朧気な矛盾

テニスの王子様

けだるい気分に柳生は寝返りをうちながら、眼を開いた。
ぼやけた視界で右手で前髪を掻き上げ、いつも眼鏡を置いてあるサイドボードに手を伸ばすも眼鏡どころか、サイドボードすらない。
一気に昨夜の事を思い出し、ガバッと身を起こした。

「華月さん…?」

横で寝ていると思っていたがそこはもぬけの殻だった。
シーツに手を置くと既に冷たくなっていて、眼鏡を手探りで探した。
見つけた眼鏡を掛け、部屋を見やると壁に掛かった時計を確認する。
まだ6時前、朝練には間に合うと思いながらも今はこの家の主が気になった。
ベッドから起き上がると上半身裸の自分に昨夜の事を思い出すと顔が熱くなる。
抱きしめれば、意外にも華奢な身体つきにも関わらず豊満な胸、赤く染まった頬に、潤んだ眸。
肌蹴た衣類から見えた白い肌と艶めかしい声──魅了され翻弄された。
思い出すだけでドクドクと心臓が速くなり、片手で顔を覆った。
どんな顔をして彼女に会えばいいのか、と思いハッとした。
彼女はどこに?

カチャ

「……起きたの、おはよう」

扉が開く音と掛けられた言葉にそちらを向けば既に制服を纏っている華月さんの姿。

「お、おはようございます…」

「はい、制服。乾いててよかったわね」

ハンガーに掛けられたブレザーとスラックス、アイロンを掛けられたワイシャツ、ネクタイを渡された。

「……あ、ありがとうございます…」

「じゃあ、朝食は出来てるから」

何もなかったかのように部屋から出ていくのを、私はただ眺めているしか出来なかった。
昨夜の事が夢、だとしてもリアルで、夢でなければ何故私は寝室で上半身裸で寝ていたのかと疑問に思うほど、華月さんはなんら変わりはなかった。
寝室の窓から見る外はしとしとと弱い雨が降っている。
降る雨は朧気で、昨夜の嵐が嘘のように静かだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


朝、起きて横を見ると柳生くんの姿に瑠歌はため息をついた。

(……あぁ、そういえばそうだった…)

ベッドから出て、着替えを持ち寝室から廊下へと出た。
洗面所へ行けば、昨日浴室乾燥した柳生の制服を取り、それを廊下のフックに掛け、自分は浴室へ入った。
少しベタついた身体の汗を熱いシャワーで流し、またため息をついた。

「……まいった、な…」

こんな風になるなんて思ってもいなかった。
あの時、まさか寝室に柳生が入って来るなんて誰が思っただろう。
だが、心の奥底ではそうなってしまうかもしれないと思った気持ちはあった。でも紳士的な彼が夜、寝室に入るなんて考えなかったのだ。
ただ、雷が怖かっただけで縋るなんて……情けない。
だがアレが一番紛らわせるのに効果的だった──昔からそうしていたのだ。
だから、雷が鳴って彼が来た時、我を忘れていた。気づいた時には止まらない状態だった。──私も彼も。
キュッとコルクを閉めるとタオルで身体を拭き、持って来た制服へと着替える。
まだ5時だが、テニス部は朝練があると美姫が言っていたので朝食の支度をした。
適当にトースト、ベーコンエッグ、サラダ、コーヒーでいいだろう。私は紅茶にしよう。
準備をすれば6時近くで、柳生くんを起こしに行った。外は霧雨が降っているが、テニス部は室内も使うらしいからだ。
パタパタと廊下に出て寝室へ向かう。

「……起きたの、おはよう」

「お、おはようございます…」

ドアを開ければ起きていた柳生に声を掛け、ハンガーに掛けておいた制服一式を彼に渡す。

「はい、制服。乾いててよかったわね」

「……あ、ありがとうございます…」

なにやら混乱しているようだ。わざわざ寝たことを言うこともないだろうし、面倒くさかった。

「じゃあ、朝食は出来てるから」

瑠歌はそう言って踵を返した。
その後、柳生はチラチラとこちらを見つつも何も言わず、深々と頭を下げて、朝練へと向かった。
瑠歌は片付けを済ませてから、学校へ向かう。
また昨日と同じ1日が始まる。でも昨日とは少し違う始まりだった。


勘違いしてはいけない



To be Continued


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