09

テニスの王子様

夜、お風呂から上がり部屋に戻ると机の上に置いてある携帯がチカチカと光っていた。

(メールかな?)

そう思いながら、タオルで髪を拭いて、乾かしながら携帯を開いた。
やはりメールで、送信者は不二くん。内容は決勝進出の話だった。

「やった! 決勝なんだ!!」

これは応援に行かなければ!と返信しようとメール作成をしていたら、携帯の振動と共にメロディが鳴った。
【着信:沢渡楓】

「楓ちゃん?」

疑問を抱きながらも通話ボタンを押して「もしもし」と口に出した。

『こんばんにゃー、彩香。今大丈夫?』

「楓ちゃん? 大丈夫だけどどうかした?」

『うん。あのね、もうすぐ夏休みじゃない? んでもって、9月には海原祭があるから、部活のことでね──』

部活の連絡事項なのか、夏休みの間に色々準備などするという話から、次第に世間話にもなっていった。

『そういや、手塚くんの調子はどう?』

「うーん、色々検査したり、リハビリしてるみたい。あまり電話はしてこないから、ちゃんと把握出来てないけど……」

メールで連絡を寄越してはくるけれど、文字だけと話すとは違う。きっと、辛いのだと思う。
歯痒くて、苦しくて。でもそれを他人に見せない国光が私は痛々しくて堪らない。

「そっか……。そうだ、テニス部と言えば、来週の決勝戦は立海(うち)と青学なんだってね」

「えっ、そう、なの…?」

『うん。弦がそう言ってたよ。もう煩いっての。やれ青学たるんどる! とか、手塚たるんどる!ってね。余りにも煩いし、手塚くんに対して失礼極りないこと言ったから、蹴り入れておいた』

「えぇっ!? け、蹴りって……大丈夫なの?」

『平気、平気。手塚くんだって好きで怪我した訳じゃないのに、二言目にはたるんどる!って煩いから、アイツは』

「……」

『あ、来週なんだけどさ、どうする? 応援に行くの?』

「う、うん。行こうとは思っているんだけど、相手が立海(うち)だとなると……困ったな…」

基本的に応援に行く時は制服着用が義務付けになっている。
相手が立海ともなれば、同じ学校故に立海側にいなくてはならないだろう。

(……でもなぁ…)

何時だって応援しているのは青学の方で、うーんと悩んでしまう。
別に立海(うち)のテニス部が嫌いという訳ではないし、自分の学校が勝ったりするのは嬉しいけど、馴染んでいた青学が相手となると、気持ちは青学に寄ってしまう。

(立海のテニス部もちゃんとした知り合いは桑原くん位だし…)

「──、彩香? 彩香〜?」

「あっ、ごめん。なに?」

つい考え事をしていて、楓の話を聞いていなかった。
それを察した楓はため息をついてから、苦笑したように言い放った。

『彩香は彩香の応援したい方を応援すればいいよ』

「楓ちゃん……」

『いくら同じ学校でもさ、無理する必要はないんだから。そりゃ学校関連のことだから、表立って相手校を応援するのは微妙かもしれないけど、応援するのは個人的なものでもあるよ。
 私だってこれで手塚くんと弦が試合するなんて聞いたら、どっちも知ってるから迷うけど結局は付き合いの長い弦を応援するだろうし。
 たまたま同じ学校なだけで、もし弦が違う学校で私の通う学校と試合があるっていってもさっき言ったのと変わらないと思うしね』

「……そっか。なんだかありがとう、楓ちゃん」

『ううん、気にしないでいいよん。でさ、日曜に行くなら一緒に行かない?』

そう話す楓に彩香は、うん。と頷いたのだった。
その中で、差し入れを持っていく羽目になったから手伝って欲しいと言われ「それが本題だったの」と電話口で言われて、思わず笑ってしまったのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「とりあえず、練習はしなきゃいけないと思う訳よ」

「だからって、こんなに買うの?」

楓に日曜の決勝戦に持っていく差し入れの予行練習をすると言われて、スーパーに買い出しに来ていた。メモ用紙を見て聞いてみる。

「やっておかないと失敗した時にバカにされるじゃない」

「そこまでして食べさせたい人がいるの?」

もしかして好きな人?なんて思っていると、考えていたことが分かったのか凝視してきた。

「いっとくけど彩香が考えてるようなことじゃないわよ。ちょっとした勝負で負けてね、差し入れ持って来いって言われたのよ!」

仁王め!と苛々しげに言葉を吐く楓に彩香は小首を傾げるしかなかった。
ニオウ?って誰だろう、と思いながら歩いているとバタバタと走る音が聞こえてきた。

「なーに? 騒がしい──って、弦? 仁王?」

「……」

「おっ、楓じゃなか」

見慣れた制服を着た数人が走って来たと思えば、帽子を被った人は一瞥したまま走り去り、銀髪の人は立ち止まった。
他の人たちも走って行ってしまったが、誰かが『仁王くん!』と呼んでいたけれど、彼は先に行けと合図を送っていた。

「──なんかあった訳?」

「ああ、楓も付いて来んしゃい」

そう言うと銀髪の人は楓の手を引っ張った。

「ちょっ、なにすんのよ! 仁王! 彩香っ!」

「えっ!? か、楓ちゃん!?」

連れて行かれそうになるのを呆然を見ていると、楓に手を取られた。

「友達かの? まぁよか、アンタも来んしゃい」

彼はそう言って私まで引っ張って走りだした。
連れて来られた場所はテニスクラブ。意味が分からずにいると、騒めいているのが分かった。

「ちょっと、仁王! なんなのよ、こんな所に連れて来て!」

「赤也のヤツがちょっとな」

「はぁ? 赤也が何かしでかしたの?」

「なんでも赤目になって試合しとるらしいんじゃ」

「ちょ、こんなテニスクラブで!? なに考えてんのよ、あのバカ也はっ! 紫はどうしたの?」

「紫は用事があって連絡が取れんのじゃ。それよりも──」

ニオウと呼ばれてる彼から話を聞くが、彩香には訳が分からずにいた。

(……私、ここにいていいのかしら…)

どうやら彼らはテニス部らしい、が知っている桑原くんや、柳くん(覚えた)は見当たらない。
訳も分からずに私まで案内されて此処にいるけど、いいのかな?
キョロキョロしていると、眼鏡をかけた姿勢のいい人が話し掛けてきた。

「倉橋さん、でしたか? なぜここに──あぁ、楓さんが一緒に連れて来たのですね」

ちらり、とまだ言い合っている仁王くんと言う人と楓ちゃんを見て、言ってきた。
名前、誰でしたっけ?見覚えはあるんだけど。と顔に出ていたのか、眼鏡を押し上げ

「お忘れのようですね。3‐Aの柳生 比呂士です」

「ご、ごめんなさい! 柳生さん、ですね」

「いえ、倉橋さんは転校生とお聞きしてましたし、一学年多いですから仕方ありませんよ」

「す、すみません。あ、あの…私、ここにいていいのでしょうか?」

恐る恐る聞いてみるが、なにかあったらしく「すみません」と言って、テニスコートの方へと歩いて行ってしまった。
帽子を被った長田くんがギィとコートへと続く金属製の扉を開けると思いがけない人物が立っていた。
彼は、目の前の長田くんと睨み合うこと数秒後に意識を失ったのかドサッと倒れた。

「オイオイ赤也!こんな時期に何てことを!? それも青学の選手!?」

「可哀相に…至急病院へ連れて行くべきです」

「柳生…。よう見てみんしゃい」

見れば、彼はスピー、スピーと寝息を発てている。

「お、起きたまえ」

「リョーくん!?」

そう倒れこんで寝ていたのは、見慣れた青いジャージを着た、数年ぶりにあった、可愛い『弟』のリョーくんだった。

「彩香、知り合いなの?」

「う、う「さ、真田っ!!」……桑原くん」

楓に説明しようとすれば、扉から桑原くんが入ってきた。
「す、すまねぇ」と謝ったと思えば、帽子を被った人はパァァーンっ!!、と桑原くんを殴った。
ドサッという音と共に桑原くんはコートに尻もちをついた。

「ジャッカル…お前が付いて居ながら」

そう言い放つと彼はコートにいる人へと近付いていった。なんという威圧感。

「倉橋、彼を頼む」

肩を叩かれ、振り向くと柳くんがリョーくんを支えて立っていた。

「えっ、あ、はい……」

そう返事をした時、またパァァーンっ!と大きな音がして、振り向けば、『…くっ!』と座り込んでいた。
柳くんたちは彼らに近付いていき、注意をしている。

「切原くん…反省したまえ」

「ウチら立海大附属の成すべきは全国3連覇! けどな──」

「負けはいけないな」

「プリッ」

(…………プリッ?)

最後の言葉に小首を傾げた。

「負けてはならんのだ! たとえ草試合だろうとそれが立海大附属だ!!」

確固たる信念、負けを赦さない王者の掟、なのだろう。

「どう?」

楓ちゃんに聞かれ、横を向けば誇らしげな顔をしていた。
彩香は支えているリョーマの青学ジャージを見つめ、微笑した。
それに呆気に取られたようだが、彩香はまた笑う。

「凄いよね。───でも、私はそれでも信じてる」

「……彩香はそれでいいと思うよ」

「楓ちゃん……ありがとう」

ごめんね、とは言えなかった。言ったらダメなような気がしたから。

「……うぅ〜ん……」

「リョーくん?」

「スー…」

身動ぎをしたから起きたのかと思ったが、また寝息を発てている。
身長はやや低いが体重は同じくらいなのかもしれない、ズッシリと重い。
よいしょ、と支え直すと楓ちゃんにタクシーを呼んでくれるように頼んだ。

「タクシー?」

「うん、連れて帰らないきゃいけないけど、流石に私には無理だから」

「タクシーで東京まで送るの!?」

「ううん、とりあえず駅まで行ったら、リョーくんの家に連絡してから考えるよ」

「お前が、そいつを送って行くのか? 倉橋」

「え、──はい。長田くん」

「……」

「ぷっ……、あはは」

「楓ちゃん?」

黒い帽子を被った長田くんにそう言えば、隣にいた楓ちゃんが笑いだした。
それを見て、長田くんが震えているし、他の人も何か驚いていたりしている。

「彩香、そいつの名前は長田じゃなくて真田だよ。覚えてやって……くくっ」

「〜〜〜〜っご、ごめんなさいっ!」

楓にそう言われ、慌てて頭を下げたが、その後に耳に入った言葉は怒鳴り声だった。

「倉橋っ、たるんどるっ!!」

それでも起きないリョーくんは凄かったけど。
次に会うのは3日後──関東大会決勝戦。



To be Continued



あとがき

予想外に長くなってしまいました(苦笑)
訳が分かりませんね、すみません。
しかし夏休み、いつからなんでしょうか?7/27日ってもう夏休み中ですよね?


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