初めて聞いた声音

テニスの王子様

幸村くんの言葉に甘えて、1時間目は保健室で過ごした。
眼を冷やしていたお陰か、まだ赤かった眼は腫れが引いていた。
休み時間に戻ると、実奈と沢渡さんが声を掛けてきてくれた。

「あ、椿姫! 具合大丈夫?」

「ん……休んだから大丈夫だよ」

「無理しないでいいからね」

「ありがとう。でももう大丈夫だから」

「そう? ならいいけど。あ、椿姫は今日一緒に行くんだよね?」

小首を傾げて聞いてくる実奈に分からなくて椿姫も首を傾げた。

「え?」

「え? じゃなくて、今日、テニス部は部活休みなんでしょ? だからみんなで遊びに行こうって紫ちゃんが言ってたよ」

初めて聞くことに、知らないとばかりに眼を見開いていると背後から声が掛けられた。

「三浦さん、まだ室生さんには話してないんだ」

「あ、幸村くん」

「まだ言ってなかったの?」

後ろを振り向くとさっきと同じように微笑している幸村くんがいた。
訳が分からずに見ていると

「今日の部活は急だけど休みになったんだ。顧問が言い忘れてたみたいなんだけど、コート整備が入るらしくてね」

「そうしたら紫がせっかくだからみんなで遊びに行かないかって誘ってきたんだよ。ちょうど料理部も休みだし」

幸村くんの言葉を継いで沢渡さんが予定を話してくれた。

「そうなんだ。うん、行きたい……ぁ」

「どうかしたの? 用事あるとか?」

「そういう訳じゃないんだけど……」

みんなで遊びに行くということはきっと、蓮二と彩香ちゃんも一緒なんだと思ったら顔を会わせづらい…。
どうしようかと思っていたらポンと肩を叩かれた。

「大丈夫だよ。室生さんもおいで」

ニコリと笑う幸村くんに思わず頷いてしまった。
実奈は喜んでいたけど、沢渡さんは胡散臭そうに幸村くんを見ていた。

「なんか怪しいわねぇ」

「え?」

「なにバカなことを言ってるんだい、楓」

「バカとはなによ! 彩香のことみたいに椿姫のこと気にしてるから」

「そうかな? そんなことないよ。もしかして、楓、手塚とうまくいってないのかい?」

「失礼ね! うまくいってるわよ! 毎日メールはしてるんだから」

「手塚って意外とマメなんだね」

「まぁね」

「え〜、楓って彼氏いるの?」

「ぎゃっ! 実奈、いきなり乗ってこないでっ!」

やりとりに呆然としていたら、笑っていた幸村くんがこっちを見て、微苦笑していた。
まさかそんな風に見られるなんて思ってなかったから。
もしかして、蓮二と彩香ちゃんもこうなんだろうか?


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あっという間に放課後になった。
なんとか蓮二と顔を合わせずに過ごしてきたけど、もう逃げることが出来なかった。
緊張してなんだか胸が苦しい気がする。
昇降口に待ち合わせと言って、実奈に手を引かれた。見えたのは背の高い(イケメン)集団。女の子たちがチラチラ見てるのが分かる。

「お待たせ〜」

「あ、楓〜、実奈、椿姫〜こっちこっち」

紫が仁王くんの隣で手を振り、彩香ちゃんは紫の隣、だけど蓮二がすぐ横に立っていた。
チラりと見ると、相変わらず見えているのか分からない双眸がこちらを向いていた。

「椿姫ちゃん」

「あ、彩香ちゃん……どうかした?」

「昨日は色々とごめんね? もっと早く渡したかったんだけどなかなか会えなかったから……昨日のお礼なの」

カサッと包みに入った何かを渡された。丸井くんがいいな〜いいな〜って言っていたけど、今は気にしてる余裕がなかった。

「あ、ありがと…」

カサッと袋を開けてみたら、セロファンのような紙に包まれたのが10個くらいあった。

「飴……?」

「うん。蓮二くんが椿姫ちゃんはこの飴が好きだって言ってたから、とりあえず全種類」

思わず顔を上げた。
蓮二が教えたって……これは…。

「室生、室生〜、俺にもくれよぃ」

「えっ、あの、」

「たかるなよ、ブン太」

「いいじゃねぇか、いっぱいあるんだし」

「よくないわよ」

「え、あの…別にいいんだけど……っていいかな?」

彩香ちゃんを見ると「椿姫ちゃんにあげたから好きにしていいよ」と微笑していた。
丸井くんに2つほどあげて、後は実奈と楓ちゃんと紫にもあげた。
おいしいと言いながら移動をした。ボーリング場まで足を運んでペアを決めて競った。
彩香ちゃんはもちろん幸村くんと、楓は真田くん、紫は仁王くん、実奈はジャッカルくん、私といえば丸井くんとで、蓮二は柳生くんとペアになっていた。
テニスの腕前も凄いけど、ボーリングも凄かった。みんながみんな、ほぼストライクを出していて、女子がミスしてもスペアで全部倒していく。
真田くんの「倒れんかぁぁぁ!」という叫びに場内の人達から注目を浴びて恥ずかしかったり。
結果は幸村くんと彩香ちゃんが1位。幸村くんが全部ストライク取って凄かったのは言うまでもない。でもどのチームも強くて大差はなかったけどね。

「あ〜、遊んだ遊んだ」

「たまにはいいよな、こういうのも」

ボーリング場から出て、丸井くんとジャッカルくんが腕を伸ばしながら話していた。
もう暗くなっていて解散となるのが分かり、なんとなく気まずかったけど、今日ばかりは彩香ちゃんが帰りが一緒で良かったと思った。
駅に向かえばやはり解散らしく、いつものように別れるはずなのに、彩香ちゃんは幸村くんといつもと違う方向へと歩いていくのに、声をかけた。

「あ、彩香ちゃん! 帰らないの?」

「え、あ、今日は精市くんのお家に寄るんだけど……言ってなかったっけ?」

振り向いた彩香ちゃんはキョトンとしていて、こちらがびっくりした。隣にいる幸村くんは口パクで「ガンバレ」って言ってくれている。
でも急にそんなこと言われても、心の準備が……。

「蓮二くん、椿姫ちゃんよろしくね」

「蓮二、ちゃんと送ってあげなよ」

「…………あぁ、分かっている」

「ふふ、じゃあまた明日ね」

「あぁ」

「う、うん。明日……」

ニコニコと笑いながら、幸村くんと彩香ちゃんは手を繋いで違うホームへと向かっていった。
なんだか気まずくて蓮二の方を見れなかったけれど、みんなそれぞれ別れを告げていき、最後は二人きりになってしまった。

「…………」

「──行くか」

「え、あ、うん」

いつもと変わらない声音に昨日の事はどうでもいいのかなと思ったら、切なくなった。
蓮二の後に続いて階段を上がっていく。
どうしたらいいのか分からないのと、どうすればいいのかで考え事をしていたら、ぼーっとしていたらしい。

「すみません、」

「え、あ、はい?」

声を掛けられて顔を上げたら、立海生が立っていた。なんだかゾワリと身体が動揺する。
訳が分からなくていると、スッと手を出された。そこにはキーホルダーがある。

「落としましたよ」

「あ、ありがとうございます!」

慌てて頭を下げると、小声で「まだ柳くんの傍にいるなんてね」と聞こえた。
え、と頭を上げてよく見るとどこか見覚えのある顔だった。この子、小学生の時の──。
受け取ろうとしたら、手が震えていた。指先にキーホルダーがぶつかり、カチャンと落ちていく。
拾おうとしたら、グラリと身体が傾いた。

「、あ…」

スローモーションのように身体が投げ出された。
落ちる、と思った瞬間、切羽詰まる声が聞こえた。

「椿姫っ!」

グイッと腕を引っ張られたが、落ちている身体は重力に引かれるように蓮二さえも巻き添えにした。
ギュッと頭ごと身体を抱きしめられ、軽い衝撃を受けた。
きゃああぁ!とか人が落ちたぞ!とか声が遠くから聞こえたが、私はあまり痛くない。
ハッとして眼を開けると、目の前には蓮二が私を抱きしめたまま倒れている。

「れ、蓮二っ!?」

「……怪我はないか?」

「わ、私は大丈夫! 蓮二こそ、怪我は!?」

あぁ、テニス選手なのにマネージャーを庇って怪我するなんて!と考えていると「大丈夫だ」と平然と言った。

「で、でも…」

「鍛え方が違う。そんなに柔ではない」

「……」

「心配するな……………なによりお前が無事で良かったよ…」

安堵するようにほっとする蓮二の声音は昨日の彩香ちゃんの時とは大分違う。
甘くて、とろけるような、そんな声音だった。
駅員さんや他の人たちが大丈夫ですか?と聞いてきたが、蓮二がいつものように淡々と話しているのを遠くで見ている気分だった。



To be Continued


あとがき

なんだか話が無理やりで苦しいですね。すみませんです m(__)m
次で終わる予定ですが、終わるのか?という気分です。


2011/09/25


-10-

君ヲ想フ top