幼い日の幻影
テニス部に入って分かったことがある。みんな仲が良いのだ。仲間だからというのもあるが、一緒に帰宅するとか。
「椿姫、着替え終わった?」
「うん。紫は部誌の方は?」
「終わったよ。早く職員室寄っていこ、みんな待ってる」
「うん」
最初の頃、帰ろうとしたら声を掛けられ驚いたことがあった。
立海テニス部は強豪として中学から有名だし、部活も遅くまでしている。
だから一緒に帰ると言われた時、蓮二と会話が出来るかも、と思ってた──彼女たちの姿を見るまでは。
部誌を顧問に届け、校門前まで行くと、幸村くん、真田くん、柳生くん、仁王くん、ジャッカルくんと丸井くん、蓮二がいた。そして、親友の実奈、沢渡さん、倉橋さんの姿も。
「あ、椿姫〜。お疲れさま」
「実奈もお疲れさま……あ、レモンパイ美味しかったよ、倉橋さん」
「お疲れさま、室生さん、紫ちゃんも。そう言ってもらえると嬉しいな」
ふふっと笑う彼女はフワッとしてて守りたいって感じに見えてしまう。
「彩香の作ったパイ、先輩方にも好評だったよ」
「そうなの? じゃあ、また今度「マジかよぃ! 俺、次はケーキがいいぜぃ!」……丸井くん、」
会話に入ってきたのは丸井くんだ。それが彼はあっという間に誰かに引っ張られて後ろに転んだ。
「あれ、丸井。大丈夫かい」
「ゆ、幸村…」
「フフッ、大丈夫みたいだね。彩香、今度からは持ってくるのは部活中じゃない方がいいかも。人数が多くて足りない場合大変だろ」
「あ、そうだよね。大所帯だもんね」
ごめんね。と謝る倉橋さんに幸村くんはとろけるような笑みを浮かべていた。
じゃあ帰ろうか、と彼がいうとぞろぞろと駅へと向かい始めた。
隣の実奈と話ながら、蓮二の方を見ると柳生くんと会話しているようだった。
部活に入部してから大体一緒に帰るようになったけれど、大きくなった蓮二を眺めるのはまだ少し違和感がある。
それは3年前まではあまり変わらない身長だったこともあったけど、見えない壁があるみたいな感じだ。窓から姿だけを見ているような……。
「──、椿姫? 椿姫?」
「えっ、何? 実奈」
「何? じゃないわよ。着いたわよ、駅」
「へ、あ、本当だ」
「もう、ぼーっとしないの。疲れてるなら早く寝なね」
「う、うん。また明日ね」
「うん。じゃあ、楓、彩香ちゃん。また明日ね」
「またね、実奈ちゃん」
「バイバイ、実奈。ジャッカル、丸井ちゃんと送るのよ」
「まーかせろぃって。ちゃんと送るぜ……ジャッカルが」
「おい、ブン太……ったく。ま、家は隣だしな大丈夫だ。じゃーな」
いつもと同じ会話をしながら、彼らは違うホームへと行ってしまい、紫は仁王くんの家に行くらしく、バイバイと二人で行ってしまった。真田くんと沢渡さん、柳生くんもまた明日。と手を振り、幸村くんは倉橋さんにチュッとキスをしていた(頬に)
真っ赤になって怒る倉橋を笑いながら、幸村くんは蓮二の方を見て言った。
「蓮二、彩香を頼むよ。室生さんもお疲れさま、また明日も頼むよ。じゃあ、彩香、後でメールするね」
真っ赤になっている倉橋さんの頬を触りながら、違うホームへと向かう幸村くんを見た後、思わず蓮二を見てしまった。──少しだけ眉間に皺がよっていた…。
「……全く。彩香、大丈夫か?」
「うぅ…恥ずかしい…」
「今に始まったことではないだろう。さぁ、そろそろ行かないと電車に乗り遅れるぞ」
蓮二は倉橋さんの背中を押しながら促した。
「室生さん、行こう。蓮二くんが言うんだから早く行かなきゃ」
「う、うん」
くるりと振り向いた倉橋さんの脇には守るように蓮二の姿があるのを見て、胸が痛くなる。
なんで、倉橋さんにそんなに優しいんだろう。
ほんの数年前までは私の場所だったのに……取らないで。
そう思った時、蓮二が振り向いた。
「後1分で電車が来るぞ」
「え、あ、うん。分かった、急ごう」
その後電車に揺られ、最寄り駅を目指した。ラッシュ時間に少し重なるせいか、混んでいる。
隣でムギュッとくっつく倉橋さんと「毎回つらいね」「そうだね」なんて他愛のない話をしながら前に立つ蓮二を見上げた。
私たちを守るように壁側に立たせ、自分は人混みに背を向けている。
「蓮二くん、苦しくない?」
「大丈夫だ。お前たちは苦しくないか?」
「私は平気だよ。室生さんは大丈夫?」
「私も大丈夫………ありがとう、柳くん」
「いや、どうということはない」
ガタンガタンと揺れる電車の中で、フッと微笑した蓮二の姿に顔が赤くならなくて良かったと思いながら、顔を横に向け、車窓から移り動く景色を眺めていた。
その時、蓮二がこちらを見ているとも知らないで。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
最寄り駅に到着し、階段を降りていると横にいた倉橋さんの身体が揺らめいた。
「──っえ、」
「倉は、」
後ろから追い越した人が倉橋さんにぶつかったのだ。
──落ちる、と思った時後ろから腕が伸びてきた。
「彩香っ!」
「ひっ…」
前に傾いていた倉橋さんの身体は引かれるように後ろへ動いていた。
横を見れば、後ろから腕を回し、抱きしめるように蓮二が彼女の身体を支えていた。
「────、あ…」
「大丈夫かっ、彩香!?」
「う、うん……」
驚きで呆然としている彼女に訊ねた後、蓮二はほぅ、と安堵のため息を吐いた。
「大丈夫? 倉橋さん、蓮二!?」
「あぁ、俺はなんともない」
「う、うん……大丈、夫」
ちょっとした混乱か、倉橋さんはまだぼーっとしている。
周りが騒めいていたが、ぶつかっていった人は見向きもせずに駅から出ていってしまったようだ。誰かがそんなことを言っているのが耳に入った。
蓮二とはいえば、倉橋さんが怪我ないことや、大丈夫だという事を知ると、良かった…と呟いていた。
みた事があるその顔は、数年前に一緒に遊んで、私が怪我した時と同じ顔だった。
あぁ、変わったと思っていたのに、そんなところは変わらないのだと知った。
二人の姿が昔の私たちに重なる……でも、私ではない……。
To be Continued
あとがき
強引な話の進み方に申し訳ないです。
つか青空カップルさんが出張り過ぎてて、柳とヒロインが絡まないとは如何に?と感じですが……本当にすみません。
ヒロインより彩香な柳ですみません。つか、なんなんだろう、この連載って……。
2011/07/14