眸が語ったあなたの願い

テニスの王子様

「とりあえず、この部屋を使って」

リビングから続く和室に通され、華月さんが押し入れを開け放ちながら、言葉を続けた。

「布団は新品だから、気にせず使って。今シーツも出すから」

よいしょ、と上段から布団を取り出そうとしている華月さんに慌てて近寄った。

「私が出しますから」

これ以上、お世話になりっぱなしも申し訳なく、私は布団を取り出した。
客人用だという布団は確かに新品で袋に入ったままだ。

「布団カバーもあるから、着けましょう」

ダークグレーの布団カバーなどを引き出しから取り出し、布団の端を持って紐を結び、カバーをかけていく。

「す、すみません。何から何までお世話になってしまって」

「……気にしないで。困った時はお互い様だから」

「……ありがとうございます」

お礼をいうと顔を上げて、気にしないで。と彼女は笑った。
トクン……と胸が高鳴る。
バサッという音にカバーを付け終えたのだと分かった。

「制服は明日には乾くだろうから、それ着て寝ていいよ。じゃあ、おやすみなさい」

勉強後に二度目のお風呂をお借りした際にスウェットを手渡された。
なぜ、男物があるのか、激しく気になってしまい訊ねると女の一人暮らしとばれないように男物の洗濯物をたまに干しているらしい。
「まぁ、私を狙うなんて輩はいないだろうけどね」と華月さんは仰ってましたが、備えあれば憂いなし。と言いますし、良い事だと思います。
確かに女性の一人暮らしは危険ですから、防犯の為にそういったことは危険回避出来るかもしれません。
……誰かの物ではなくてよかったと小さくホッとした。

「本当にありがとうございます。おやすみなさい、華月さん」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


パラパラと窓を叩く雨音を気にしながら、瑠歌は寝室のベッドの上で寝返りをうった。

「……眠れない…」

こんな夜はさっさと寝てしまえば、気づかずに過ごせるのに、今夜は柳生くんがいるせいか、なかなか寝付けない。
確かに違和感はあるが、次の瞬間瑠歌は身を縮めた。

(……天気予報は当たったのか…)

ゴロゴロと唸るような轟音を聞きながら、瑠歌はギュッと眼を閉じ、両手で耳を塞いだ。

(……こんな時、アイツはどうしてくれてたっけ…)

この時は、いつも考える。
“此処”に来る前のずっと昔の事を頭の中で思いながら、次の瞬間には窓から漏れる閃光と雷鳴に共にそれらを忘れた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ゴロゴロゴロという雷鳴に眼を覚まし、いつの間にか寝ていた自分に驚いた。
緊張して眠れないと思っていたが、部活や思いがけない出来事に疲れていたようだ。
新品の布団はまだ何の匂いもせず、自分が匂いを残すかと思うと苦笑してしまう。
だが、彼女の家の物に自分の痕跡を残せるのは嬉しいような、微妙な感情が沸き上がる。

「……私らしくありませんね」

紳士として振る舞っているのに、時折感情は紳士として相容れないモノになってきている。
そんな事を考えていると、外の雷鳴や雨音は激しさを増している、ふと小さな嗚咽が聞こえた気がした。
疑問に思い、枕元に置いてあった眼鏡をかけて起き上がると襖を開いた。
広がるリビングは雷の閃光で時折影が伸びている。

「……?」

どこか気になった柳生は廊下への扉を開け、瑠歌の寝室へと足を向けた。
寝ているかもしれない、と思い控え目にドアをノックした。

──返事はない

だが、琴線に引っ掛かる何かに声をかけた。

「夜分申し訳ありません、華月さん? 起きていらっしゃいますか?」

「……っ…」

何か聞こえ、もう一度声を掛けるが、聞き取れない。
紳士として遅くに女性の寝室に入るのはあるまじき行為ですが、泣いているように思えたのでドアを少し開けた。
閃光が暗い室内を時折照らし、ベッドの上に布団が盛り上がっていた。柳生はドアを一気に開いた。

「華月さん!? どうかなされましたか?」

慌てて近づくと、布団の中で蹲っている瑠歌の姿に、上げた顔に柳生はドクンッ!と心臓が鳴った。
涙を耐えたのだろうが、それでもボロボロと伝い落ちている涙の跡。
不安そうな表情はいつもの瑠歌からは想像もつかない姿だった。

「華月…さん…?」

一体何が?と思った刹那、ドドーン!と大きい雷鳴と共にギュウッと華月さんに抱きつかれた。
雷はまだゴロゴロと鳴っていて、腕の中で小さく震える華月さんがやたら可愛らしく見えた。

「……大丈夫ですか?」

不安がらないように髪を撫で、問い掛けると、涙に濡れた眸がこちらを向いた。

「……───、──」

「…え、っ!?」

口を開き、何か呟いたと思えば、いきなりの口付けに驚愕してしまう。
離れさせようとするがこういう時どのような力が働くのか、ギュッと抱きついて離れようとしない。
濃厚な口付けと密着する身体、それが好きな方とあれば、理性が崩れるのは時間の問題。
またカッと閃光が部屋を射して、涙目の彼女を見た瞬間、ベッドに押し倒していた。



貴方が言ったんです「抱いて欲しい」と




To be Continued


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