アンコール

テニスの王子様

 なにが起きた?

ずくずくと痛む身体を押さえながら、眼を覚ました場所は見知らぬ部屋。
しかも殺風景、というより空き部屋だ。家具もなにもない。
どこかに不法侵入したのだろうか、と恐る恐る窓際へ行くとまたしても信じられない光景が。
かなり見晴らしのいい景色、遠くに海の水面がきらめいている。

「……っ、なに、どこ…」

こんな景色見たことない。
ううん、そもそも私が住んでいた場所で海はかなり遠い。
頭を整理させようと、目が覚めるまでの事を思い出そうとする。
そうだ、昨日は式場を見に行ったんだよね。
婚約者と一緒に式場を見に行き、段取りやら、なんやらを決めて……そして、……何が起きた?
そこを思い出そうとすると頭に靄がかかる。なんだ、何が起きている?
前髪を掻き上げて、混乱しているのを落ち着かせようとしながら、部屋を見て回った。
キッチンはIHヒーターでやたら広い。ダイニングリビング、申し分ないくらい広い。
リビングに続くように広がる和室は六畳。トイレもお風呂も広々としているし、廊下を出れば、ドアが2つ。
覗けば、そこそこ広い洋室が2つだった。
あまりにも綺麗で広くて羨ましい。
新居は婚約者のお祖母さんだか小母さんだかが使っていた古い民家の予定だったからこそ、新生活に(多少なりと)夢を見ていただけにこの部屋は羨ましい。
が、これは不法侵入だろう。見つかる前に出なくては、と玄関へ急いだ。
その時、違和感を感じていたことを思い出して、作り付けのシューズボックスにはめられている姿見を見て、息を飲んだ。

「……え、ちょ、……なに、これ…」

おかしい、おかしすぎる。
何故、鏡に映る自分がこんなに若いのだ?
どうみても半分近く、つまり高校生くらいにまで若返っている。
鏡の中の自分はあまりにも異質になっていた。
ドンッと身体が壁にぶつかる。
なんだ、一体全体何が起きているんだ?
と、そこにシューズボックスの上に置かれた紙袋に目がいった。
中身をみれば、使っていた財布と携帯、それに茶封筒があった。
ざわざわとなる心を落ち着かせ、それを見るのが怖いと思いながら、茶封筒を逆さまに降った。
バサバサと落ちてくる書類、通帳、鍵、カード類。
一体なんだ?とカードを拾う。
そこに書かれている名前に、眼を見開いた。
知っている名前、でも自分の名前ではないが、自分だった。
通帳も保険証も、そして書類も本名ではないが、自分が使っていた名前だった。
カチカチと携帯を弄れば、データもなにもない。唯一自分のデータはあるが、そこの名前も本名ではなかった。

「……なんの、悪戯よ…」

呆然と眺める書類などとは別に、白い封筒があるのに気づいた。
ドクンドクンと鼓動が早くなる、見てはいけないような気もしながら、此処がなんなのか、自分は一体どうなっているのか気になった。
震える指で封を切り、四つ折りにされていた手紙を広げ読んだ。

「っは、……あはははは…な、によ、これは……」

──様

この手紙をお読みになられている今は大変、混乱しているかと思われます。
率直に申し上げます。
貴方は、式場の打ち合わせ中に乱入してきた女性に刺され亡くなりました。
ですが貴方の寿命はその時尽きる予定ではなかったのです。
しかしながら既に身体は火葬され戻ることは出来ません。
それにより別次元へと連れてきました。そこで寿命が尽きるまで生きて頂くことになりました。
お詫びとして貴方が生きていく為の生活保証、新たな気持ちでと思い多少若返らせて頂きました。
そこで貴方は『華月 瑠歌』として生きていくことになります。
ご健勝、ご健闘をお祈りしております。


あまりにも信じられない内容に笑いが込み上げる。
一体、何の冗談だ?

「は、刺された? なんで私が…?」

無意識に腹部を触ったのは何故なんだろうか、一瞬触ったところが熱くなった気がした。
それに──

「別次元、って……」

漫画や小説、映画じゃあるまいし……。しかも若返ってって……。

「くっ……くくっ…あはははは…………ははっ…」

ぽたぽたと温い水滴が手のひらに落ちて来た。

「……死んだのなら、そのまま死なせてくれたらよかったのに……そうしたら…」

どんなに楽だったろうか……。小さな呟きとともに、彼女は顔を覆った。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一体、どのくらい時間が過ぎたのだろう。
気付けば、玄関先で泣き疲れて寝ていたらしい。子供みたいで少し自己嫌悪してしまう。
散らばった書類などを手にし、リビングへと向かった。
何もない床に座り込み、書類を広げ、読み出して、とある文字に眉を潜めた。
入学案内らしいが『立海大附属高等学校』

「……入学って……高1ってこと?」

他にも色々と見ていく。
名前以外はほぼ自分自身と変わらない。

「しかし、なんだってこの名前に……」

華月 瑠歌──これは私の別の名だ。
違和感はないといえばないが、本名とは全く違う。
そんな事を考えていると、ぐ〜と音がなった。

「…………はぁ…」

人間こんな理解出来ない状況だとしても、欲望には勝てないようだ……。
そう思い、彼女はため息をつくしかなかった。

どうやら、この世界で私は人生をやり直さなければならないらしい。

そう思い、財布を片手に外に出たのだった。それが始まり。


人生をもう一度...
なんて望んでいない



To be Continued


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