「そっちばかりずるい!…頭なでさせて」
俺と陽菜ちゃんは仲が良い方だと思う。二年間、同じクラスだし、同じ幼稚舎だった。元々は日吉を通じて、知り合った訳だけど。
そこにある不思議な気持ちは何なのか、……分かるような、まだ知りたくないような気持ちでもある。
日吉とは幼なじみの陽菜ちゃんは、いつも仲良しだと分かる。
お互い遠慮なんてせずに、言いたい放題言っている。一度「凄く仲が良いよね」と言った時の日吉は嫌そうな顔をしていた。
それでも本気で嫌という訳ではないはず。
なんだかんだ言って、日吉は陽菜ちゃんに甘く、陽菜ちゃんも日吉を頼りにしている。
廊下で会ったりしては、憎まれ口でいても去り際には陽菜ちゃんの頭をポンポンと撫でていく。
最も陽菜ちゃんは、叩いた〜と口を尖らせているが違うはずだ。
何となく、悔しくて、面白くなくて、俺も頭を撫でたりするときもある。
セクハラとか、言われたらイヤだからあまりしないけど。
柔らかい髪質と照れ隠しでふにゃっとなる陽菜ちゃんは可愛い。
「陽菜ちゃんって…」
「ん?」
無意識で名前を口にしたら、隣にいた彼女がこちらを見上げてきた。
「どうかした?チョタくん」
「う、ううん。陽菜ちゃんと日吉って仲良しだよね?」
「え〜? そうかな?」
「うん、仲良いと思うよ」
先生に頼まれたノートを一緒に運んでる最中に彼女にそう言うと、足を止めた。考えるかのように、少し唸っている。
「う〜ん……まぁ、小さい頃から一緒だし、ね」
はにかむように笑う彼女をみて、また無意識に言葉が溢れた。
「…………いいな…」
「うん?」
キョトンとする陽菜ちゃんに慌ててしまった。
「な、なんでもないよ!」
「……そう?」
「う、うん。さ、早く運ぼう」
俺は慌てて、止まっていた足を動かした。
「あ、待って! チョタくん」
リーチの差があるからか、数歩先に歩いただけなのに、陽菜ちゃんはパタパタと小走りで追いかけてくる。
それがまた可愛いと思えた。
◇◇◇◇◇◇◇
職員室へノートを届けると陽菜ちゃんは先生方にまで「良く頑張ったな」と頭を撫でられていた。
監督なんて頭を撫でた上にご褒美だとジュースを渡していた。
ジュースを手にして職員室から出る頃には、陽菜ちゃんは口をへの字にしていた。
そんな彼女に俺は思わず口の端を緩めてしまった。
「チョタくん、今、バカにしたでしょ」
「え、そ、そんなことないよ!」
「だって、今笑ってたでしょ!」
「ち、違うよ。あれは……」
可愛いから、と言おうとしたら、陽菜ちゃんがプーンとそっぽ向いた。
そんな態度がまた可愛く思えて、思わず陽菜ちゃんの頭を撫でてしまう。
「チョタくんまで! ひどい! 私を子供扱いして〜〜」
「そうじゃないよ。えと、陽菜ちゃんが可愛くて、つい……」
思わず出た言葉にあー…と何か誤魔化そうとした時、グイッと制服の袖を引っ張られた。
「チョタくん、ちょっと屈んで!」
「え? ど、どうし「いいから、早く!」う、うん…」
陽菜ちゃんに言われるまま、その場に屈むと、陽菜ちゃんが前に立った。そして、手を挙げて、髪に触れた。
なでなでと撫でられる感触に目の前の彼女を見た。少し頬が赤い。
「陽菜ちゃん?」
「たまには私も撫でたいんだから!」
突然のことに口を手で覆った。
この年で、いや、身長が伸びてから頭を撫でられた記憶なんて、あまりない。
まして、それが同級生とはいえ、自分より凄く小さな女の子に。
「いつもの仕返し〜」
目が合った彼女は笑いながらそう言った。でも俺はなんだが胸がドキドキしていた。
だから、気づかなかった。俺の髪に触れている彼女の髪に隠れた耳が真っ赤になっていたことを。
2012/07/24