異端者の嘆き

テニスの王子様

一緒に帰る道で、瑠歌は姿勢を正し歩く柳生を見上げた。

「どうかしましたか? 早いですか?」

「……大丈夫、気にしないで」

瑠歌は微苦笑をすると、傘を片手にまた家へと歩きだす。柳生の隣を。
ザーザーと降り続く雨は、いつもよりも気温を落とし肌寒い。
雨は嫌いだった。雷を連れてくるから。いや、雷が嫌いなのか、雨を連れてくるから。
傘を弾く雨音を耳にしながら、瑠歌はそんなことを考えていた。
以前の、此処に来る前の事も思い出す。まだ自分はあの時の事を忘れてはいない、いや忘れられないのだ。

雨は嫌いだ、大切な人を奪っていくから。

鳴り響くスリップ音、激しい雨の中に響いた鈍い音、耳に響く悲鳴、雨に流される赤い水、赤いサイレン、遠巻きで眺める騒ぐ人々
あの日は───


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「凄い雨だよね」

「濡れるぞ」

傘から手を出して、雨を受けるがあっという間にびしょびしょに濡れてしまった。
彼の濡れるぞ発言なんて遅いくらいで、私は苦笑しながら雨足の強さをしみじみと眺めた。

「早く行こう、みんなが待っている」

「分かってるよ。岡ちゃんが入って5年かぁ〜。始めの頃は泣いて泣いて大変だったよね」

「そんなの、誰だってそうだろ。特に俺たちみたいなのには」

「そうだね……でもアンタは泣いてたりしなかったよね」

「俺はもう中学入ってたしな。ん? じゃあお前も泣いた訳?」

「当たり前でしょ、私はアンタとは違って繊細ですから」

「お前が繊細ぃ〜?」

「うるさいなぁ〜」

頬を膨らませた私に彼は眼を細めて、頭を撫でてきた。

「な、なによ…」

「そうだよな〜、雷が怖いつって、俺の部屋に突進して来るくらいだもんな」

「そ、それはっ!」

「俺を奪っちゃうし……お前、怖いな」

「なっ、アレはアンタがああした方が分からなくなるって言ったから!」

「はいはい。唆した俺も悪かったけどさぁ〜」

「……な、なによ…」

「他のヤツとかにはするなよ。雷が怖いなら俺の所に来い」

傘を持ってる手とは反対の手で腕を掴まれる。
真っ直ぐ向けられてくる眼差しに胸がドキドキする。

「あ、当たり前でしょ! 他に、なんて……あり得ないよ…」

「そっか、よかった。他のヤツなんかにお前渡したくねぇし」

「へ?」

「ん?」

「…………なんでもない」

顔が熱くなるのが分かる。
傘で顔を隠そうとしたけど、彼はニヤニヤ笑いながら覗いてくる。
恥ずかしいのに、馬鹿!

「は、早く帰ろう! 先生たちも待ってる」

「おう」

信号を渡ろうとした時、キュルキュルキュルと音がした。なんだろうと右側を見たら、車が突っ込んで来た。

「────っ!」

彼の、私の名前が呼ぶ声がしたと思ったら、ドンッと背中を押され私は前方へと倒れた。
持っていた傘が転がり、パーティー用の荷物がグシャと車に潰される。
途端に上がる悲鳴、土砂降りの雨、そして、雨に流されて目の前にある赤い水、地鳴りに似た音と閃光が耳と目に入る。が私には訳が分からなかった。
周りの人々がザワザワと騒めき、何人かか駆け寄ってくる。
パーとか、プーとか車のクラクションが鳴っている。
誰かか大丈夫か?と声を掛けてきていたが、私はただ目の前で倒れている彼を見つめていた。

「……、え」

何、これは何が起きているの?

誰かか彼に呼び掛けるが、彼は何も言わない、喋らない。
虚ろな目がどこを見ているのか分からない。

「あ……あ、あ、あ……い、嫌ああぁぁぁ!?」

そこからは何がどうなったのか、記憶は定かではない。
気付けば病院にいた。先生に肩を叩かれ、大丈夫かと聞かれたけど、彼の事を聞いたら、困った顔をしていた。
そして、彼は戻ることはなかった。好きだったのに、愛していたのに、彼は居なくなってしまった。
私達の家からも、私の前からも彼は消えてしまった。
もう雷が怖くても抱きしめてくれる人はいなくなってしまった。

「あ……あああ……」

枯れることがないのか、涙がいつまでも流れてしまう。
もういない、彼はいない。永遠に私の前から消えてしまった。

暫くして私は成人し、施設を出た。
なんとか就職した先で、黙々と仕事をこなした。こなしたといってもただのOL。お茶汲みにコピー、後は資料作りと大した仕事をせずに生きていた。
上司から見合い話を持ってこられ、何も考えずに受けた。
見合いした相手は普通だった。ただ普通、いや普通が何か分からないけれど、プロポーズされ、そのまま受けた。
彼の真意は分からない。好きだの、愛してるとかも言われていない。
義務的な感じで互いに結婚することを承諾した感じだった。
それでもいい人だったのだろう、だが、それも壊れた。
私は死んだ。それなのに、なぜ此処にいるのだろう。
彼の傍に逝けたかもしれないのに、あの不可解な手紙は手違いといって私を此処に連れてきた。

誰がそれを望んだというのだ?

真名を奪われた私

もう何処にも私の居場所はない

私は異端者なのだ

それなのに、彼は……私を好きだと言う……

隣にいる柳生を見つめ、瑠歌は困ったように、眼を伏せた。
私は怖いのだ……変わってしまうのが。
きっと変化を恐れている。


神と名乗るあの人は、私に何を求めているのだろうか──




To be Continued



あとがき

半年ぶり、といったところでしょうか?
もう本当に更新が滞りまして申し訳ございません。
半年ぶりとなると何をどう書いているのかさっぱり分からなくなるというとんでもない状態です(苦笑)
見直さないと分からない状態でもあり、彼女の過去を一部?出してみました。
ここからまた書いてみたいシーンまでの中継がまた色々悩みながら書くことになりそうです、また遅くなりそうです。本当すみません。

では遅くなりましたが、お読み下さりありがとうございました。


2011/12/10


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