ゆらゆら揺れる

テニスの王子様

「あなたが、好きです」

柳生くんの腕の中でそう囁かれた。
驚くことでもないけれど、少し驚いた。こんな風に感情をぶつけてくることはないと思っていたから。

「昨夜のことも忘れていいよ」

そう告げたのは牽制だった。
彼の気持ちには気付いていた、でもそれには気付かないようにしていたのに。
自嘲に満ちた笑いが失笑とともに起きる。

──やめて欲しい

きっと、私は君をただ利用するためだけに縋るだろう。
君からの想いを受け止めることなく。

──傷つけてしまうから

いつか来る別れを先に考えてしまう。
信じることをせずに、疑うことしかしない。
告げられても、私には無理だ。

ぐい、と柳生くんの胸を押した。
意外にもすぐに離れたので、顔を見上げると困ったような顔をしている。

「柳生くん」

「は、はい」

「やめておいた方がいい」

「え…」

瑠歌は柳生を見つめて告げた。
困ったような、悲しむような表情で、ただまっすぐに。

「それは、私にあなたを諦めろと…」

「……」

「華月さん!」

「君に私は相応しくない。君にはもっと別の人が」

「私が好きなのはあなたです!」

「やぎゅ「私を傍にいさせてください」

再び、ギュッと抱きしめられる。
困るのに、そんなことされたら……私は君を縋りつくしかなくなる。
遠くでゴロゴロと聞こえてくる雷鳴に瑠歌は、ギュッと柳生の制服を握った。
強く握られたのか、柳生が少し離れた時、瑠歌はすかさず柳生の口唇を塞いだ。

(ならば、利用させてもらうしかない)

例え、この行為の意味が彼に分かったとしても、意味はあってないものだから。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ゴロゴロと鳴る雷鳴に華月さんの掴んでいた手が強まるのを感じた。
雷が苦手なのかと気付き、昨夜も雷が鳴っていたのを思い出す。
様子をみようと身体を離した瞬間、ネクタイを引っ張られ口唇に柔らかいものがぶつかる。
眼を見開くと眸を閉じた華月さんの顔が目の前にあった。
離そうと肩を押したものの、すかさずまた口唇を塞がれ、舌が絡まった。

「なっ、なにを」

「今は黙って…」

「……っ、」

「ん…ふ…」

絡まる舌に頭がボーッとする。
このままでは止まらない、と思ったその時、ジリリリリリリとけたたましい音が鳴り響いた。

「……非常ベル…?」

呟いた瞬間、ハッとして華月さんの手をギュッと握り、そこから歩きだした。

「柳生くん!?」

「何かあったのかもしれません、急いで昇降口へ行きましょう」

「え、待っ」

鳴り響くベルが不意に止まり、一瞬シーンとした後、それほど校内に残っている者はいないはずだが、どこからか騒めきが聞こえるような気がする。
階段を華月さんの手を引きながら降りていると、ピンポンパンポンと校内放送のチャイムがなる。

「只今の非常ベルは生徒の悪戯によるものです。慌てないで下さい」

アナウンスが響き、どこかホッと胸を撫で下ろした。

「もうすぐ下校の時間です。校内に残っている人は下校なさって下さい」

次いで下校のチャイムがなる。
私は傍らの華月さんを見てから、口を開いた。

「一緒に帰りましょう」

「……」

「鞄を持って来ますので、玄関で待っていて下さい」

「……」

「きちんと送ります」

何も言わない華月さんだったが、雷鳴の中、一人で帰るはずもないだろうと教室へと向かう。

(──だけど、あのままだったら私は……)

紳士ではいられなかった、はずだろう。
洩れる吐息に身体が熱を持ったのは確かだ。
今となっては、非常ベルが鳴って良かったのか悪かったのか、それさえも判別出来ない程に私は彼女に溺れてしまったのだろうか。
窓の外で降り止まぬ雨を見つめた後、鞄を取りに教室へと向かった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


昇降口にはもう生徒の姿はないといっていい程ガランとしていた。
ザーと降り止まぬ雨を眺め、なぜここで彼を待っているのだろうかと考えると可笑しくて不思議だった。
雷は遠くへ行ったようだし、さっきの事はなかったことにして、先に帰ればいいのに……そう思いながらも足が動かなかった。

(……私の存在など、あってないようなもの)

この世界に来てから、神と名乗る人物から一からやり直せと言われても、自分が異端者であることに違いはない。
なぜ、私を助けたのだろうか……。
あのままであれば、私は“カレ”に会えたかもしれないというのに、見知らぬ世界に来て、見知らぬ肉親を持ち、本当の名前を捨てられて、なにを喜べというのだろうか。
そして今度は自分に好意を向ける人なんて……一体、何の試練なんだろうか。

──もう人を好きにはならない

あの日誓った事は、今でも覚えている。……だから、私に好意など寄せないで、柳生くん。
弱い私は、君に、委ねてしまうのが怖いから



頼りたいのに、委ねたいのに、そんなことは出来ない



To be Continued


あとがき


お久しぶりです。もう更新がかなり滞ってしまいました。
ちょっと、どういう話にしたかったのかを忘れてしまいまして(ダメ人間)
イメージが湧いた曲を聴きながらなんとか……という感じです。
これが高校生?と思うかもしれませんが、ヒロイン中身はかなりのお姉さまですので…でも優柔不断というかダメっぽいです(苦笑)

次の話もどうなるか、いつになるかは分かりませんが読んで下さってありがとうございました!


2011/06/30


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