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テニスの王子様

「負けることが許されない王者・立海の掟──」

そう乾の言葉が終わらないうちに真田の鉄拳が柳に向かっていたが、両者の間に割り込んだのは切原だった。
ラケットを担いだ切原は、「13分台で終わらせりゃあ、幸村部長の手術に間に合いますって!」そう言い放った。

『これより関東大会決勝 立海大附属VS青春学園 シングルス2の試合を行います!!』

コート上には不二と試合を13分で終わらせるといった、切原がいた。
不二に対して挑発しているようだが、言われている本人は動じていない。

「何だアイツ、不二先輩を挑発してやがった!」

「アクシデントがあったとはいえ、不動峰の橘を倒した実力、おそらく不二と同等…いや、それ以上だ!」

桃城や大石の会話を聞きながらコートへと目を向ける。
少し胸がざわついてギュッと握り締めた。着ていたジャージに少しシワが寄る。

「不二くん、頑張って…」

呟いたそれが届いたのか、彼はこちらを向いてニコリと笑った。
切原からのサーブで始まるが、珍しく攻めているのは不二。
スマッシュの時、何故か切原が膝をラケットで守るようにしていた……不二は気付いているのかもしれない。
リョーくんの膝が切原くんにヤられたということを。

<0‐15>

『立海大附属の超エース、切原赤也をを攻撃で圧倒したっ!?』

『柳の敗北といい、どうなってるんだ!? ……とにかく、つ、強ぇぞ…──青学 不二 周助』


ザザザ、と風が吹き周りの声が聞こえてくる。
切原の表情に不敵な笑みが浮かんでいた。
確かに不二くんは強い、でも切原くんは立海大で唯一の2年生レギュラーだ。
国光が7人いるとまで言われている位の強者たち。
ちらりと立海側を見れば、時計を手にしている桑原くんとそのパートナーの赤髪の……丸田くん、だっけ?桃城くんや海堂くんは粘ったけれど、負けてしまった。
青学の黄金ペアと言われている大石くんと菊丸くんも、柳生くんと……仁志くん、の入れ替わりには驚いて試合が大変だった。
乾くんと柳くんの試合も凄かった……五分五分で、でも焦ってしまっていた。
そして、最後は『皇帝』と呼ばれている真田くん。国光は強いと言っていた。
見ていたのに気付いたのか楓ちゃんが指差しをしていた、そこはギャラリーの上。
彩香は頷くと階段を上がって行った。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なかなかやるね、青学」

そう話す楓に彩香は苦笑しながら、コートに目をやる。
コートでは切原の目が真っ赤に充血しているのに気づき、少し嫌な予感がした。

「でもああなった赤也は簡単には倒せないよ」

「……不二くんも強いよ…。ねぇ、楓ちゃん」

「なに?」

「今日、立海の部長さんの手術なの?」

「ん、あぁ。そういえばそんなこと弦一郎が言ってたっけな…」

楓がそう言った瞬間、ドゴォっ!という大きな音がして、コートに目をやると弾け飛ばされたラケットが、コトン…と地面に落ちた。
そして不二が座り込んでいた。

「不二先輩っ!」

誰かの声が上がるのと同時に、観客席の上から慌てて降りて、青学のベンチへと行った。

「不二くんっ!」

名前を呼ぶとそれに呼応するかのように、不二は立ち上がって落ちていたラケットを拾った。

「へぇ……」

感心したような、面白がっているような声を切原があげる。
対照的にベンチでは、一年生たちが驚きと不安の入り混じった声をあげていた。

「さすが不二先輩、うまく躱したんだよ。きっと!」

その言葉に本当に?と不安が過る。コートを見れば、竜崎先生が彼に寄っていた。
二人が何かを話しているのを見ながら、彩香は異変に気づいた。
竜崎先生が不二にボールを手渡そうとした時、彼はボールを掴めずその手は空を切っていた。

「…………っ!」

だが、彼はボールを取ったのか、踵を返し、サーブをしようと歩きだした。
先生も気づいたのか狼狽えているのが分かったが、不二は振り返った。

「この試合──この試合だけは、退く訳にはいかないんです!」

そして、彼はこちらを見たような気がしたが、視線がどこを向いているか分からなかった。
彩香はぐっと口唇を噛み締めて、呟いた。

「……不二くん、」

国光と同じ、青学の勝利の為に……なんだね。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


不二がサーブを打つも、不完全な状態のサーブは通じない。
強烈なフォアハンドの一撃は、不二の肩にぶつかった。

「ひ、ひでぇ!」

「野郎、わざとっ!!」

桃城が今にも飛び出していきそうに憤慨していた。
彩香が不安気に見つめているのをリョーマは視界に入れた。

「……彩姉、もしかして気付いてる?」

彩香に聞こえるように小さく口にするのは、切原に気付かれたらマズイからだ。
その言葉に彩香はくるっとリョーマを見つめた。その顔は青い。

「リョ、リョーくん……」

「……」

リョーマは彩香の隣に行くと、彼女の手を握った。
幼い頃、会った時から彼女の哀しげな顔は苦手なのだ。姉のように慕う彼女には笑っていて欲しいから。

「──彼に気付かれたら、」

「うん」

ボソリと呟く彩香にリョーマは頷いた。
そう、切原に気付かれたら、一気に弱点をついてくる。そうなったらいくら不二でも勝ち目はない。
またも、切原の痛烈なショットが不二の右腿に当たった。

<ゲーム切原! 1‐3!>

「13分経っちまった。その代償は、キッチリ払って貰いますよ」

彼は平然とそんなことを言った。視力の低下した不二は一方的にやられていた。

<ゲーム切原! 2‐3!>
<ゲーム切原! 3‐3!>
<ゲーム切原! 4‐3!>


「ふ、不二先輩がこんな一方的に……」

切原のペースに青学側は沈黙していた。

「見えないのによくやるねぇ」

「「──っ!」」

「マズイ! あいつ気づいておったか」

リョーマも彩香も驚き、竜崎先生は思わず声に出してしまった。が後の祭り。

「先生! どういうことですかっ?」

「不二先輩は、今何も見えてないってことですかっ?」

一年生が訊く中で、先生は仕方なく説明した。
さっきの頭にボールがぶつかったせいで、不二は一時的に視力が極度に低下してしまっていることを。

「そんな…」

「あと2ゲーム取られたら終わりなんスよ!」

沈黙がベンチを重たく包むなか、彩香はジッと不二を見つめていた。
それを見たリョーマはぐっと強く手を握った後、手を離す。こちらを向いた彩香の顔を見て頷いた。

「アップしときます」

黙々と柔軟体操を始めた。
彩香が見つめるその先を信じて。──不二先輩は勝つ。そして俺も勝つ。
そのとき、一方的な攻撃をうけていた不二が打球を打ち返した。
それに彩香はハッとして不二を見つめていた。

「か、返した?」

「馬鹿な!? サーブなら慣れで打てない事もないが、目の見えていない状態でリターンを返すのは不可能だ!!」

青学側も立海側も誰もがそう思っていた。しかしその予測を裏切るような一撃。

「まぐれっスよ!」

だが、その打球を切原が打ち返すも、不二は鮮やかに打ち返した。
よく見ると、彼は眼を閉じてボールの気配のみを感じとって打ち返していた。

(不二くん……眼を閉じてる。……凄い)

国光が言っていた。不二くんは得体の知れないプレイヤーだと。
2年の内に『青学 不二 周助』の名前は有名になっていたけれど、国光の眼には本当の力を出し切っているようには見えなかった、と。

(これが、不二くんの本当の力……)

試合はいつの間にか逆転してしまっていた。

<ゲーム不二! 5‐4!!>

「うおおーっ! スゲェ、不二先輩! 神懸かってるよ!」

だが勝ちへの執着が強い切原はラケットのフレームの先端をコートに擦らせた。
音で気配を感じ取るのを邪魔しているのだ。

<ゲーム切原! 5‐5!>
<ゲーム不二! 6‐5!>


試合は白熱し、切原の眼の充血が引いていた。

「「勝つのは──ボク/俺だ!」」

勝ちに執着する不二を彩香は驚いていた。彼は楽しんでいて、勝ちに執着出来ないと聞いていたから。

<アドバンテージサーバー>

いよいよ不二のマッチポイントになった。
青学も、また立海も互いにこんな戦いをする二人の姿を眼にするのは初めてだった。
そして、不二が仕掛けた時、彼は変貌した。切原が、不二の罷落としを放った。動きが不規則に変わり、色々な技を出していく。

「勝て赤也っ! 立海の関東優勝は、おまえの手で決めろっ!」

真田の声に、切原の身体が、ぐんと沈んだ。

「危ない! 不二ィーっ!」

「不二くんっ!」

痛烈極まりないスマッシュが飛んでいく。視力の弱った不二にあれを躱せるのか、と心配した。
不二の身体が反転し、薙払うようなバックハンドで受けとめるが、あまりの強さにガットが音を立てて切れた。
なんとか返すも切原はまた同じ攻撃をしてきた。

「不二先輩! フレームだっ!」

リョーマの言葉によりラケットのフレームに当て、強引に弾き返していた。
それでも切原は同じ体勢に入るも、手にはラケットが握られてなかった。ラケットはコートの中央に転がっていた。
この瞬間、勝負は決した。

<ゲームセット! ウォンバイ不二! 7‐5!>

「これで二勝二敗……」

喜ぶ青学ベンチの一年生たちは飛び上がって喜んでいる。
不二はベンチに倒れるように座りこんだ。

「ふー」

「よく見えないのに勝っちゃうなんて……!」

「さすが天才です! 不二先輩」

次々と声をかけていくなか、不二は微笑を浮かべた。

「いや……見えなかったから勝てたんだ」

「見えなかったから?」

「そう、極限状態で限界まで神経が研ぎ澄まされていたから…」

「不二くん、タオル」

聞こえた声と共に肩にタオルが掛けられる。ふと顔を上げた不二の目の前に、バサッと河村のもつ青学の応援団旗と、微笑する彩香の姿があった。

「格好よかった、不二くん!」

彼女にそんなことを言われ、不二も微笑した。

「応援してくれてありがとう、──倉橋さん」

そう、それに勝てたのは旗の中心に印された「青学」の文字と、応援してくれた、信じてくれた彼女がいたから。

「倉橋さん、約束守ってね」

試合前に約束した事を持ち出せば、彩香は「うん」と答えたのを見て、不二はまた微笑した。



To be Continued


あとがき

果たして試合内容は書くべきなんかい!と自分でも思いました。
次からはササッと終わらせたいですが、どーなることやら。
ただ試合を見てるだけなんでダイジェスト的にいきたいのに、凄過ぎるつーの!
夢主の出番がほぼない……すみませんです。


2009/06/30


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