抜いた。
そして青峰くんは4ファウルにも関わらず黄瀬くんを止めた。
第4Q、青峰くんが点を入れれば、同じに返していく黄瀬くん。
あまりの凄さに茉穂は二人に釘付けになった。
会場は沸いていたが、次第に静まり返る。
青峰が点を入れれば、同じに黄瀬が点を入れる。9分間もそれが交互に行われていたからだ。
息が詰まるようだった。が、パスの取り損ねによって均衡が一気に崩れた。
残り一分。
海常が決めれば、差は3P二本分。チームも一気に士気を取り戻す。
だが、逆に落とせば、タイムリミット。
「事実上……最後の一騎打ちだ!」
黄瀬くんはいきなりフォームレスシュートにいったが、それはフェイク。
パスしようとしたボールは青峰くんによって阻止された。
そして、試合は青峰くんのダンクで終わった。
◇◇◇◇◇
コートを去る海常に拍手が起こる。
なんて凄いのだろうか。
テツたちの表情が強張るのを視界に入れながら、バッグから頭を出している2号のあたまを撫でた。
「いつまでも呆けてらんないわ!帰って早く練習するのよ!」
リコ先輩が席を立ち上がると同時に叫んだが、火神くんが驚いたように手を挙げた。
「……え? あ…帰んの…!?ですか? この大会、他の『キセキの世代』も出てるんじゃ…」
「他の『キセキの世代』?」
テツを見ると頷かれた。
他の『キセキの世代』というと、面識はあまりないが確か、紫原くんと、赤司くんだったはずだ。
「そりゃあ、出来れば最後まで見たいわよ!」
「いやだからホテルとか見つけて…」
「ハハハ、ホテルか…おい、火神…」
火神くんがそう提案すると前に座っていた日向先輩が、笑いながら火神くんの頬を引っ張った。
「どこにそんな金あんだ!!もうねぇよ!ボンボンか!?お前実はちょっとボンボンか!?……!………!」
見たことない姿に、茉穂は慌てて黒子を見つめると、黒子は淡々と「クラッチタイムです」と告げた。
なに、それ?と呆然とする茉穂の手を2号がペロリと舐めたのだった。
通路に出て、そろそろ2号をバッグから出したらとリコに告げられ、しゃがんで床に置いた。
顔だけ出す2号が可愛らしい。
撫でながら、そういえば、と思った。
今朝、緑間から送られて来たメールを思い出す。確か、ラッキーアイテムは子犬だった。
「ねぇテツ、2号を抱っこしていい?って、どうかした?」
「いえ、ちょっと挨拶し損ねただけです」
「え?」
なんでもないです。と言うテツに不思議がると、テツも問うてきたから…「ラッキーアイテムらしいの」と言うと笑われてしまった。
緑間くんには後でお礼のメールをしようと思いながら、帰路へとついた。
To be Continued
なんというか、色々すみません。
2013/03/12