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テニスの王子様

「フフ、久しぶりだね。倉橋さん」

そう目の前で言うと倉橋さんは少し驚いていた。
むしろ俺の方が驚きの度合いが大きい。まさか彼女が立海(うち)の学校の生徒だったなんて思いもよらなかったから。

「久しぶりだね、幸村くん……それと遅くなったけど、手術成功おめでとうございます」

彼女は直ぐに微笑んでそう言うものだから、俺は「ありがとう」と言った。
なんで手術が成功したことを知ってたんだろう……って此処にいるからか。

「あれ、彩香と幸村って知り合いなの?」

「うん、ちょっとね」

俺たちのやり取りを不思議に思った楓に聞かれると、俺たち二人は顔を見合せて、頷いた。

「でも手術成功したのは教えてなかったんだけど」

「あぁ、不二くんから聞いたの」

「不二? 不二って青学の?」

「うん。竜崎先生…青学の顧問の先生が真田くんから連絡が来たとか言って、それで不二くんがメールをくれたんだ」

にっこりと笑う顔に、ツキンと胸が痛くなるのは何故なのか。
不二…青学の天才、不二 周助
聞いた話では眼を閉じた状態で赤也と対戦し、勝ったという。青学で手塚に次ぐNo.2。

「ところで彩香、頬大丈夫? 結構腫れてるけど」

湿布に触れたせいか、倉橋さんが顔をしかめた。
やっぱり痛いのだというのがよく分かる。

「だ、大丈夫だよ、私こうみえても丈夫だし!」

「せっ、責任を取らせてくれっ!」

そう頭を下げて勢いよく言った真田に俺はもちろん、楓も柳も唖然とした。
責任? お前が言うとなんだかとんでもない気がする。

「えっと…気にしないで、真田くん。で、でも、今度からは話くらい聞いてあげて? 遅れるにしても理由があるはずだし」

「う、うむ。だが、わざとではないとはいえ女子を殴るとは、俺が許せんのだ!」

「だから……大丈夫だってば「駄目よ、彩香! ちゃんと弦一郎に償わせないと」…楓ちゃん」

二人のやり取りに楓が割って入った。楓は腫れた倉橋さんの頬に手を当てながら心配そうにしている。

「手塚くんが知ったら物凄く心配すると思うよ」

手塚? 一体なんの話だ?
意味が分からなくて後ろにいる蓮二に聞いてみた。

「蓮二、手塚とは青学の手塚のことかい?」

「ああ、倉橋は手塚とは従兄妹らしくてな。それよりも精市と倉橋はいつ会ったんだ?」

「入院中に何回か会ったことがあるんだ」

「ほう。倉橋の詳しいデータを聞くか?」

「ああ、後でお願いするよ」

そんな会話をしながら、倉橋さんと楓、真田のやり取りを見ていた。
責任云々は倉橋さんが別に言いというが、気が済まない真田は帰りに送っていくという事と、楓に言われたのかお詫びとして何か買う!という話になっていた。
フフッ、相変わらず、楓には頭が上がらないようだね。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「では申し訳ないが部活が終わるまで待っていて欲しい」

「あ、はい。すみません、なんだか」

そう言われて来た場所はテニスコートだった。
あの後、どうしても何かしらで責任を取りたいという真田くんに困っていたら、傍らにいた楓ちゃんが「じゃあ責任取って彩香を家まで送りなさい」と言った。
その為、私はいまテニスコートにて送ってくれるという真田くんの部活を終わるのを待っている。
ちなみに楓ちゃんも一緒だが、マネージャーさんと話をしてくると言って今はこの場所にいない。

(……それにしても…)

テニスプレイを眺めても、凄いとしか言いようがなかった。
小学生の頃から国光の練習はよく見ていたけれど、王者と呼ばれていた彼らはやはり強いということが分かる。

(勝った、んだよなぁ。青学……早く国光のテニスしてるとこ見たいな…)

未だ良くなったという連絡が来ないことを思うと、知らずにため息が零れた。

「どうかした?」

「っ! 幸村、くん……」

振り向けば、肩にジャージを羽織った幸村くんが横に座っていた。

「驚かせちゃったかな、ごめんね」

「ううん、大丈夫だよ」

両手を振りながら答えると、またフフッと笑われてしまった。
なんだか雰囲気が不二くんと似てるな、と考えていると幸村くんが口を開いた。

「まあ、驚いたと言えば俺もだけど……」

「?」

「まさかキミが立海(うち)の生徒だったなんて思ってなくて、凄く驚いた」

「私も、まさか病院で会った人が立海の人だったなんて思わなかったな。まあ、もしかしてっていう気持ちもあったけど。確信したのは、関東大会の時に、桑原くんたちの会話と楓ちゃんから聞いた話だったの…………テニス、また出来るようになったんだね────おめでとう」

そう、あの時もしかしたら。という予感は的中していた。
そしてテニスがまた出来るようになっていることに驚きながらも、よかったと思えた。
後は、国光の番だよ。そう願った。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「──テニス、また出来るようになったんだね────おめでとう」

そう微笑む姿に胸がドクンと高鳴った。

「っ、ありがとう…」

何故だかそう言うのが精一杯だった。

「……キミの、キミのおかげでもあるんだ。言ってくれただろう、信じてるって、だから本当にありがとう」

そう伝えると微笑して「幸村くんが頑張ったからだよ」と言ってくれた。
なんだかとても穏やかな感じなのに、胸の奥が動揺しているのが分かる。
こんな人と従兄妹だなんて、青学の手塚が羨ましくなる。

   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「倉橋のデータを聞くか?」

「あぁ。頼むよ、蓮二」

そう言うと蓮二はパラパラとノートを開いた。

「倉橋 彩香。3月16日生まれ、うお座。3年C組、華道部所属、家族構成は父、母、祖母の4人暮らし、手塚とは母方の従兄妹に当たるそうだ。2年の2月に青学からの転入、当時同じクラスだった沢渡とは親友、ジャッカルとも仲が良いらしい。成績は上の中または下あたり、暗記物は成績上悪くはないが、人物の名前、顔を覚えるのは苦手らしい。そして以前からD組の田代に付き纏われているようだ」

「……へぇ」

つい引っ掛かったのは『付き纏われている』という言葉。
そして、同じクラスだという事。名前を覚えるのが苦手というのは聞かされていたしね。

「気になっているようだな、精市」

「そうだね、かなり気になっているみたいだ」

「ふむ、ならば他にも色々と調べてみよう」

蓮二はそう言うとノートを閉じて歩いていってしまった。
口止めしなかったけど、彼ならそこいらは弁えているだろうから大丈夫だろう。

そして、ギャラリーにいる所を見かけて話し掛けたのだった。

「そうだ、幸村くんとは同じクラスなんです。今は授業がないから、2学期からよろしくお願いしますね」

「俺の方こそよろしく」

「席も隣ですし、2学期楽しみですね」

「え?」

彼女の言葉に思わず声が洩れた。不思議そうに見てくる彼女に聞き返してしまった。

「……隣の、席?」

「うん、席隣同士なの。あ、でも2学期は席替えあるからほんの少しだけになるね」

「……」

「どうかした?」

「ううん、なんでもないよ」

にっこり笑うと「そう?」と言って笑い返してくれた。
そろそろ練習に戻るから、と言えば「無理しないで頑張って下さい」と手を振られた。

「ありがとう」

そう伝えるとコートへと入り、練習の指示を出した。
隣の席、というのが無性に嬉しかったのと、席替えについて色々考えそうになったが、ようやく復帰出来たテニスに集中を切り替えた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


送ってくれるという真田くんと、楓ちゃん。そして何故か幸村くんと柳くん、切原くんまで一緒に来ている。
楓ちゃん曰く『弦一郎が彩香を襲ったら大変だから』直後、真田くんは『たわけっ!』と怒鳴った。
幸村くん曰く『部長として部員がやった事を見ておかないといけないからね』責任感が強いんだね、幸村くん。
柳くん曰く『家も近いようだし、気にするな』……ご近所はなんだか嬉しいけど、気になるよ、柳くん。
切原くん曰く『俺のせいでもあるんで…』とショボンとしながら言ってた。気にしてないのにな。
切原くんに関しては、マネージャーさんこと切原 紫(ゆかり)ちゃん(切原くんのお姉さん)がお詫びに荷物持ちをしろ!と追い立てられたようだ。
楓ちゃんの紹介で知り合ったけどすっごく美人だった。
漆黒の緩やかな髪はとても綺麗で、羨ましいと言ったら『私的には彩香のストレートの方が羨ましいよ』と言われてしまった。
紫ちゃんと呼ぶ代わりに、彩香って呼んで貰えるようで友達が増えて嬉しくなった。

「へぇ、それで引っ越しして来たんだ」

「うん」

転入の経緯を聞かれ、答えた。
なにやら柳くんには他にも色々質問攻めをされ、青学の乾くんを思い出す──知り合いなんだっけ?
色々話ながら、帰り道の途中で真田くんにお詫びだとケーキを頂いてしまった。

「送ってくれてありがとうございました」

家まで送ってくれた人たちに頭を下げると、幸村くん、柳くん、楓ちゃんは気にするなと言ってくれた。
真田くんは「本当に済まなかった」と詫び、切原くんも「すみませんでした」と謝ってきた。

「切原くんは気にしないでいいよ、私が勝手に割り込んだんだし」

「いや、赤也も謝るべきだよ」

「ああ、そうだな」

「ま、一番悪いのは話も聞かずに殴る弦一郎だけどね」

「ぐっ!」

楓のトドメにかなりやられたようだ。

「真田くんも気にしないで。大丈夫だし、ケーキもありがとうございました」

「いや、いいんだ。倉橋こそ気にしないでくれ」

「……じゃあ、もうチャラっていうことで」

真田くんに向かってにっこり笑うと「……あ、ああ」と言ってくれた。あのままじゃいたちごっこだったし、よしとしよう!
みんなを見送ってから自宅に入ると、流石のおばあちゃんもびっくりしていた。が腫れによく効く薬を塗ってもらったのだった。
明日は国光から連絡あるといいな、と思いながら一日を終えたのだった。



To be Continued



あとがき

もう訳が分からない話で申し訳ございません!
とりあえず幸村復活で、ヒロインに既に心惹かれていたようです。

しかし幸村の復活早過ぎねぇ?といつも戸惑っています。神の子だからなんでしょうか?


2009/07/18


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