約束の有効期限

テニスの王子様

マネージャーになってから数日経ったが、覚えることがありすぎて蓮二と未だに会話らしい会話をしていない。
ルールはともかく、部員の名前やドリンクの好みなどを覚えるのに必死。
紫がいうには覚えるの早いというけど、先輩の名前をまだきちんと覚えてはいないのが現実だ。

「室生さん」

「幸村くん」

タオルを干しながら考え事というか、ボーッというかしていると声を掛けられた。
汗をかいているのをみて、乾いたタオルを差し出すと「ありがとう、でも持っているから」と言われた。

「マネージャーの仕事、慣れたかい?」

タオルを首に掛けて聞いてくる幸村くんに、やや首を傾げた。

「う、うーん…色々覚えるのが必死だけど、なんとか」

「そうなの? 紫や部長たちがいいマネージャーが入ったって喜んでいたよ」

少し驚いた後に、クスッと微笑しながら話す幸村くんにびっくりした。
多少でもマネージャーとして役立っているなら嬉しいと思う。

「なら、いいんだけど…」

「真田や蓮二たちも覚えがいいって誉めていたよ」

「えっ!? 本当?」

蓮二が誉めて…?
なんだか嬉しくて、口元に手をやった。
頬が弛む感覚にじわりと笑いたくなる。

「うん、本当。……室生さんて蓮二と幼なじみなんだよね」

「え、う、うん……」

「あまり話してる姿見たことないけどなにかあったの?」

「え? な、にもないけど」

「そう。……んー、じゃあ頑張ってね」

「え、あ、ありがと……」

幸村の行動に首を傾げながら、椿姫はタオルをまた干し始めた。
蓮二とは何かある所か、まともに話をしていないのが現状だった。
昔は気兼ねなく話せていのに、とため息を吐いた。
蓮二は転校してきた当初、少し落ち込んでいた。幼なじみと離ればなれになり、その人に引っ越しのことを何も言わなかったらしい。
きっと嫌な気分だろうな…と呟いた蓮二がなんだか悲しくて、私は言ったんだ。

「泣かないで! 私が一緒にいるから、ずっと一緒にいるよ」

実際いった時はずっと一緒にいると思ったし、離れるなんて考えてなかった……。
『好き』だと気付いた時には学校が離れて、意識したせいでロクに話せなくなったからなぁ。
それでもまだ中1くらいまでは話していた。
でも夏休み前には蓮二がテニスの練習で忙しくて、会えなくなったんだよね……。

「……約束、忘れちゃったのかなぁ」

約束といえるのか分からない約束。でも叶うならば、一緒にいたい。
蓮二はあの時、頷いてくれたけれど、どんな気持ちでいてくれたのだろうか。
無邪気だったあの頃の気持ちのままでいれたら、訊くことが出来るのに。

「──ん、室生さん?」

考えていたせいか、いることに気付けずハッとすれば、倉橋さんが顔を覗きこんでいた。
うわっ、と身体を反らしたら、彼女もびっくりしたようだ。

「くくく倉橋さんっ!?」

「ご、ごめん! 驚かしちゃった?」

「こ、こっちこそボーッとしててごめん……。あ、えっと幸村くん?」

「練習中みたいだから今はいいよ。これ、部活で作ったから皆さんで食べて」

差し出されたのはトレーに乗せられたレモンパイらしい。

「あ、桑原くんには実奈ちゃんが別に作ってるから、あまりあげないでね」

「実奈が?」

「うん、よろしく……あ、蓮二くん」

手を振って行こうとした倉橋さんの視線がズレたと思えば、蓮二の名前が出た。
それに呼応して、背後から低い声がした。

「差し入れか。すまないな」

「ううん。みんなで食べてね」

「ああ、ありがとう。精市の分は別か」

「うん。精市くんの分は今焼いてるの。じゃあ、また後でね」

今度こそ手を振って倉橋さんは校舎へと歩いていった。

「俺が持とう」

蓮二はそう言って、私の腕にあった焼きたてのレモンパイを持っていった。

「あ、あのっ!」

「どうした?」

「……なんでもない」

「そうか……とりあえず休憩になるだろうから、お前も来い。彩香の作る菓子は美味いからすぐ無くなるぞ」

蓮二は少し愛おしいそうにレモンパイを見た。
倉橋さんの事が好きなんだとなんとなく分かる。
でも彼女は幸村くんの恋人で……なんで!という気持ちになる。
だって中3からの付き合いで、みんな知っている事実だという。
紫もいっていたし、幸村くんの倉橋さん大好きっぷりは凄いって。

「れ、蓮二!」

「どうした、室生」

「…………な、なんでもない…」

「……そうか、行くぞ」

「さ、先に行ってて! これやっちゃうから」

まだ途中だったタオルが入ったカゴを指差せば、蓮二は「そうか」と言って行ってしまった。

「なんで苗字で呼ぶの?」

聞きたいけど、怖くて聞けない。
なんだか悔しくて悲しくて、泣きたくなった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あの後、タオルを干し終えたらジャッカルくんが呼びに来てくれた。
パイを半分、丸井くんに取られたという彼に「実奈が作っているってよ」と言うと微妙な顔をしたが、嫌がっているわけではないみたいだった。

「あ、椿姫。お疲れさま。はい、これが椿姫の分。柳が確保してくれてたよ」

「え、れ、柳くんが?」

紫から差し出されたパイを見つめ、受け取った。

「うん。お礼言っときなよ。ほとんどが幸村に奪われそうになったんだから」

見れば、真田くんなんて少しガッカリしているし、丸井くんは何故か幸村くんに怯えている。
どうしたのか聞けば、食べ足りない彼は倉橋さんに追加をお願いしようとしたかららしい。

「まぁ、彩香の作る物は絶品だからね、丸井の気持ちも分からなくはないけど」

「幸村の前で言うのが災いじゃな」

呆れたように話す紫と仁王くん。付き合っている二人はお似合いとしかいえない美男美女だ。
そこへ蓮二がやってきた。私はお礼を言うと「お前が最初に受け取ったしな」と言われてしまった。
確かに倉橋さんから食べてね。と言われて、受け取った私が食べなかったとかなんだか悲しいし、お礼を言いにくい。
そんなことを考えていると、蓮二は幸村くんたちを見ていた。

「精市の彩香への独占欲は相変わらずだな」

「その独占欲の被害はアンタが一番大丈夫かって感じだけど、私は」

「幸村もよく倉橋さんへの名前呼びを許したもんじゃのう」

「俺がではなく彩香が言ったからな、アイツは彩香には激甘だ」

「だからってすごいわよ。今は慣れたけど、彩香と柳が名前で呼びあった時は本当にビックリしたわよ」

「俺は幸村が壁に爪を立てて見ているのが怖かったぜよ」

「精市の新たなデータが取れたがな、俺的には」

「本当に怖いぜよ、参謀は」

三人の会話を聞きながら、パイを噛ったら甘くて美味しい。でも苦いと感じたのは疎外感。
三年間一緒にいれなかった時間は戻らない。

もうあの約束は彼の中にはないのかもしれない、そう思うとなんだか苦い思いがした。



To be Continued


あとがき

うん、うまく描写と言葉が浮かばず、訳がわからない状態に。


2011/05/22


-5-

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