理由なんて、必要ですか?

テニスの王子様

『私と友人になってくれませんか?』

いきなりの言葉になぜ、どうして?と疑問が浮かぶ。
一体、この人は何を考えているのだろうか?

「あの、」

「はい」

「手を放してくれませんか」

「これは、失礼しました」

「いえ…」

ようやく離れた手の温もりが消え、手首を見ればほんの少し赤い。
そんな強く握られた訳でもないが、意外に肌は弱いのかもしれない。

「……」

「……」

「華月さ「なぜ、ですか?」…え?」

暫くの沈黙の後、彼が何かを言おうとしていたが遮ってしまった。

「なぜ、私と友人になりたいのですか?」

彼とは美姫(こう呼ばないと怒られた)を通じて、自己紹介したたげの知り合いにもならない間柄だ。
一言くらいしか交わしたことがないのになぜ友人になりたがるのだろうか。

「それは……」

「それは?」

「それは──」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


美姫さんに紹介された華月 瑠歌さんは他の方々とは違うような方でした。
私が所属している男子テニス部は中学の頃から有名でもありました。
中でも幸村くん、真田くん、柳くんというとても強い方々が中心となり、全国2連覇、全国大会準優勝を獲ったことがある王者と呼ばれている名門校。
しかも皆さんおモテになるので、練習中でも女生徒からの声援は絶えません。
そのせいでしょうか、こういってはなんですが大半の女生徒がテニス部に近づこうと躍起になっていて、少々苦手になってしまいます。
例外でいうならば、同じ部のマネージャー、中嶋 美姫さんはお付き合いしている方が大学部にいるせいか、我々には興味がないようで信頼しています。
その彼女が仲良くしているという彼女に会ったのは数日前。
駅前のベンチに座る彼女は私たちを見ても、どうでも良さそうにずっと違う方向を見ていた。
自己紹介も簡潔で仲良くしたいという気持ちもなかったようでした。
車で去った彼女を見ながら、柳くんが「ああいう視線は久しぶりだ」といったのは覚えている。
媚びなど一切ない真っ直ぐとした眼差しは久しぶり過ぎたから。
それでもまだ警戒はしていた。
たまたまああだっただけで、学校ではまったく違うかもしれないからだ。が、予想を反して彼女はすれ違っても話し掛けては来なかった。
まるで知らない、とでもいうように。
そうして、先日彼女の姿に心惹かれる出来事がありました。
何食わぬ顔でお婆さんにぶつかり、転んだお婆さんを一瞥した後去っていく男性。
お婆さんは買い物袋が破けたのか、物が辺りに散らばっていました。
助けなければ、そう思いながらも反対側にいたため、駆け寄ることも出来ずにいたらそこには華月さんの姿が。
どこか無関心な彼女は拾ったりしないだろう、そんな勝手な思い込みを無視するかのように、彼女は声を上げた。

『拾う気がないなら避けなさい!』

そうお婆さんの不可抗力とはいえ散らばった物を踏むという輩に彼女はそう言い切った。
それには踏んでしまった方もバツが悪そうで、すみませんと謝っていた。
彼女はその後拾うのを手伝うと、エコバッグなのかそれに破けた買い物袋を入れてあげ、荷物を持ち、一緒に歩いていく姿がありました。
その意外な光景に、驚きで動けなかった自分が恥ずかしく思えて仕方ない、だが彼女はなんて優しいのだろうと惹かれてしまった。

「それを見て……あなたがとても親切な方で、友人になりたいと思ったからです」

「……」

「それが理由、ではいけないでしょうか?」

経緯を話せば、少し照れたように「そう……」と呟く彼女。
なんだか微笑ましくて、こちらも口元が緩みました。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


まさか、誰かに見られていたなんて。そう思うと少し恥ずかしく思えた。
これが10年以上前、学生の頃の私ならば、絶対そんなことはせずに通り過ぎていただろうが……年を取るにつれそうしたことをするようになっていた。
謂わば条件反射のようにあのお婆さんを助けていた。
別に誉められたいとかあった訳ではないので、誰にも見られたくはなかったのに。

「そう……」

「はい」

「…………」

だからといってこの人と友人に?
きちんと調えられた髪、しっかりと着ている制服、加えて物腰柔らかそうな態度。紳士とか呼ばれていたっけ?
モテない訳がないだろうに、こんな人と仲良くしていたら、要らぬ誤解を受けそうな気がしてならない。
しかしそれを説明するのも面倒で……

「好きにすればいい…」

そう言って私は学校へと歩き出していた。しかし呼び止められる。

「あ、あの……華月さん?」

「なんですか?」

名前を呼ばれ振り向けば、思いがけない笑顔と──

「改めて、よろしくお願いします」

そう言って握手を求めるように手を差し伸べてきた。
ジッとその手を見、彼を見上げた。爽やかに笑う姿に、頭の中に過る姿。
何処かで見た光景……既視感を得ながら、その手を握り返した。

「……2年3組、華月 瑠歌です。……えーと、」

「2年1組、柳生 比呂士です。よろしくお願いします」

「よろしく、柳生くん」

握った手は大きくて、昔を思い出させた。もう、男なんてこりごりなのに……。




本当は……
理由なんてどうでもよかった



To be Continued


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