青春コンプレックス

テニスの王子様

あの不可解かつ不愉快な出来事から一年経過し、私──華月 瑠歌は与えられた人生をもう一度過ごしていた。

「おはよう、瑠歌ちゃん!」

「おはよう。中嶋さん」

入学した「立海大附属高校」は中、高、大の一貫教育校でマンモス学校だった。
ほとんどの生徒が内部進学、私は外部受験だったようで、学校に馴染むのに少々時間が掛かった。
こんな学校があるのか、と驚きつつももっと驚いたことがあった。
この学校は部活がどの部も力が入っているらしく、中でも男子テニス部は群を抜きいていた。
強いだけではなく、レギュラーたちがみんなイケメンらしく、部活だというのにファンクラブまであるからだ。瑠歌から見ても異常としかいいようがなかった。
アイドル化している生徒を見るなんて瑠歌の人生の中では初めてだったが、関わる気もないし、見た目が若くなっていようが中身は既にアイドルなどにきゃあきゃあ言うような年でもない。

「むぅ〜、また『中嶋さん』っていった。中嶋じゃなく美姫って呼んで!」

「…………美姫さん」

「さん付けもイヤ! 美姫って呼び捨てでいいよ」

「…………」

ぷうっと頬を膨らませているのは、中嶋美姫さん。
1年の時に同じクラスになり、今年も同じクラスになったクラスメイト。
美しい姫、だなんて普通名前負けしてしまいそうだけど、彼女は名を表すかのように美少女だった。
平凡かつ良くも悪くもない外見の私といるなんて、不思議で仕方ない、周りが言うには私は引き立て役らしい。
一緒にいることを訊ねてみれば、「瑠歌ちゃんが気に入ってるから」と微妙な返答が来る。

「あっ、瑠歌ちゃん。放課後暇? 暇なら部活見に来ない?」

「放課後?」

「うん!」

暇といえば暇だが、今日は買い物をして帰らなければならないから……。

「すみません、用事があるの」

「えー……そっか、残念」

ショボンとする姿も可愛らしい。流石、美少女。どんな表情も絵になる。
そういえば、いつも誘って来るが彼女は何部なんだろうか。

「そういえば……」

「ん、なに?」

ポツリと呟いたのにも関わらず、彼女は身を乗り出すかのように訊いてきた。

「美姫さんは、何部なんですか?」

その言葉に何人かがこちらを見たが、あまり気にしなかった。
美姫は驚いた後、にーっこりと笑って答えた。

「テニス部だよ」

美姫の返答に瑠歌はテニスをする彼女の姿を思い浮かべ、似合うな。と思ったのは無理がない。
少しだけならいいだろう、と思い瑠歌は「そうですか」と返しただけだった。
まさか、美姫が男子テニス部のマネージャーだとは知らずに。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


放課後、部活があるから!と去っていく美姫を見送りながら、瑠歌はカバンに荷物を詰めた。
時計を見ながら、少しならとテニスコートへと足を向ければきゃあきゃあと黄色い声が。

「…………青春、だね…」

あんな必死に声を上げられる少女たちを眺め、ポツリと零れたそれはどこかバカにしているような、羨んでいるようななんとも言えない声音。
人生をもう一度やり直し、と言われてもあんな風に熱心にはなれないと思っている。
あの年代だからこそ、夢を見る。永遠なんて何処にもないというのに。
それを知ってしまっている自分はあんな風に恋だのなんだのと、今更酔うことは出来ない。
恋愛と結婚も違うということも知っているからこそ。

「瑠歌ちゃん?」

ぼーっとしていると横から声を掛けられた。
振り向けば、ジャージを着てテニスボールの籠を持っている美姫の姿があった。

「きゃーっ! 見に来てくれたの? 美姫嬉しい〜!」

「……ちょっと、時間があったから。でももう帰るよ」

「えー、もっと見ていって欲しいな」

「ごめん、寄るところあるから」

4時のタイムセールがあるし。
そう心の中で呟くと、渋々美姫は制服の袖を離した。

「じゃあ、部活頑張ってね。また明日」

そう言って手を振り、瑠歌は歩いていってしまった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


校舎の脇を歩いていると、曲がり角でドンっ!と人にぶつかった。
どうやら走っていたらしく、瑠歌は突き飛ばされてしまった。

「……いた…」

「ゲッ、わ、悪ぃっス! 急いでたもんで…」

「い、え……大丈夫ですから…」

顔を上げればモジャっとした髪の少年がいた。

「本当に大丈夫っスか?」

頷きながら、立ち上がりパンパンとスカートの埃を払い、「大丈夫だから、行っていいよ」と告げれば、「やべっ!」と走りだして行ってしまった。

(……アレもまた青春よね…)

部活に走っていく、だなんてどれだけ好きなんだろうか。

「……私には到底真似出来ないわ…」

枯れた発言だろうが、疲れてしまう。という感情が大きすぎて、楽しむということはのんびりすることしかなかった。


コンプレックスの塊、ではあるかもね。



To be Continued


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