04

黒子のバスケ

「だ──!アイツムカつく!!」

最近、よく聞く台詞に香織は今日もか、と呆れた。

「おはよう、宮地くん。朝から元気だね」

「八色!アイツ、お前の後輩だろ?! なんとかしろよ!」

「……緑間くんがどうかしたの?」

毎日毎日喚く宮地に、香織はとりあえず聞いてみると、口火を切ったように罵詈雑言が溢れ出た。
香織にしてみれば、緑間は礼儀正しい後輩だった印象しかない。少し、いや結構、変な所はあったが、それは本人にとってとても重要かつ真摯な物であった。
彼の先輩であった、虹村も最初はなんだアイツは!と呆れていたが、他に問題児がいたし、それらに比べたら緑間くんや赤司くんたちはまともな後輩だった。

「……緑間くんには緑間くんのポリシーがあるから、仕方ないよ」

「なんっで、オメーは緑間に甘いんだよ!!アイツ、ぜってぇおかしいぞ!」

なんだよ、おは朝占いだの、ラッキーアイテムだの……ブツブツ呟く隣人に香織は記憶を巡らす。
香織とて初めは彼はふざけているのかとも思ったが、彼の運勢が悪く、尚且つラッキーアイテムを持ち合わせなかった時はマンガなの?小説なの?と思うばかりの出来事に巻き込まれる。
それを経験した者は、むしろラッキーアイテムはきちんと持ち歩け!といったくらいである。
そんな事を考えていると、いつの間にか先生が来て、授業が開始されたのだった。


昼休み──飲み物を買いに自販機に来て見れば、見覚えのある姿が目に入った。
そういえば、こんな近い距離で見るのは久々だ。
見知った白いブレザーではなく、詰襟の黒い学ランだからか違和感を感じるが、それを言ったら私とてセーラー服だ。
じーっと見ていると傍らにいた黒髪のセンター分けの子がこちらに気づいたのか、緑間に声をかけた。
それに反応したのか、背の高い彼が振り向いた時、翡翠のような美しい瞳が大きく見開いた。
覚えていたのか……なんて思ったのも束の間、彼が近寄ってきた。
長い足のせいか、数歩歩いただけでもう目の前にいる。また背が伸びてるのだろうか?

「久しぶりだね、緑間くん」

「……八色先輩…」

「え、真ちゃん知り合い?」

「お前には関係ないのだよ」

先に気づいた彼が緑間くんに話し掛けるが、相変わらずというか、素っ気ない。この態度は黄瀬くんへの対応と同じだ。

「なんだよ、それー。あ、もしかして真ちゃんの彼女とか?」

「な、なんでそうなるのだよっ!!」

「だーって、真ちゃん、顔真っ赤にしてんじゃんかよ」

「緑間くんはそういう色恋事には免疫がないから、あまりからかわないであげて。えーと…」

「あ、高尾です。高尾和成っス」

「八色香織です。緑間くんとは中学の先輩後輩、かな」

「なーんだ、彼女じゃないんスか」

「あ、当たり前だろう!!八色先輩にはに「緑間くん?」……いえ、なんでもないです」

何を言おうとしたかは分かるが、生憎、私とアイツはそんな関係ではない。
にっこりと笑ってみせれば、中学の時と同様に大人しくなる彼を撫でたくなるが、手が届かないのでスルーだ。
そんなやりとりを見ていた高尾は目を丸くしていた。

「そういえば、緑間くん、部活で一体なにをしているの?」

「はい?」

「毎日毎日、宮地くんが煩いんだよ」

「宮地…さん、ですか?」

この場合、三年の宮地さんではなく、その弟である宮地裕也であろう。

「お知り合いなんですか?」

「同じクラスなの」

肩を竦める香織に緑間は口を開いた。

「特に何もしていませんが」

「我が儘、三回とか……聞いてるけど?」

「…………」

「……ま、私には関係ないことだけど、ちゃんとみんなと合わせなさいね」

「………」

じゃあね。と手を振って彼らを通り過ぎ、自販機でお茶を購入した。
噂は聞いていたし、桃井さんが相談しに来たこともあった。虹村くんになんとかしてあげたら?と言ってみたものの、「俺はもうバスケ部じゃねーしな……俺がでしゃばったって一時的なもんじゃ意味ねーだろ」と素っ気なかった。
まぁ、受験生に部活のごたごたをなんとかして欲しいと言われても困るし、虹村は虹村で家庭の事情もあったからそちらを優先したのだろう。
桃井さんには力になってあげられなくてごめんね、と謝れば「いえ、私たちがしっかりしなきゃダメですよね」と逆に謝罪された。
1度気になって試合を観に行ったが、殺伐としていたが怖いくらいの圧倒的な強さを見せつけていた。
そんなに面識はないものの、赤司くんも緑間くんも紫原くんも黄瀬くんも、そして青峰くんも恐ろしいまでの強さで他を一切寄せ付けずに、当たり前かのように勝っていたのだ。
私が観た試合はそれきりで後は受験に打ち込む為に勉強していたから、その後のバスケ部については勝っているという事しか知らなかった。いや、勝つのが当たり前になっていたようだ。
帝光は百戦百勝を掲げていたし、絶対理念は勝つ事である。だからこその強さなのか、一軍に上がるのも大変だったようだ。
そんな一軍に1年の頃から在籍していた緑間くんにとって多少我が儘をしても許されていたのかもしれない。むしろ他の部員たちが相当な我が儘で目立たなかったのかもしれない。
しかし、それを分かった上で秀徳バスケ部は彼をスカウトし、1日3回までの我が儘を許したのだろう。特別扱いだの、彼の才能を持ってすれば致し方ながないのだろう。
まあ、3回の我が儘が特殊であるのは変わりないが緑間の練習量は抜きん出ているはずだ。それで黙らせる事なんて簡単であろう。

香織はフフっと笑いながら教室へと戻った。
宮地が座っている横を通りすぎた時に、「ま、せいぜい頑張ることね」と呟けば、片眉をあげて「はぁ?」と凄んできたが香織は素知らぬふりで友人が待つ席へと座って買ってきたお茶に口をつけたのだった。




To be Continued
act.4

2017/04/10


-6-

Beautiful Would top