距離を保つ難しさ

テニスの王子様

買い物をして帰るとメールボックスに切手のない封筒があるのに気づいた。
はぁ、とため息を吐いて瑠歌はそれを持ちエレベーターに乗った。
カチッ、と鍵を開け中に入った。リビングに入り、テーブルに手紙を置いてから買ってきた物を冷蔵庫へとしまう。
ついでに水を取出し、口に含んだ。ごくん、と冷たい液体が喉を通過する。リビングに戻り封筒を眺めた。
ビリビリと封を破き、手紙を取り出すと一瞥する。
相手はこちらの世界での後見人で、学校生活はどうだ、などの内容だった。
一年前のあの日から暫らく経った後、この後見人が現れた。
前と同じでそんな人物いないだろうと思っていた瑠歌にとってはかなり驚いたものだった。
彼の立場は瑠歌の母親の異母兄で伯父であるらしい……。家はかなり裕福らしく、事業やらなにやらしていると聞く。
母は愛人の娘だったらしく、実母が亡くなってからは父に引き取られたものの、正妻によって苛め抜かれたらしい。昼ドラかよって思ったのは言うまでもない。
その息子が、今の瑠歌の後見人──名前は榊 太郎。現在は教師をしているとか言っていた。
母の兄である彼は、母を大層可愛がっていたとか、実母が異母妹を苛めているとなにかしら助けていたと執事の人が言っていた。
母が家出をした後もなんだかんだと支援していたという。
こちら世界の両親の葬儀は彼が行ってくれたらしい。もっとも『私』は知らないが。『瑠歌』は当時入院中だったらしい。
なんにしろ彼は瑠歌の伯父という立場なのだ。
瑠歌は携帯を取り出し、カチカチと操作した。後見人である彼に『元気です。なんの問題もありません』とメールを打った。
そして自室に行き、余所行きの服を見繕う。こんな手紙が来て、返事をすれば大概外食へ連れて行かれるからだ。
ドレス、とまではいかないがワンピースを選べば、プルルと電話が鳴る。

「もしもし、瑠歌です。──はい、はい? 駅前、にですか? いえ、大丈夫です。6時に駅ですね、分かりました」

プツ、と電話を切り、時計を眺めた。時間まであと一時間はある。
駅までは歩いて10分程度、支度をしお茶を飲む時間はあるな、と瑠歌はゆっくりすることにしたのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ガヤガヤと賑わう駅前は立海生や他の学生、社会人などが多く行き交う。
こんな場所で車を待つのは些か面倒だった。だが、今回は駅の近くに用があるらしくそれで駅前になった。
瑠歌はノースリーブのワンピースの上に薄手の上着を羽織り、本を片手にベンチに座って待っていた。

「瑠歌ちゃん!?」

名前を呼ばれ、顔を上げればそこには先ほど別れを告げた美姫の姿があった。

「美姫さん。あぁ、部活終わったの?」

時計を見ればまだ6時前「早いね」と告げれば、学校の都合で5時には終わったらしい。

「ところでどうしたの? すっごく可愛い格好だし、デート?」

「いえ、伯父さんと食事に行くだけです」

「えー、つまんない」

何がつまらないのかは分からないが、瑠歌は肩を竦めて苦笑するしかなかった。
と、そこで美姫の後ろの方にテニスバックを持った少年たちがこちらを見ているのに気づいた。
その視線に気づいたのか美姫は彼らを見て

「あ、私の部活の仲間。紹介するね! おーい、みんな〜」

呼ぶ声を聞きながら、瑠歌は疑問に思った。
美姫はテニス部で…でも彼らは男子。あれ? おかしい……と思ってる間に彼らは目の前にやって来た。

「瑠歌ちゃん、紹介するね。男子テニス部の」

「部長の幸村 精市です。よろしく」

「副部長を努めている真田 弦一郎だ」

「柳 蓮二だ」

「柳生 比呂士です。よろしくお願いします」

他にもいたのだがゲーセンなどに行ってしまったらしい。

「……美姫さんって、テニス部の…」

「マネージャーだよ」

ふふっと笑う顔はやはり美少女だった。周りの人間が立ち止まって見ているくらい。
他にも彼らがいるせいかもしれないが。

「そうだったの。てっきり女子テニス部かと勘違いしてた。──初めまして、華月 瑠歌と言います」

人気のある男子テニス部だけにあまり関わりたくはなかったのだが、仕方あるまい。
そんなことを思いながら、瑠歌はペコリと頭を下げて、彼らに挨拶をした。
彼ら──男子テニス部を間近で見たのは初めてだが、なるほど皆顔がいい。
こりゃ、若い子たちが夢中にもなる訳だとおばさんくさく納得してしまった。

「華月さんは部活には入ってないのかい?」

いきなり、幸村くんという儚げな美青年に聞かれ、「はい」と頷いた。

「そうか……」

何か考えるように黙ってしまったが、瑠歌は気にする様子もなく車道を眺めていた。
向こうの信号で止まる一台の見覚えのある車に気付くと、瑠歌は再び彼らを見た。
真っ直ぐな黒燿石のような眸は彼らからすれば珍しい眼差し。

「連れが来たようですので、それでは。美姫さん、またね」

「うん、また明日ね」

「はい」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そう言って会釈をし、少しヒールのある靴で駆けていってしまった女性。
彼女の前に高級車が止まり、彼女はその助手席に乗り込むと何事もなかったように車は走り去って行った。
それを見送り、彼らは呟いた。

「ああいう視線は久しぶりだな」

「ええ、そうですね」

毎日、人にもよるが下心ある眼差しを受けている。好意は嫌ではないがそれが限度を越えたものとなると煩わしい以外なにものでもない。
だが、彼女は違う──そんなことを各々確信してしまうのだった。


干渉を赦してくれるだろうか



To be Continued


-4-

キミがいるだけで top