変わってく君、変わらない私

テニスの王子様

塾の帰り道、コンビニで買った肉まんを持ちながら、吐く息と湯気の白さに今年も終わりか…と空を見上げた。
この夏から、いいやもっと前から行きたい学校の為に、一心不乱でずっと勉強をしている。
全ては立海大附属高校に入学する為に。
本当は中学受験をしたかったけど、私の頭のレベルでは受けたとしても100%の確率で落ちると言われた為、諦めてしまった。

(……あれはかなりショックだった…)

近所に住んでいた幼なじみなんて余裕で受かって、ましてや新入生代表の挨拶(つまり首席)までしたとか……。
それをお母さんから聞いた時は、流石蓮二だなって思ったのと同時に、彼と離ればなれになったんだと痛感した。
そして鈍い私が分かったことは、立海に入りたかった理由が蓮二と離れたくなかった……同じ学校に行きたかった、好きだってこと。
蓮二は小5の時に、東京から引っ越して来た。
たまたま近所で同じ年は私しかいなかったせいもあり、挨拶回りで来た時にお願いされた。
一緒に登校したりして、結構仲良くもなった。
初め見た時は女の子だと思ったくらい、可愛いというか綺麗な顔立ちをしていた。まぁ、眼が見えてるのか?というくらい糸目だったけど(苦笑)
その蓮二の評判といえば、お母さんから聞いたり、しまいには他校だというのにも関わらず、耳に入ってきていたからだ。
立海の柳 蓮二と言えばまず挙げられるのは男子テニス部の三強の一人で、達人マスターと二つ名がついており、また参謀とも呼ばれているとか。
学校生活においても生徒会に所属し、成績は常に首席、背も高く、目元涼やかな和風美人…らしい。
友人にそのテニス部ファンがいて(他校支部とかなんとか)聞かされたのだ。
友人に「アンタ、同じ小学校でしょ? 知ってる?」と問われ、幼なじみだよ。と言うべきか悩んだ。
えっと…と口籠もっていたら「知り合いだったら紹介してもらおうと思ってたけど、その様子じゃあまり知らないみたいだね」と言われ、苦笑するしかなかった。

ハアとまたため息を吐けば、白い息が現れ、冷たい空気に溶けていく。
彼はどんどん手が届かない人になっていく。
次に会った時、私の事を憶えててくれているだろうか…。
まぁ、昔からデータがどうとか言ってたから、大丈夫な気もするけど……それでも怖い。
どんどん変わっていく君に対して、私は何も変わっていないから……。
だからこそ、立海大附属高校に合格さたい。そこで君に逢えたら、変われるような気がするから。




───春、桜が舞い散る青空のなか、私は立海大附属高校の制服を身に纏い、校門をくぐった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


桜の花が綻び、空が真っ青な良き日、私は念願だった立海大附属高校に入学した。

(……大きい…)

入試に来た際も同じ事を思ったが、やはり名門私立大附属というだけで、かなり大きい校舎を見上げた。
ガヤガヤという人集りを見つけ、クラス分けの掲示板があるのに気付いて、椿姫は歩き出した。
自分の名前を探していく途中で、見知った名前を見つけて、違うクラスなんだと少しがっかりした。
所々で女子が盛んに声をあげているのが不思議だった。この時、私はすっかり忘れていた。男子テニス部に他校ファンクラブがあるくらい人気だということを。

『やった、幸村くん丸井くんと同じクラス』

『私は柳生くんとだわ』

『仁王くんと一緒だけど切原さんも一緒なんて…』

『幸村くんと倉橋さんは違うみたい、チャンスかな!?』

『仁王くんと柳くん、一緒なんだね。目の保養ね、1組は』

『真田くんと一緒は嬉しいけど、なんか怖いかも…』


聞こえた会話に蓮二の名前があった。そう、彼は1組で、私は4組だ。離れてしまってガッカリだ。
でもこんな風に女子が嬉しがるなんて、よっぽど人気なんだと思い、なんだか手が届かない気分になる。
ため息を吐いて、教室に入ることにした。
ざわざわとしている教室へ着くと、黒板に出席順と書かれ、貼られている席次表を見てから席についた。
窓際の席に荷物を置き、周りを見渡した。グループでいる女子に目をやるとなんとなく雰囲気が慣れているから内部生なんだな、と思った。
きっと席について誰ともあまり話してないのは私と同じ外部の子かも、と前にいる子に話し掛けてみた。

「あの、」

「は、はい?」

「私、室生 椿姫って言います」

「わ、私は三浦 実奈です。えと、室生さんは…内部生?」

「ううん、私は外部。三浦さんも?」

「うん。周りの人、内部生みたいで……室生さんが話し掛けてくれてちょっとホッとしてる」

エヘヘと笑う彼女にこちらも笑った。なんだか可愛い子だな。

「分かる分かる、なんだか話し掛けづらいよね」

そんなこと話していると廊下から『キャー!』と悲鳴が上がる。
二人揃ってビクッと身体を揺らした。何かあったのかと思えば、クラスの女子(さっきの内部生たち)が嬉しそうに入り口を見つめている。
そこにはびっくりするくらい綺麗な男子がいた。
なんだか、隣にいた女子(これまた綺麗な)と話してから、彼女の方は廊下側寄りの席についた。
彼といえばこちらに向かって歩いてくる。
え、え?と目線を向ければ、目が合った。ニコッと微笑されて「おはよう」と告げられた。
三浦さんと慌てて挨拶をすれば、フフッと笑われ、彼は後ろの席に着いた。
前の席の三浦さんと呆然としながら、チラチラとつい見てみる。
凄い美形でびっくりだ。

「室生さん、なんか凄い格好いい人だね」

「う、うん。なんか緊張しちゃうね」

「もしかして、彼が幸村くんっていう人かな? 男子テニス部の元部長さん」

「へ?」

「室生さん、知らない? 立海の中学校って全国二連覇して、去年は全国準優勝したの」


それは勿論知っている。お母さんが言ってたし、他校支部ファンクラブでも盛り上がってたから。

「知ってるけど……メンバー知らないし(蓮二以外は)」

「そうなんだ。私は同小の子だった人たちがテニス部で話に聞いたことあるんだ」


そうボソボソと話していると明るい声が彼に話し掛けた。

「ゆっきむらくーん、はよ」

「おはよう、丸井。同じクラスなんだね」

「おう、シクヨロ。ジャッカルもだぜぃ。沢渡もこのクラスなんだな……って、三浦じゃん!」

会話を聞いていたら、赤髪のガムを膨らませた人がこちらを向いた。三浦さんの名前を呼びながら。

「おはよう、丸井。久しぶりだね」

「はぁ? なんでお前ここにいんの?」

「今日から私は立海生なの」

「マジかよ!? おーい、ジャッカル、三浦いんぞ、三浦」

二人のやり取りを呆然と見ていたら、幸村くんという人と目が合った。

「朝から煩くて悪かったね。君も外部受験の子かい?」

「は、はい。室生 椿姫って言います」

「へぇ、俺の名前は幸村 精市。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

フフッと笑う姿に顔が熱くなりそうだった。だってこの人凄い格好良い。
蓮二も整った顔をしていたけど、どちらかといえば和風美人で、こっちはなんか王子様みたいだ。

「なーに浮気してるのよ、幸村。彩香に言い付けるわよ」

「何言ってるんだい、楓。俺がそんなことするわけないだろう」

「どうだか。って私は沢渡 楓。あなたは、室生さん、でいいんだよね」

「は、はい。室生 椿姫です。よろしくお願いします」

幸村くんの頭にプリントを乗せ、沢渡さんが話し掛けてくれた。

(さっき、幸村くんと一緒に来た子だ)

「なんか固いね、室生さん、もしかして外部受験?」

「えと、やっぱり分かりますか?」

「というか幸村への反応でかな? 幸村は中学ん時から有名だからさ、自己紹介してるの見て」

「へぇ、楓もよく見てるんだね」

「失礼ね。で室生さんはどこ中なの?」

「神奈川第一中学です」

「あれ、ってことは小学校は第一?第二?」

「第二です」

「そっか、私は第一小だったんだ。第二だと…柳と紫……だったかな? 知ってる?」

出てきた蓮二の名前にドキッとした。この人、蓮二を知ってるんだ。

「い、一応…」

「そうなんだ」

そんなことを話しているとチャイムが鳴り、先生が入って来た。
入学式があるから廊下に並べと言われ、少しドキドキしながら式に挑んだ。
並ぶ生徒数に驚きながら、式は進んでいく。新入生挨拶ではやはり蓮二が壇上に上がり、前よりも遥かに背が高くなっていた。

周りの格好良いという声を聞きながら、あぁ、なんだかもう遠い存在になった、と思えた。



手が届かない…



To be Continued



あとがき


始まりました、柳幼なじみ新連載。
相変わらず『青空』メンバーが出て来ますのでよろしくお願いします。
柳の設定に多少『青空』ではなかったのが加わりますが、続編という訳ではないので大目に見て頂ければ幸いです。

感想頂けると嬉しいです。

2011/02/04


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